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第22話
殴られた拍子に口の中が切れた。
錆びた味がする唾を吐き捨て、ダークが罵倒する。
「教会のガキども助けにくるなんてヒーロー気取りやな、けったくそ悪いわ」
倉庫の屋上には若い狙撃手が伸びていた。
モスグリーンのモッズコートを扇状に広げ、無防備に倒れた様は撃ち落とされた鳩さながらで、狙撃中に発現した真紅の眼光と殺気は消失していた。
狙撃手に歩み寄り、弟からライフルを受け取る。
スナイパーライフルは重い。
狙いがブレないようにしっかり支えるには土台の肩を鍛えなければいけない。
ガワは優男でも根性あるやんとほんの少し見直す。どうせ戦うなら強い方がいい、そのほうが歯ごたえがある。
「仲間はおらんのかい?ホンマに一人で突っ込んできたんか、わけわからんドアホめ」
「おどれと同じ死に急ぎやな」
ダークはいらだっていた。負けず嫌いな片割れは、高所に陣取った狙撃手に踊らされたのが悔しいらしい。
試しにライフを構えてスコープを覗く。
コンクリ張りの駐車場は暗闇に包まれて視界が悪い。この距離と位置から煙草を撃ち落としたなら、まだまだ粗削りにしろ凄腕だ。
狙撃手の実力をシビアに評価するゴーストの耳に、あっけらかんとした声が届く。
「どないするビッグブラザー、殺しとくか」
大股開きにしゃがんだダークが、失神した狙撃手の顔を真上から覗き込む。
舌なめずりする顔に下劣な笑みが浮かぶ。
また悪い癖が出た。ゴーストはため息を吐く。
「腹減ったんか」
「まだ遊び足りひん。ビッグブラザーかてせやろ、せっかくノッてきたのに。絶頂前で寸止めはキビシーわ」
「遊ぶんはええけど、ガキどもモーテルに移してからにせえ」
「仕事はちゃんとするから安心せェ、それでこそご褒美の旨味が増す」
ダークが前髪を掴んで持ち上げ、なめるように品定めする。
どうやらこの不運で不幸な狙撃手は、加虐心のかたまりのような片割れに気に入られてしまったようだ。
ダークは兄と同じて強い敵が好きなのだ。
より正確を期すなら強い敵を屈服させ、みっともなく命乞いさせるのか。
「あー、なんか火照ってもた。久しぶりにひと暴れしたからな」
「ここで脱ぐなアホ。ちんちんぶらぶらダンスは中でやれ」
鋲を打った黒革のジャケットをだしぬけに脱ぎだす弟に、渋面で注意を飛ばす。
ダークの顔は生き生きと上気していた。敵をぶちのめした直後で興奮している。
「ええやん誰も見とらんし」
「お前がどこでも見境のォさかるから赤っ恥かいたん忘れたんか」
「昔のこっちゃろ」
「デバガメのオッサンもドン引きじゃ」
あれは数年前、二人がまだ駆け出しの頃、組合から派遣された賞金稼ぎと組んだ。名前は確かマッドドッグ・ドギーとかいったか……あばた面の醜男だ。
ゴースト&ダークネスはボトムのモーテルに潜伏したケチな強盗を張り込んでいたのだが、突入を目前にして殺気立った弟がのしかかり、共食いするようにヤッているところを仮眠から目覚めたドギーに見られてしまった。
ゴーストの発言にダークは鼻白む。
「ビッグブラザーが命乞いする強盗を叩き斬ったからやろ」
「何も殺すことないとかヌルい寝言ほざきよったな」
「そもそも俺たち二人で十分やった」
「オッサンは保険や。いざって時は切り捨てたらええ」
口を尖らすダークを招き、猛獣使いの手付きで短髪をかき回す。
機嫌を直したダークが兄に甘え、腰に手を滑らせる。
どちらからともなく抱き合い、唇を貪る。いやらしく唾液を捏ねて舌を絡め、気分を上げていく。
「挟んで嬲るの楽しみやな、ビッグブラザー」
「せやなリトルブラザー」
ゴースト&ダークネスは生粋の肉食獣であるからして、狩りの前と後は昂ぶってしかたない。
狩猟と捕食は不可分の本能だ。
戦闘で血が滾れば女の柔肉が欲しくなり見当たらなければ男を犯す、男もいなければ共食いだ。わざわざ娼婦を呼ぶのはまだるっこしい、何が何でも今すぐ食いたい。
ずっとそうしてきたしこれからもそうしていく。
