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Jam session
「まーた頼んだジャムの銘柄間違えたろ!」
昼下がりのアパートの一室、散らかったキッチンにて。
買い物を済ませて帰宅したスワローの紙袋の中身を一つ一つ確認し、棚や戸棚やカウンターへ選り分けていたピジョンがいちごジャムの瓶を掴んでお説教をはじめるのに、椅子で寛ぐ弟は「あー?」と生返事でとぼける。
「ジャムなんてなんでもいいじゃん、味おんなじだろ」
「全然同じじゃない、果肉のでっかい小さい甘さ控えめ糖分控えめとかあるし。お前は味音痴だから気にしないだろうけど」
「知るか。じゃあ自分で行け」
テーブルに足を放りだし、はや興味の失せた顔であくびをするスワローに眉を吊り上げたピジョンが食ってかかる。
「これがうちで使ってるジャム、こっちがお前が買ってきたの。全然違うだろ?」
「だからわかんねーよ」
「ここ見ろここ」
戸棚の使いかけのジャムと未開封の新品を比べ、蓋の端を指さす。
底を尽きかけた瓶の蓋にはシールが貼られている。
スワローは鼻面に皺を寄せる。
「……何これ」
「30点集めると皿がもらえるんだ」
何故だか得意げに胸を張り、嬉々として説明を付け加える。
「ただの皿じゃないぞ、マグニチュード9の地震で落っこちても割れない特別製の皿だ。最高峰の職人が一点一点手がけるメイドインIMARIで気に入らないと叩き割るから出回ってる完成品はレア中のレア」
「傍迷惑なこだわりの匠だな。破片鋳溶かして再利用しろよ」
「普通に買ったらすっごい高価だけど、このメーカーの商品に付いてるシールを集めると無料で引き換えてくれるんだ。フリスビーにして遊べる、手裏剣にして泥棒を撃退できる、天井に吊るせば蛍光灯に代用できる、攻めと防御を全方位兼ねた優れものだ」
「防弾仕様の皿?頭大丈夫か?」
「油を弾く素材でできてるから皿洗いが超らくちん、固くてまんまるい主婦の味方」
「特殊加工?」
「匠の技だよ。マスターIMARIはすごいんだ」
会話が噛み合わない。スワローは兄の頭を本気で心配する。だがピジョンは大真面目で、シールを30点集めるともらえるというふれこみの、幻の皿の素晴らしさを熱弁する。
口を開けば倹約だの節約だのみみっちいことしか言わないピジョンが、特定のメーカーの商品にやけにこだわるのはそういうからくりか。
「別銘柄は足しにならない……せっかくあと一歩だったのに」
ピジョンが残念そうに呟き、丁寧な所作で台紙を開く。
あらかたシールで埋め尽くされて空欄は二個を残すのみ。ズレたりはみでたりせず、全部まっすぐ几帳面に貼ってあるのがピジョンらしい。
「貸せ」
「あ」
力ずくでひったくった台紙をしらけた表情で凝視、無造作に握り潰してポイ捨て。
「あ゛ーーーーーーあ゛ーーーーーっ!!」
ピジョンがスライディング正座。床に転がる紙屑を広げて均し、くりかえし吐息をふきかけて皺を伸ばす。
弟の無体で理不尽な仕打ちに兄は涙目だ。
スワローは椅子にふんぞり返ってあくびをする。
「息吹きかけんのいらねーだろ」
「なんてひどいことするんだ、質素倹約がモットーで火の車の台所預かる俺の気持ち考えろよ!」
「ティーパック最低三回使い回す渋ちんが、ちまちま貧乏くさいことしてんじゃねえよ。やりくり上手の主夫か」
「どういたしまして」
「誉めてねえ。大体落としても割れねえ皿は皿じゃねえ、皿のような何かだろ」
「何かって何」
「硬度を自在に変えられるスライム」
「焼きたてトーストのせちゃ拷問だろ」
「あ~~うるせえうるせえシコシコシール集めっきゃ楽しみねえのかよ無趣味め。そういやガキの頃から梱包材プチプチすんの好きだったよな」
