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ヤキモチエッセンス 8 まぁ、結局、横恋慕は不可能よね。
束縛とか、ヤキモチとか、苦手。
嫌いとかじゃなくて苦手。
するのもされるのも。
嫌いとかじゃなくて、苦手。
だって、相手にだって色々あるでしょ?
っていうか、何より、自分が言えない。束縛とか、ヤキモチとか、可愛く、好感度高めにできる自信がない。
そう思ってた、んだけど。
なんか、なんかね。
「おい、聡衣」
いや、そのさ、なんていうか、まぁ、テンションが。
――ちゃんと、俺だけ見ててよ。
「おい、俺も同じベッドで寝るんだが?」
――俺の、だもん。
「おーい」
だもん、って何? 何、それ、可愛い感じに言っちゃってんの? ちょっと、ねぇ自分。
テンション高いって、こっわ。
甘く言えっちゃったのがこっわ。
自分で言っちゃったんだけど、なんか、もう、過去の自分が見たら、本当にどうしちゃったの? って、今の俺の肩鷲掴みにして、グラグラ揺らしてくると思う。そのくらい。
甘ったるい感じ。
「…………」
「なんだよ。布団に入れてくれないのか?」
「…………」
この。エリートイケメンのせいだからね。
「おい、聡衣」
「……」
「真っ赤」
真っ赤にもなるよ。俺のだもんってなんなの。っていうかその後だって、山ほど恥ずかしいとこと言いまくった。
放送禁止用語にしちゃってもいいんじゃないってくらい。でも、それも全部、旭輝がかっこ良くて、素敵で、もう他をどんだけ探したって見つからないくらいにいい男だからで。
俺のせいじゃないんで
「……はい」
もちろん、ぎゅってなんてしないから。そんな甘えてるようなの、しませんってば
絶対に。
「!」
「あったかい」
けど、まぁ。
「……ソーデスカ」
抱き締められるのは、別に、かまいませんけど。
「一生、聡衣だけを好きだ」
「! ぎゃあああああ、いいからっ、今、言わなくてもっ」
「聡衣しか」
「ぎゃああああああ!」
こっちは恥ずかしくて、蒸発しそうなのに、何呑気に楽しそうに笑ってんの。あははは、なんて、職場の人は見たことないだろうってくらい、嬉しそうに口開けて笑ったりして。
ほんと……なんか。
「それより、聡衣こそ、俺だけ見てろよ」
見てるよ。っていうか、他に目、行かないんですけど。どうやったって、旭輝の方にしか顔が行かないんですけど。
「あと、その可愛い赤面、俺の前でだけな」
「! か、可愛くないってばっ」
赤くなってるのは旭輝のせいでしょ。そう腕の中で反論すると、ギュッと抱き締められたまま、頭上で「あぁ」なんて呑気に笑ってるのが聞こえた。
はっずい。
「っ」
だから、ギュッてこっちもしがみついて、真っ赤になってたって、照れくさくてどんな顔したらいいのかわかんなくても、ぜーったいに顔が見えないように。
もう、ぜーったいに見られないように、旭輝の胸に顔を埋めて隠れた。
「……苦しくないか?」
「っ、隠れてんの!」
「……なるほど」
そう言って、また小さく笑いながら頭を撫でられて、もっと真っ赤になって、もっと照れくさくなって、そのままギュッと目を閉じた。
「んもおおおっ! 本当にごめんなさい! 聡衣さんっ」
バチン! と激しい音を立てて、両手を合わせたサチちゃんが、ギュッと目を瞑った。
「大丈夫だよー。っていうか、サチちゃんなんも悪いことしてないでしょ」
「した! ちょおおおお、した! もう彼氏さんに本当に面目ない!」
若い子でも「面目ない」なんて使うんだ。
「まさか先生が聡衣さんの元カレだったなんてぇ」
「あー、あはは」
サチちゃんがまたお店に来てくれた。咄嗟に直樹もいるのかと身構えちゃって。すごいよね。女の子って。勘がいいっていうか。どうしたの? って心配されて、それで、まぁ、色々と……。
「今度、先生には言っとく! 聡衣さんには超スーパーイケメンの彼氏さんがいるから邪魔しちゃダメだよって」
「あはは」
超とスーパー同じ意味だけど。
「でも、大丈夫だよ。俺からも、これ、見せてるし」
ひらりと手のひらを振って見せれば、パートナーがいるって主張しまくる指輪がきらりと光る。
その指輪にサチちゃんが黄色い悲鳴をあげて、バンバンってカウンターのテーブルを叩いてはしゃいでくれた。
「だよねっ、もう聡衣さんと彼氏さんの間に入れる奴なんて、絶対にいないよぉ。いいなぁ。私も、そんな相手欲しいぃ」
「あはは、この間はファッションが彼氏って言ってなかったっけ」
「だって、聡衣さん、いっつも幸せそうなんだもん。肌艶々だしぃ」
「!」
「どんなスキンケアしてんだろーって」
じーっと見つめられて、あはは、と笑って誤魔化した。けど、なんも特別なことはしてない。普通に、一応、化粧水と乳液くらいはつけるけど。まぁ、それもたまに。
――聡衣、このままベッド。
たまぁに、忘れちゃうけど。
一応はね。旭輝にいつまでも、まぁ、なんというか、好かれたいっていうか。だから、肌でも髪でも、一応はね、気をつけるっていうか。
「! んな、なっ、何、今のっ、超可愛かった! 何今の表情!」
「し、してないってば!」
「したした! すっごい可愛かった。これは……彼氏さん……危機感募るよね。そりゃ、お迎えに来ちゃうよね」
「え?」
「てか、ごめんね。閉店間際に来ちゃって。課題が終わらんくてさぁ。また来るね!」
サチちゃんが風でも巻き起こしちゃいそうな勢いで手を振ってくれた。
「……んもぉぉ、仕事平気?」
「あぁ」
そのサチちゃんと入れ替わるように旭輝がお店に来てくれて。
「迎えに来るって言ったろ」
まるで、王子様じゃん。スーツにスプリングコート。ピカピカの革靴に、爽やかなブルーのネクタイ。
俺もスーツでさ。これからおめかしして二人でどこ行くの? って感じ。
「ありがと。じゃあ、お店片付けるからさ」
「あぁ」
ただ家に帰るだけなんだけどね。
「さっきの彼女、何をはしゃいでたんだ? 店の外から見てたが」
「んー? あぁ、あれ? あれは」
ただ二人で一緒に。
「旭輝のこと思い出してる顔が可愛いって褒められてた」
「!」
「っぷ、あはは」
仲良くうちに帰るだけなんだけどね。
「さ、帰ろっか」
「……あぁ」
手を繋いで、一緒に、ラブラブで、帰ろっか。
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