悪食でもゲテモノ食いでも、世間には好きに呼ばせておけ。
男色や近親相姦をタブー視する倫理観や道徳観念はゴースト&ダークネスに存在しない。
この世は弱肉強食、弱いものから狩られて食われる。骨の髄までしゃぶられる。
「人間は肉と穴でできとる。穴さえあればぶちこめる」
「お残しは許しまへんで、か」
ダークがうっそり笑い、ゴーストも静かに同意。
レイプは力の誇示で射精はマーキング、手強い敵ほどそそられる。
たった一人でゴースト&ダークネスと立ち回り追い詰めた、この狙撃手なら食べ甲斐がありそうだ。
戦利品として敵の肉を喰らい、うまし糧として取り込み、さらに強く雄々しく生まれ変わる。それが裏社会で生きる双子の揺るがぬ信仰、仔殺しの蛮習を生き延びたライオンの番の宿命。
ゴースト&ダークネスにとって唯一の正義はおのれの腹を満たすこと。
「ふんじばって部屋に転がしとくか」
哀れな狙撃手の運命は決まった。即ち、嬲りもの。
「クスリの量多すぎたんちゃうか。へろへろやで」
「油断誘っとんのかも」
「そんな頭よさそうに見えるか、コイツが」
ドラッグの静脈注射から数分後、劇的な変化が訪れた。
目の焦点は次第に虚ろになり、弛緩した口元から涎を垂れ流す。
うわごとで何かを喋っているが、呂律が回らず不明瞭な上、小声すぎて聞き取れない。
「無駄遣いはもったいないで」
細身の注射器を床に捨て、ゴーストが呟く。
「実験の過程でできたドラッグを安値で卸してくれるんは助かるけど」
「治験の手間省けて一石二鳥やろ」
「ファントムペインの残りかすやろ、要は」
狙撃手に打ったドラッグは知人からもらったものだ。
大手製薬会社のCEOで、ゴースト&ダークネスの雇い主といえなくもない男。
「ぎょうさん盛りすぎると心臓が止まってまうらしい」
「イレギュラーの心臓は頑丈にできとんのやな」
招かれざる捕虜の命は安い。ヤッている最中に心臓が止まっても別にかまわない、腹上死で逝けるならマシな方だ。
「スワロー……」
「だから誰やそれ、別の男の名前呼ぶと萎えるわ」
背後から犯しながら髪を掴んでどやすダーク。ごぷごぷイマラチオを強いながら、ゴーストはだしぬけに思い当たる。
「ひょっとしてストレイ・スワローか?」
「バンチに載っとる野良ツバメか。って待てや、コイツの男なんか?」
腰の動きを鈍らせてダークが仰天、一面汗に濡れた狙撃手の背中が硬直。
「口ぶりからして身内……弟やろ」
「兄貴がおるなんて初耳やで、ぱっとせんし」
「男前の身内が男前て法則もない」
ダークが抽送を再開、尻を激しく責め立てる。ゴーストは顔を掴んで荒っぽく抜き差し、喉が収縮する快感に息を荒げる。
「ンぐっ、んっぐ、ふっウぅっ」
もはや喘ぐ体力を果たしたのか、時折苦しげに呻くだけだ。もっとも口に詰め物をされていては声も出せまい。
しっとり湿ったピンクゴールドの髪の下、瞬きも忘れて呆けた瞳。
頬を伝った涙は乾き、痛々しい放心の表情が張り付く。
「っ、出る」
ゴーストが一際強く狙撃手の顔を押し付け口内射精、狙撃手が激しく噎せる。
口の中で果てたペニスを抜き、前髪を掴んで聞く。
「お前、ストレイ・スワロー・バードの何や」
「げほっごは」
顔中の穴から汚い汁を流して咳き込み、辛うじて瞼を開く。
涎と洟と涙と汗と精液とで、ぐちゃぐちゃに歪んだ顔に反骨精神が宿る。
「ヤング、スワロー、バードだ」
正面のゴーストを|赤く輝く瞳《ピジョンブラッド》で睨み、意志の芯を通した声で宣言。
「|ストレイ・スワロー《野良ツバメ》じゃない……ヤング・スワロー・バードだ。言い直せよ」
それが本人にとってさも重大なことであるかのように、くり返す。
「稼ぎ名なんてどうでもええやろ、ストレイ・スワローのがメジャーやし」
「!ぁうううっ、ぐ」
ダークが手を回し、意地悪くタグの板を弾く。
鎖がギチギチに食い込み、赤黒く血管が浮いたペニスは今にも破裂しそうだ。
「どうでもよくない……アイツはヤング・スワロー・バード、俺の弟だ……」
「種違い?腹違い?全然似てへんな。ストレイ・スワローもこんな感じやすい体しとるんか」