「半日余裕で潰せた」
それはそれとして咳払いで居住まいを正す。
「いいこと教えてやるよスワロー、人生には近い目標と遠い目標が必要なんだ」
「何それ」
「近い目標は一年以内、遠い目標は十年以内に叶えるのを念頭に努力するんだ。それが人生に刺激を与える秘訣」
右手の残り少ないジャムを持ち上げる。
「俺の場合、近い目標はシールをためて特典をゲットすること」
「遠い目標は?」
左手の未開封のジャムを持ち上げる。
「早くカネを貯めてもっといい部屋に引っ越すいたたたたた蹴るなよ!?」
「十年もちんたらやってられっか待って三年が限度だ、上の馬鹿がバスタブ溢れさせてこっちまで水漏れしたの忘れたのか!?賞金稼ぎの端くれなら番付のっかるとかでっかくでろよホンっト野心がねーな、無欲が美徳なんて時代遅れの嘘っぱちだ、誇大広告に踊らされて駄ガモに成り下がりやがって駄バトのプライドは捨てたのか!?」
「駄バトのプライドなんて持ち合わせてないね、あったとしても質に流れたんじゃないか。人並みの意地ならあるよ」
「|皿《ディッシュ》にこだわるなんざ|ガキっぽい《チャイルディッシュ》」
「300点集めたら素直で可愛い弟と交換してくれるシールなら死ぬ気で集める」
「はっ桁が違う、俺をもう一人錬成すんなら3000点は要る」
「万いかないあたり割と謙虚だな」
憎まれ口の応酬に苛立ちが募る。
同居をはじめてからもとからケチなピジョンはドケチになった。
無計画な弟の浪費癖を口うるさく咎め、やれどこの店が一番安いとかやれどこの店がセール中だとかやれどこの店はセットで買うと割引してくれるとか、買い物の内容をあれこれ指図するようになった。
そんなどうでもいい戯言は右から左に聞き流してきたが、今回の落胆ぶりは少々度が過ぎている。
未開封の瓶をひねくりまわしちゃ「ちゃんと言ったのに」「メモにも書いたろ?」「皿……欲しかったなあ」と恨みがましくぼやいてる。たかが皿のどこにコイツをここまでおかしくさせる要素があるんだ?スワローにはまったくもって理解しがたい。が、お説教と愚痴を足して割った兄のぼやきが延々小一時間続くのは経験則でわかる。
ああ、うざってえ。
「あ」
ピジョンの手から新品のジャムをひったくる。
手早く蓋を捻って開封、顔の上で逆さに振る。
大口開けて舌を突き出すスワローと、瓶の広口からドロリと滴りかけたジャムを見比べ、ピジョンが思わず叫ぶ。
「なにするんだよ!?」
「ハイハイ俺が悪うございました、キレイに食べて新しいの買ってくりゃ問題解決みんなハッピー、お前は念願のノルマ達成で幻の皿ゲットだ」
「無理に食べなくていい、腹壊すぞ」
「てめえがブツブツ言いだしたんだろが、ああそうだよジャムなんてなんだって同じだから棚もラベルもろくに見ずてきとーにカートに投げ込んだよ、シールなんて意識して見てねェし今初めて気付いたわ」
「ぼたぼたこぼすな服と床が汚れる……あ~いわんこっちゃない、子供かよ。どうしてそう世話が焼けるんだ」
「焼いてくれなんて頼んでねえ」
「逆ギレ?都合悪くなるとすぐそれだ、子供の頃からちっとも変わってない。ちょっとは成長しろよ|小ツバメちゃん《リトルスワロー》」
ピジョンが自覚的に地雷を踏む。
やんわり息子を叱る母限定のこっぱずかしい愛称を持ち出されスワローの顔がひくつく。
「そんなに欲しけりゃ自分で買いに行け、人がたまに気ィきかせりゃお説教かよ超萎える、もう金輪際パシらねーかんな」
「二人で住んでるんだからできることは分担するのが当たり前だろ、家賃も折半してるんだ、フェアにシェアだ。なのに面倒くさいことは全部押し付けてサボってばっか……いいトシしておつかい一つまともにできないのかよ、どうせ女遊びにかまけて頭からすっぽぬけてたんだろ。あたり?その顔はあたりだ」
