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おまけ 倦怠期とか? ないんじゃない?
便利な世の中になったよね。
「かんぱーい!」
『『かんぱーい』』
ズーム飲み会なんてさ。
ちょっと音声が変だけど、まぁ、どんまいってことで。
俺だけ地方だからさ。
いつもは国見さんとオンラインでミーティングをしてる。次のシーズンの展開だったり、こっちで見つけた良さそうなデザイナーさんのことだったり。やっぱりメールや電話だけじゃ伝わりにくくて、たまにだけどこうしてズームで話してる。
で、そしたら汰由くんがファッションのことも教えて欲しいって、相談して来てくれて。そこから、じゃあズームでってなって、んで、そこに、新人? 若い子の教育係になった蒲田さんが新人教育とは、ってことで参加してきて。で――。
「はぁ、うまっ! ジンソーダ!」
オンラインで堅苦しくしてもね、って話になり、飲み会になった。
「そっちは? みんな元気?」
『はい。とっても。この前は成徳さんと今年初キャンプして来ました』
「おー」
『成徳さんにそこで焼き椎茸を食べていただきました!』
「おー、すごい」
河野の渋々顔が目に浮かんできて思わず笑っちゃった。
『俺、この前、義信さんと紫陽花を見に行きました! 義信さんが紫陽花すごく似合うので、写真、いいいいっぱい撮っちゃっいました。あ! それで紫陽花一株買ってきたんです。アルコイリスのお庭に植えたんですよ』
「そうなんだ」
今度写真を送りますって、汰由くんがにっこり笑ってる。きっと国見さんの方こそ、紫陽花をバックにした汰由くんをデレデレ顔で激写してるところが思い浮かぶんだけど。
どっちも、仲良い感じでよかった。っていうか、この人たち倦怠期とかあんのかな。なさそー。あはは。
『聡衣さんはいかがですか?』
「んー? こっち? こっちはねぇ」
まぁ、こっちも、倦怠期とか、あんのかなって。
「元気だよー」
なさそー、俺的には、って感じかな。
『よかったです』
蒲田さんがにっこりと笑ってる。
ね、倦怠期とかさ、今まで恋愛しててやっぱりあってさ。そんな時はちょっとした刺激とか欲しくなったりするし。味変じゃないけどさ、どっかデートで外出たーい、とか。
しないんだよね。
『聡衣さん、なんか、綺麗度が上がってる気がします! あのっ! 肌が艶々してる!』
「えぇ? そんなことないよ。フツーだけど」
『スキンケアって何してます? メーカー? とか、こだわりとかっ』
その瞬間、蒲田さんも重厚な革製の手帳を取り出して、メモしようとし始めたし。
「っていうかさ、蒲田さんは新人くん? どうなの?」
『はい! 元気にしています! あのですねっ、僕、実は……』
「?」
びっくりしちゃった。
「ええええっ、マジで? すごっ」
『はい。成徳さんが、はい、ここまでな、って仰って、こう……』
言いながら、渋ーい顔をして、まるでロボットがツッコミ入れるみたいに自分の前で手をスイングさせてる。きっと、絶対に、そんなじゃないんだろうけど、でも、蒲田さんの再現力の限界、かな? あー、でも、なんか想像できるかも。ふてぶてしいかんじでさぁ。偉そうに言ってそう。うんうん。
『そんなことがあったんですね! あのっ、俺もこの前、えとですね……義信さんに……実は』
こっちにもびっくりしちゃった。国見さんって、大人っ! って感じするけど、へー、ふーん、汰由くんのこととなるとそうも言ってられないんだろうなぁ。牽制するし、名前教えてあげたくないとか言い出すし、けっこうあれだよね。
「国見さんって可愛いとこあるんだね」
『ちょ! 聡衣さん!』
「えー?」
『い、いくら聡衣さんでも、俺! 義信さんだけは譲りませんっ!』
「あはは、大丈夫です。っていうか、国見さん、汰由くんしか目に入ってないから」
『ぇ……えへへ』
可愛くて仕方ないだろうなぁ。俺でも汰由くん、可愛いって思うし。蒲田さんも愛しいって感じだし。
そりゃ、二人の彼氏としては、それぞれ気が気じゃないよね。うんうん。
『もう俺、そんなことだなんて思ってなくて、慌てちゃって』
『僕も越前くんが好意を持ってくださってるとは思わなくて、驚きました』
『でも、ちょっとドキドキして嬉しかったです』
『僕もです。脳内が大騒ぎでした。まさか! そんなことはっ! って』
「あはは」
蒲田さん、結構飲んでそう。汰由くんも、平気かな。あんまお酒飲めないよね? 楽しくて、つい飲んじゃってる感じ? 今日って、河野と蒲田さんのとこで飲んでるんだよね? じゃあ、泊まってけばいいのか? あー、でも国見さんが迎えに来るか。それで、酔っ払ってる汰由くん見て慌てて抱っこしそう。
『聡衣さんは慣れてるから、そういう時、慌てなそうです』
「えぇ? 俺?」
『僕もそう思います。上手にかわしそうです』
「えぇ? あー……」
そうでもないよ。
「あはは」
全然、上手じゃないよ。むしろ苦手なんじゃん。好きって思い切り出すのも、出してもらうのもちょっと苦手でどうしたらいいのかわかんなくなっちゃうんだよね。
『今度! 上手なかわし方教わりたいです!』
『僕も、ぁ……でも、僕など、そう何度も好意を持っていただけるとかは』
『あぁ! あ、確かに、あ! じゃあ逆に、義信さんが盗られちゃわないようにする方法を』
『あ! 僕もそれはぜひ知りたいです!』
「え、えぇ? 俺?」
『『はい』』
本当はさ、全然だよ。そんな場面が来たら、慌てちゃうし、狼狽えちゃうし、きっと、すごく不格好になりながらしがみつくんじゃないかな。
「楽しかったか?」
「?」
「ズーム飲み会」
「うん、楽しかったよー」
「それはよかった」
二人ともなんか横恋慕があったみたいで、ヤキモチやいてもらえてドキドキしたんだってさ。
「……旭輝さ」
「?」
「倦怠期、来たら……さ」
じっと見つめられて、そわそわしちゃう。けど、言っておきたいなぁって。
「あとぉ、他に、なんか、ちょっと目移りしちゃいそうになったら、さ」
「……」
「あー、んー、んー……えと、まぁ」
倦怠期、俺的にはないんだけど、そんなのわかんないじゃん。だからね。
「なりそうになったら言ってね」
「言ったらどうなるんだ?」
「え? あー、うーん……そしたら、ギュッてしがみつく」
「……」
「一緒に、その……いたいんで」
「あぁ」
ギュッて抱き締めてもらって、深く、甘く口付けしてもらった。
「ン」
「まぁ、そんな心配いらないけどな」
「んな、っ、わかんないじゃんっ」
「わかる」
「わかんないでしょってば」
「わかる」
「……っぷ、あは」
断言してもらえて、胸が踊った。
「ね、旭輝」
「?」
色々あるんだろうけどさ。
「すごい好き……」
横恋慕があるかもしれないし、ライバル出現しちゃうかもしれないし、喧嘩することだってあるだろうけど、でも。
「俺も」
夜はギュッて一緒に寝て。
「好きだ」
朝は、パッと一緒に起きて。
一緒に、いたい、です。
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