「目の色だけおそろいか。抉って弟に送り付けたるか」
「やめてくれ、アイツを巻き込むな。俺、は、どうなってもいいから……子供たち、みんな帰して。待ってる人がいる、んだ」
「その理屈でいくと待ってるヤツがおらんガキはどうなってもええんやな」
狙撃手の目に怒気が炸裂する。
「俺、が、待ってる。待ってる家族がいなくても、俺が全員無事に帰ってきてほしいって願ってる!」
ドラッグの影響で虚実がごちゃごちゃだ。現実認識能力が著しく低下している。
「母さん……と、約束したんだ……スワローを守ってねって」
童心が息を吹き返した透明な表情で呟く。ストレスの極みの現実逃避で過去の記憶がぶり返しているのか。
狙撃手の視線が忙しなく左右に移動し、次いで上に滑る。瞬きも惜しみ、何かを追っているような眼球の動きの違和感。幻覚症状か。ドラッグの影響で存在しないものを見ているのか。
「出してやって」
「だから何を」
「ツバメだよ……肩を掠めて飛んでったろ」
天井付近を、壁の上方を、あるいは床を水平に。
狙撃手が幻視したツバメは、荒廃しきったモーテルの部屋中を飛び回っているらしい。
自由に、気持ち良さそうに。
コバルトブルーの翼を流線形に閉じて垂直に壁を上り、鮮やかに滑空から旋回に移行し、狙撃手に救済の笑顔をもたらす。
「変だな、季節じゃないのに……通気口から迷い込んだのか」
手錠をかけられて伸ばせない手の代わりに前のめり、一心に、食い入るようにツバメの飛行を見詰め続ける。
モーテルの狭い部屋、酒瓶や空き缶が累々と転がる床、スプリングが壊れて綿がはみでたソファー、見えざるツバメを追いかけて視線がめまぐるしく移っていく。
「おいで」
優しく潤んだ声で招く。
「よそ見すな」
「!ぁあっ、ンぁっあ」
再び凌辱が始まる。今度はゴーストが背後に回り、立ち替わり入れ替わり狙撃手を犯す。
前と後ろを犯されている最中も狙撃手の目はツバメだけを追っていた。
ゴーストは唇をなめ、ダークは犬歯を剥き、狙撃手の体を使って自慰をする。
ゴーストの怒張がアナルにずぷずぷ埋まり、前立腺を容赦なく突いて快感を巻き起こす。ダークの怒張がずぷずぷ口腔に沈み、情け容赦なく喉の粘膜を突いてえずかせる。
「けはっ、ェぐ、ぁぐ」
「はっ、すご、よォ締まる喉マンコサイコーや」
「こっちも馴染んでええ具合や」
「体の中も外もめちゃ熱いわ、溶けてまいそ」
「ストレイ・スワローともヤッたん?できとるんか?」
「ぁっ、あンっ、ぁっあっあ」
体重を支える肘と膝が擦り剝け、無理な体勢に筋肉が攣る。壁の向こうで子供たちが泣き叫ぶ、狙撃手の身を案じてしきりに状況を尋ねる、ゴーストとダークは汗みずくで獲物を嬲り尽くす。
「ええこと閃いた」
「ンむッ、は……」
唾液の糸引くペニスを引き抜き、ダークがやんちゃに笑った次の瞬間―……
「バン!」
狙撃手の視線の先に正確に狙い定めて、いるはずのないツバメを撃ち抜く。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッあぁ」
反応は激烈だった。
「なんで、やだ、死ぬな」
「バンバンバン!」
さらに撃ちまくってとどめをさす。
コバルトブルーの羽が飛び散り、ヤング・スワロー・バードがまっさかさまに墜ちていく。
「可哀想に。お前が殺したんや」
ダークが人さし指の先端をニヒルに吹く。
「俺、が?」
オウム返しに自問する狙撃手の傍ら、跪いて追い討ちをかける。
「目ん玉の動きでどこにおるかバレバレ。誘導おおきに」
「違……」
床に落ちたツバメの死体がみるみる等身大の少年へ変わっていく。
イエローゴールドの髪に埋もれて顔は見えないが、完全に死んでいるのが直感でわかる。
『スワローを守ってね』
スタジャンの片袖を抜き、黒いタンクトップで申し訳に肌を覆い、コバルトブルーの翼を畳んだ亡骸が目の前に横たわる。
細首に絡む鎖の先端、床に放り出されたシルバーのドッグタグ。
弱々しい首振りが下半身に震えを伝え、カチカチとタグが鳴る。