「わからねえヤツだな、ジャムなんて全部おんなじだろ!!」
スワローがテーブルを叩く。
「ジャムじゃなくて皿の話をしてるんだ!!」
ピジョンが平手で叩き返す。
「いまからっぽにするよ」
あんまり大袈裟に嘆かれ、やけっぱちで言いきる。
瓶が急角度で傾き、滴るジャムがスワローの顔と首を汚す。
スワローは行儀悪く口を開けて待ち受ける。
甘酸っぱい果肉入りの真っ赤なジャムは視覚的にも強烈だ。
口の端からたれた分がべったりと首筋を伝い、鎖骨の窪みにたまる淫靡な眺めに、怒りを忘れて妙な心持ちになる。
うしろめたさをごまかすように早口で指摘する。
「虫歯になるぞ」
「糖尿病のほう心配しろ」
「……甘いもの嫌いなんだろ、無理するな」
「こうすりゃ満足なんだろ?」
瓶底からジャムをかきだし、指を咥えてしゃぶる。
その間もずっと笑みを含んだ視線がピジョンを探っている。
スワローはわざと下品な食べ方でピジョンの神経を逆なでする。一気食い改め一気飲みに近い。
瓶から滴り落ちたジャムを直接口で受け、零れた分をすくいとり、真っ赤に濡れた親指に舌先を躍らす。
「ん、イケる」
「見てるだけで胸焼けする……」
「物欲しそうな顔。食いてえ?」
ジャムはピジョンの得意料理のひとつであるサンドイッチに使うから減りが早い。今ここでたいらげずとも、どのみちすぐ使いきる。
喉元までこみ上げた反駁を抑え、意地汚くジャムの内側をこそいでは指をねぶる弟を見詰める。
「さすがにジャムだけってなァ甘ったるいな。口直しだ」
嫌な予感に身を引く。
その動きを読んだようにスワローの手が伸び、ピジョンの腕を掴んで引き寄せる。
「!んッ、ぶ」
色気のない呻きが漏れる。驚きと困惑と怒り。腕を突っ張って逃げようとするのを許さず、舌がくちびるを割ってもぐりこんでくる。
椅子に掛けたスワローの膝の間に、不可抗力で尻を落とす形になったピジョンは、ジャムのお裾分けに預かる。
「ちょ、ま」
糖分過多な唾液を口移しで飲まされ、煮崩れた果肉をさらに噛み潰したドロドロを含まされる。
いい加減にしろと窘めたいが、口にふたをされてろくに息もできない。
スワローがピジョンの頬をてのひらで包み、顎先へ滑らせてジャムをなすり付ける。
ピジョンは息苦しさに抗い、スワローの力強い抱擁から抜け出そうとする。
そんな兄の胸刳りにだしぬけに指をひっかけ、内側へジャムをたらしこむ。
「ぅひっ……!?」
「あーあ、暴れるからこぼしちまった」
意地悪い嘲笑が降り注ぐ。
派手に零れたジャムが内側の素肌を伝い、鎖骨から胸板、腹筋のその下まで艶めかしい筋を曳く。
冷たく粘つく感触の生理的不快さに、ピジョンがこの上ない顰め面になる。
「食べ物で遊ぶな!」
「残さず食やァいいんだろ?斬新な食べ方発明したんだ」
嫌な予感しかしない。往々にしてそれは当たる。
スワローが兄の頭髪を鷲掴み、椅子からずり落として跪かせる。
「ッ……よせよスワロー放せ、悪ふざけはやめろよ!」
掴まれた髪の痛みに逆らえず、足を蹴られて正座を促され、ちょうどスワローの股に顔を突っ込む格好となる。
床に点々とジャムのかたまりが落ちている。
椅子に浅く掛け直したスワローが、これ見よがしな動作で新たにジャムをすくいとり、訝しげなピジョンの口元へ持っていく。
「なめろ」
「な……」
「一本一本、有り難く味わってしゃぶりな」
フェラチオのまねごとだ。
呆然と固まる兄を優しく脅し、ジャムに塗れた指でツ、と首筋をなぞる。鋭く尖った喉仏が上下し、無言で口を開閉する。
なんでこんなことになった?
