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Chapter3-4※
「しっかりと解れたと思うが、痛かったら言ってくれ……」
早苗の窄まりに京介が熱く昂った男根を押し当て滴る蜜を絡め取り、指とはまるで異なる質量のソレがゆっくりと押し入ってきた。箍が外れた発情期の時の行為とは全く違う快感に早苗は身を震わせる。
「あ……くっ……ぅ……」
内側から押し広げられる圧迫感は微かな痛みと、それを凌駕する快感をもたらし早苗は息を詰める。発情期の時の後孔は雄を迎える準備ができているため、京介ほどの立派なモノを受け入れることは容易なのだが、発情期でない時はどんなに丁寧に下準備をしたとしてもそうやすやすと受け入れるものではないらしい。
「痛くはないか?」
「……大……丈夫です」
「なら少し動くぞ……」
早苗に覆い被さり、首筋に顔を埋めた京介が腰をゆっくりと前後に揺らした。
「……んっ……あぁ……」
脳天を貫くような快感に耐えきれなかった早苗の指先に力が入る。
「……早苗の匂いで、理性が溶かされそうだ……」
うっとりとした表情の京介がそう言って、早苗の唇を食む。こんな表情の京介を見るのは初めてかもしれないと思ったら、早苗の憂鬱が堰を切ったように溢れ出した。
京介との行為でこんなにも、宝物を扱うように抱かれたのは初めての経験なのである。そもそも、発情期以外で、京介に抱かれた記憶は数回しかない。しかも、それはまだ付き合いたての頃の話で、最中もお互いに遠慮があったような気がする。
断片的に覚えている発情期中の行為も、こんなに甘いものはない。今考えてみると、早苗の熱を抑えるための治療染みた行為だったようにも思える。
なら、早苗が京介にこんなにもどろどろに甘やかされる行為は経験したことがあっただろうか。――ないのである。
早苗は京介を誘ったとき、『京介さんとの最後の思い出が欲しいな……』くらいの軽い気持ちであったが、快感に呑まれて生まれた感情は後悔だけだった。何故なら、京介に快感を与えられるたびに、早苗の脳裏に伊織の存在がチラついたからである。
発作を起こした伊織の元へ行って京介が何をしていたのか、早苗は本当は全部気がついていた。知っていたが、傷つくのが怖くて、事実から目を背け、『ありのままの自分を受け入れてくれるのは京介さんだけなんだ』と縋り続けてしまったのである。
京介はありのままの早苗を受け入れてくれていたわけではない。ただ、早苗のようなオメガが彼にとって都合が良かっただけに過ぎないのだ。
だから、京介が発作を起こした伊織の元に行くのを許容しろなんてことを簡単に言えるし、それで放置された早苗に対して謝罪の一つもないのだ。
改めて、自分が惨めに思えて早苗は泣けてきた。
「どうした?」
目から溢れた涙が京介の頬へと流れで行ってしまったらしい。早苗が泣いていることに気がついた京介は顔をあげ、早苗の頭を撫でながら涙を舌で掬い上げた。
本当に、優しさを装うのが上手だ。
早苗は何でもないと首を横に振った。
「痛いわけではないんだな?」
頷いて答える。身体は別に痛みより快感が強いからまるっきり嘘というわけではない。
「そうか……なら、もうすこし大きく動くからな……」
さっきよりも抽挿が大きくなり、最奥をノックされる度に早苗の喉から「あっ……あっ……」と声が漏れた。羞恥に悶える早苗の嬌声を聞いた京介は抽挿のスピードをさらにあげた。
激しい水音と匂い立つフェロモンで早苗は殆んど理性が飛びかける。
「……あぁ……い、いくっ……」
「俺も……っ!」
京介の男根がびくびくと大きく痙攣すると、吐き出された精の熱が早苗の胎の中を満たした。なだれ込むように行為が始まったせいで、コンドームのことなど一切頭から抜けていた。
京介のものが引き抜かれると、柔らかくなった孔からどろりと白濁が溢れた。
京介が慌てて枕元のティッシュを数枚取り、垂れてきた白濁を優しく拭き取る。
腹にはまだ、京介がいた時の圧迫感が残した甘い痺れが残っている。
「体に辛いところはないか?」
「はい、大丈夫です」
「それなら良かった。少し休んだら一緒にシャワーを浴びよう」
部屋はそれほど暑くないのに、2人とも汗ばんでいる。京介の前髪の先に汗の雫ができていたので、早苗は手のひらで拭った。
体力が回復するまでのしばらくの間、早苗は京介の胸板に顔を埋めていた。
彼の体温が心地いいが、『発作を起こした伊織を慰めるときはこんな抱き方をしているのだろうか……』などと余計な思考が脳内をぐるぐると巡っていた。
(こんな虚しい気持ちになるくらいなら、抱かれない方が良かった……)
狭いバスルームでシャワーを浴びた後、京介か鞄の中からベルベットのリボンが巻かれた箱を取りだして早苗に差し出した。その箱に早苗は見覚えがあった。
「あの……これは?」
「恋人になってから随分経つというのに、俺は早苗に何も意思を示していなかったと思ってな。開けてみてくれ」
中身の予想も容易だった。
早苗はゆっくりと箱を開く。
「これは……」
想像通り、その箱に入っていたのはエンゲージカラーだった。
「俺の気持ちだ。受け取ってくれると嬉しい」
(どんな気持ち?)
早苗は京介が示した気持ちを素直に受け取ることが出来なかった。京介が早苗に渡したエンゲージカラーは、早苗のことを考えて選ばれたものには思えなかった。
デザインは早苗の普段着と合わせた時に浮いてしまうし、装飾の要となっている宝石が早苗の誕生石でも、京介の誕生石でもない。石言葉で選んだと言われれば納得できないこともないが、早苗の記憶が正しければこの宝石はあの小松兄弟の生まれ月のものだ。
このエンゲージカラーは早苗より伊織が着けた方が似合う……そう気がついた時には、早苗の目から涙が堰を切ったように流れていた。
(どうしてこんなに惨めな思いをさせられないといけないんだ……)
京介は早苗が嬉しさのあまり涙を流していると思ったらしく抱きしめてきた。振り解けば良かったのかもしれない。けれど、早苗には京介の腕から抜け出すほどの気力も残っていなかった。
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