「殺してない。逃がそうと」
「約束破ってもたな」
言い訳が途絶える。
手が使えるならツバメの亡骸に縋っていたが、それさえできない。
ただただ壊れたように目を見開き、弟の分身のようなツバメが撃ち落とされ息絶える、一部始終を網膜に焼き付けた。
「おかんもがっかりや」
「スワロー、やだ、おいてくな」
「翼がへし折れちゃ二度と飛べん」
「あっ、ぁあ」
幻覚に取り憑かれて精神の均衡を崩し、スワロースワローとくり返し叫び続ける狙撃手のアナルをゴーストが割り開く。
「そろそろイケるやろ」
長時間の肛虐で真っ赤に充血し、弛緩しきったアナルにゆっくりとペニスが出入り。
「幻覚を鵜呑みでマジうける」
ダークが兄の横に並び、力強くしごきたてたペニスを挿入していく。
「!!ぁっ、ぁ」
「ぐっ……キツ……」
「中ギュウギュウに詰まっとる」
腹が破けそうな圧迫感に息もできず、下肢が裂かれる激痛に悶え苦しむ。
既にゴーストのペニスが入った直腸に、みちみちと窄まりをかき分けダークのペニスがねじこまれる。
限界まで引き伸ばされた媚肉。内臓を圧搾される感覚。
「ぁあ~~~~~~~~~ァあっ」
「ハあっあ、すご、中で膨らんだ」
ダークが熱い吐息を漏らし、顔を斜めにずらしてゴーストと舌を絡める。
「中で擦れてめっちゃ気持ちええ」
「もうちょい我慢せえ」
血流に乗じて全身に巡ったドラッグが性感を鋭くする。
臓物を搾られる痛みは薄らぎ、隙間を埋められた充足感へ取って代わる。ぴちゃぴちゃと卑猥な音が響く。
ゴーストとダークが互いの口を貪り合い、激しく吸い立てる音だ。
「ぁはっ、そこ、すごっ!めっちゃ元気やん」
「お前かてさっきよかデカくなっとる」
双子が腰を使いだす。
直腸を埋め尽くす二本のペニスが互いに押し合いへし合い、凄まじい勢いで前立腺を押し潰す。
「ぁっあ、やっ、ぁあっあ、ふぁっンあ、ぁっあ、抜いっ、ぁあっ」
二本挿しの責め苦に泣いて喘ぐ狙撃手を無視し、肛虐の愉悦に溺れる双子。
中でペニスが擦れる刺激が遡り、凶暴な笑みを横顔に剥きだしてゴーストがわななく。
「ッく、きく」
目尻に艶っぽく染めた兄を一瞥、じゃれかかるように首筋を吸い立てる。
「余裕のうなっとるん?イく時は一緒やで」
「わかっとる」
ザラ付く舌で喉仏をくすぐられ、負けじと顎をなめ返す。
「ぁっあ、あっあ、ンあっあ、ふぁっ」
「忘れとった、お前も出してやらな」
腰遣いが勢いを増し射精欲が高まっていく。
ゴーストが狙撃手のペニスに絡んだ鎖を引きちぎると同時、背中が大きく仰け反って痙攣が襲い、ペニスを食い締められた双子がぶちまける。
「ぁあ―――――――――――――――――ッ!!」
塞き止められた精液が爆発するかの如き勢いで撒かれ、狙撃手の髪と顔、胸板を汚す。
不規則に痙攣するペニスからビュッビュッと飛び散る白濁はまだ止まず、鈴口から尿を噴射し、アンモニア臭が一面に立ち込めていく。
「ブーツにかかった、最悪」
「もらすほどよかったんかい」
じょばじょば派手な音たて大量の尿が迸り、床に敷いた下肢を濡らしていく。
「あふ、ふぁぁっ、止まんなッふぁ、まだ出るッ」
放尿がもたらす虚脱感すら性的刺激に繋がり、全裸でピク付く狙撃手に這い寄り、顔を掴んで舌を絡めとるダーク。
「っは、はふ」
反対側からゴーストが忍び寄り、自分の方に顔を向けさせ、競うように口付ける。ピチャピチャ、唾液を捏ねる音が二重に耳を犯す。奪われては奪い返し、互いに顎をひったくってディープキス。
ゴーストが唾を吐いて顔をしかめる。
「ザーメンの味がする」
「ジブンのちゃうの」
「いてこますぞわれ」
ゴーストとダークと狙撃手の舌が複雑に絡み、口の粘膜を刺激しあっていると、再び体温が上がっていく。
「ふぁ、ンぐ、ぁっふ」
右はダーク、左はゴースト。服を脱いだ双子に挟んで嬲られ、右に左に気まぐれに顔をねじられ、交互にもてあそばれる。
夜はまだ、当分明けない。
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