俺はただ行儀悪いと注意しただけじゃないか、至極まっとうなことっきゃ言ってないぞ?
しかし相手が悪い、スワローに理屈は通じない。
「どうした?欲しいんだろ、遠慮せず食えよ。俺の指べろべろ犬みてェになめまわせよ、見ててやっから」
「なめたくない……指どけろ……」
「やせ我慢は体に悪い。気付かねェとおもったか、さっきから物欲しそうにボケっと見てたろ。欲しいのは俺か、ジャムか、どっちもか?だったら特別大サービスで両方食わせてやる」
「どうしてそうなるんだよ、頭冷やせ。こんなに床にこぼして、服にもシミ付いて、後始末が大変だ。お前が雑巾がけするか?」
あとでシャワー浴びないと。体中べとべとして気持ち悪い。恐怖と興奮に痺れた頭で漠然と考える。
スワローに強く出られると逆らえない、体の芯まで上下関係が刻み込まれている。拒めばなお酷いお仕置きが待っている。
兄の時間稼ぎなどお見通しのスワローは、片手で顎を挟み、もう片方の手でくちびるのふくらみを辿りだす。
「あーんしな」
「…………」
「強情っぱり」
火照りを帯びた指が顎に食い込み、軋るような痛みを与える。
くちびるを強引にこじ開け突っ込まれた指が、口腔の柔く敏感な粘膜を好き放題に蹂躙する。
「んんッぅぐ、ぅー!」
息苦しい。頭がのぼせる。
蕩けきった口腔から唾液の糸引きちゅぽんと指がぬかれ、反射的に物足りなさを覚える。
物足りない?
馬鹿な。淫乱かよ俺は。
「甘いもん好きだろ?」
靴裏が狙い定めてピジョンの股間を押し、気まぐれに従わなければどうするか、次第に圧して脅しをかける。
ズボンの股間にじんわり広がる苦痛と被虐的な快感に、たまらず呻く。
「スワロっ……靴、足どけろ、痛い……!」
「じゃあどうすりゃいいかわかるな」
わかってる、十分すぎるほどに。
鼻先に突き付けられた指に這い寄り、おっかなびっくり匂いを嗅ぎ、うっすら唇を開き、ためらいがちにまた閉じる。
スワローの指は長く形が良い。爪の形状まで整っている。
その指が第二関節まで、真っ赤なジャムに塗れている。
顔を近付けると甘く煮詰めたジャム特有の匂いが漂って、馥郁と鼻孔に抜ける。
「は………、」
スワローの指が目の前に浮かんでいる。おいしそうなにおいがする。
思考力が極端に低下、ゆるやかに両手をさしのべる。
スワローの手を恭しく押し頂き、舌の先端をはずかしげに覗かせ、またすぐ引っ込める。
気恥ずかしげに染まる顔、羞恥と怒りに潤む瞳……
兄の痴態を傲然と足を組み眺めるスワローの口角が前にも増して釣り上がり、股間をもてあそぶ靴裏にほんの少し力がこもる。
「あッふぁ」
「じらしプレイは飽きた。とっととおしゃぶりしろよ」
ピジョンは決心する。
さしだされた五本の指のうち、人さし指に狙いを定め、舌の先端でちろちろなめる。
舌先でつつかれるこそばゆさにスワローが笑うがかまわず、丁寧に舌を這わせていく。
ぴちゃぴちゃ、ぺちゃぺちゃ。
唾液を捏ねる濡れた音がやけにうるさく響き、夢中で人さし指をしゃぶる表情をエロティックに見せる。
舌を巻き付け、ねぶり、先端を軽く甘噛み。
根元まで深く咥え込んでヂュウッと吸い上げる。
口の中に広がる甘酸っぱい風味と果肉の感触が、食欲と性欲を同時に刺激する。
「そうそう、俺のモノだと思って丁寧にな」
「お前の……」
スワローのペニス。
スワローの指。
この指が俺の中に入ってた。
俺の中を丁寧にほぐし寛げ、挿入に伴う痛みを紛らわせてくれた。
ピジョンは床に跪き、弟を見上げ、一本一本スワローの指にご奉仕する。
「んァ、ふあ」
馬鹿なことをしてる。自分でもそう思う。なのに止まらない。
先っぽから根元まで、ペニスに見立てた人さし指を含み転がす。夜毎躾けられたフェラチオを思い出しつつべとつく指に吸いつく。
スワローの手に縋り付き、息苦しさに目をキツく閉じ、人さし指がふやけるまで口の粘膜でぬくめる。隣に移るが、指の股を掻きだすのも忘れない。
スワローの指、あまい。
スワローのペニス、あまい。
辱められている事実にさえ感じてしまう淫乱なカラダが恨めしい。調教の成果ならたいしたものだ、俺は立派に変態だ。
「うまそうな顔でしゃぶってんな」
「ふッぅ……おまへ、やへっれゆーはら」
「言えてねーじゃん」
「うるはい……」
「しゃべるかしゃぶるかどっちかにしろよ」
「……」
「しゃぶんのかよ。どんだけだよ」
「じゃないとへそ曲げるくせに理不尽だ」
「えッろい指フェラ。先っぽから根元までずっぽり咥えて、ちゃんと舌も使って偉い偉い。おしゃぶり大好きか?咥えてるだけでよくなれんのか?」
「残したらもったいないから、それだけだ」
「嘘吐け、勃ってきたじゃん」
「お前が踏むから……!」
「へえ、踏まれンのがいいの?痛くされるのが好きなんだ」
「ぅあァあッ、いあッうぁ!?」
スワローが嗜虐の愉悦に酔ってぐりぐり靴裏をねじり、強烈な刺激にピジョンが突っ伏す。
スワローはやめない。
靴を右に左に回し、ピジョンの股ぐらを小刻みに圧迫する。
しまりなく弛んだ口から涎をたらし、突っ伏して刺激に耐えながら、震える手でスワローの指を握り締める。
エロい。たまらない。
ぞくりと快感が駆け抜ける。
「スワロ、やめ……頼む、なめてるときは勘弁してくれ……噛みそうでおっかない……」
「知るか。ガマンしろ」
ピジョンが哀れっぽく懇願。吐息を荒げ、淫蕩な熱に濁り始めた瞳で一途に仰ぐのを突っぱねる。
ピジョンは再び舌を這わせ、巻き、ジャムの残滓をなめとっていく。
口腔の赤い粘膜が波打ち、指を舐め上げた舌がしおたれ、引っ込み、再びおずおず這い出てくる。
眉間に皺を刻むいじらしいフェラ顔に凶暴な衝動が炸裂、今すぐブチ犯したくなるのを必死に耐える。
ピジョンは一生懸命おしゃぶりする。
「はふ、は」
汗ばんだ肌にピンクゴールドの髪が貼り付き、地味に整った面立ちに淫蕩な翳りを浮かせる。
「んぐ、ぅう」
こみ上げる恥辱と苦痛、被虐の官能がごたまぜになった眸にはしめやかな水膜が張り、ジャムをなめているのか指フェラが目的かもはや判然としない。
無垢さと貪欲さとが奇跡的な均衡でせめぎあい、色香匂い立たせる表情。
元が清潔そうな風貌なだけに、踏み躙られて堕ちていくさまはいっそう艶めかしい。
「あふ、ふぅく」
眦に滲んだ涙が膨らむ。
ぺちゃぺちゃ不器用に舌を使い、指の股にたまったジャムを啜り、顔をこまめに傾けて角度を調整し、本人も知らずてのひらまで猫のようになめあげる。
「お前の……指。ジャムに浸かって、真っ赤だ……」
次第に大胆さを増して過激になる行為。
「おいしい」
理性が溶け、思考が麻痺し、時折内股で膝を擦って股間の疼きをごまかし、スワローの指をじゅぷじゅぷ出し入れする。
「っ……」
もう我慢できねえ。
スワローが腰を浮かし、その場に片膝付く。
ピジョンの片手を掴み、無理矢理こじ開けたてのひらに瓶底の残りをたらす。
「なにす」
「こっちもらうぜ」
「!ちょっと待、ぅ」
「おいしいものは半分、兄弟仲良く分け合わなきゃな。母さんの教えだろ?こうすりゃよりおいしく食べられる」
ピジョンの手を口元に導き、おもむろに人さし指を咥える。
ビクリとピジョンが委縮、スワローの片手をなめる動きが鈍る。
ピジョンはスワローの、スワローはピジョンの手をしゃぶる。
兄弟同時に、お互いに行う指フェラ。
人さし指を執拗にねぶりつつ上目遣いにピジョンを窺い、甘噛みしてから強く吸い上げれば、ピジョンも負けじと根元を噛み、ぬれそぼつ指を引き抜いてついばむようなキスをする。
「教えてやるからよく見てろ、ずっぽり咥え込んでしっぽり抜くんだ」
「擬音ばっかでわからない」
「感覚でわかれ」
「無茶だ」
ピジョンは一杯一杯だがスワローは相手を観察し煽る余裕がある、だてに遊びなれてない。
実際に含んで手本を示す。甘く匂いたつ指を抜き差し、じゅぽじゅぽと派手な水音をたてる。
似てない兄と弟が顔の前にかざした互いの手をじゃれあうようになめあって、ゆっくりと肌を伝い落ちる果汁を啜る。
「んは、んぅ」
「あは……」
スワローはピジョンの小指を奥まで咥えて、ピジョンはスワローの親指に赤ん坊のごとく吸い付いて、ジャムをすっかりなめとったあとも舌をあそばせ余韻を反芻。
てのひらをなめあげて、手の甲にくちびるをおしあて、指の股をこねくりまわす。
「ここも甘い」
「こっちにもたれてら」
「床こぼすなよ」
「こぼしたらなめりゃいいじゃん」
「いいからはやく……っは」
仰け反る首筋を甘い匂いを追って貪り、唾液の跡が濡れ光る鎖骨のふくらみを吸って、発情した二匹の猫のように体中なめっこする。
肌で溶けたジャムが上昇する体温にあたためられて官能的な匂いを広げる。
「もーらい」
逸れたジャムを舌で受け、甘く赤い滴りを嚥下。
「意地汚いぞ」
ピジョンがすかさず弟に被さり、頬にはねた汁を味見。なくなったそばからまた足して、尽きるまでくりかえす。傾いた瓶から赤いかたまりがたれおちて、スワローとピジョンの肌をすべっていく。
スワローのフェラ顔。はしたない眺めに興奮する。
なまじ顔が整っているだけに、おいしそうに指をしゃぶる姿は目に毒だ。
イエローゴールドのおくれ毛が汗ばんだ頬に一筋張り付き、いたずらに眇めた眸は得意げに笑い、ある時は喉をのけぞらせ、ある時は俯き加減に、受け身のピジョンとは違う挑発的な媚態を演じきる。
指フェラに耽っていても奉仕という言葉は彼に似合わない。攻めの姿勢が一貫してる。
「あふ……?」
手だけでは飽き足らず袖口をめくって舌をさしいれ、ピジョンが不満げにぼやく。
「もうジャムないぞ……」
ピジョンの小指を窄めた口で可愛がり、スワローが茶化す。
「食いしん坊」
「お互い様」
「瓶からっぽ」
「まだある」
スワローがピジョンの裾をさばき、はだけた隙間からべとつく素肌をまさぐる。
シャツの内側にたらされたジャムの名残りが、へそを伝ってパンツに恥ずかしい染みを広げている。
スワローが舌なめずりしてピジョンを組み敷く。
首筋から鎖骨へ、胸板から腹筋へ、ジャムの道筋を辿って舌を往復させ、もう片方の手でドッグタグをいじくりまわす。
「もういい、あとは自分でやる!」
「自分でなにするって?乳首なめんのか、パンツの中まで始末できんの?」
必死の抵抗を容赦なく嘲笑い、ピンクの突起を吸い立てる。
口の中が甘ったるい。果肉の粒が主張する。
へそのくぼみを尖らせた舌でほじくり、剥ぎ取ったボクサーパンツの下、半勃ちで汁をたらすペニスにジャムが絡む光景にほくそえむ。
「指フェラが上手にできたご褒美だ」
「あ、」
ジャム塗れの股ぐらに顔を埋め、元気なペニスを頬張る。
味は悪くねえ。ピジョンが交差させた腕で真っ赤な顔を隠し、巧みな舌遣いに合わせ「ふあっ、ぅあっやッああッ!」と切なく喘ぐ。
カリ首から裏筋へ、たらりと伝うジャムを舌ですくって嚥下。
ピジョンが力なく首を振って呻き、スワローの肩に手をおいてどかそうとする。
が、弱々しすぎて説得力がない。どう頑張っても指に力が入らない。貪欲に快楽を求める本能が意志を裏切り、ペニスをそそりたたせてスワローを迎え入れる。
股間からぺちゃぺちゃと音がする。
スワローがピジョンの膝を割り開き、熱心にフェラチオをほどこしている。
ピジョンの膝裏に手をかけ、股ぐらに顔を埋め、ジャムを塗されて濡れ光る亀頭を舌先でくすぐる。
「すっげ甘……」
「変態じゃないかこんなの……ッあ、ああああッあッ!」
イエローゴールドの頭が一定のリズムで上下に動く。
ピジョンは背中で這いずり、往生際悪くあとじさっては引き戻され、熟練の舌遣いに翻弄され続ける。
「お前の味とジャムがまじってどっちかわかんねえ」
ジャムと唾液だらけの生乾きの体が気持ち悪い、あちこちべとべとだ。
こんな倒錯したプレイのためにわざわざジャムを開けたんじゃない、いや、スワローが勝手に開けたんだっけ……
気持ちいい。
気持ち悪い。
喉を通る間に嗚咽が喘ぎに代わり、瞼の裏で光が爆ぜる。
虚空に精を放ったピジョンに休む間も与えず、スワローが覆いかぶさってくる。
口で口を塞がれ、ドロリとした果肉の残滓を流しこまれる。
スワローの味とジャムの濃厚な甘みが複雑に混ざり合い、酔っ払ったような感じに陶然とする。
食べ物を粗末にしちゃいけないと一滴のこさず飲み干して、一滴余さず啜り上げ、名残惜しく唇を放すと同時にスワローがいけしゃあしゃあ言ってのける。
「な?悪くねーだろ、このジャム」
からっぽの瓶を宙に投げ上げ、スワローが賢しげな口ぶりで諭す。
「食わず嫌いはいけねえよ、なんでもためしてみるもんだ」
空き瓶でお手玉する弟を見上げ、ぐったりしたピジョンはたった一言呟く。
「甘すぎて胸焼けするよ」
結局一瓶まるごと使いきってしまった。
重ね合わせた肌からジャムの残り香が漂い、媚薬を嗅がされたような心地に犯され、ピジョンはもう一度目を閉じるのだった。
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