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何でも良いから俺を採用する所。見る目のねぇクソザコβに俺を認めさせるつもりなんか微塵もねぇ。給料さえ貰えりゃこっちのもんなんだ。
さっさと金貯めて、何処かで俺を待ってる運命のαとっ捕まえて、誰にも邪魔されねぇ生活を手に入れてやる。
そう思い、丸一日使って書き上げた何枚もの履歴書をあらゆる企業に送りまくった。
そして唯一返事が来たのが、MS商事…の、建物内の清掃員。
この国に住んでりゃ誰だって一度は聞いた事のある大企業で、それはすなわち社員の大多数がαである証拠でもあった。
別に構わない。どうもこんにちはΩですなんて馬鹿げた挨拶する訳でもねぇんだ。社員と関わる必要の無い清掃員に一人Ωがいた所で、誰も気付く筈無いさ。それこそ運命の相手でも無い限りな。
そう思ったのは、つい先日の事だった。
時刻は19時。流石にもう太陽の光は俺を照らしてはくれなくて、恐怖に怯える俺は真っ暗闇の中唇を噛んだ。
これは自分の身体を甘く見ていた俺へ下った罰だったのか、それとも世間知らずのまま生きてきたが故の失敗だったのか。
何処へ向ければ良いかもわからない悔しさばかりが込み上げて、全くおさまる気配がないどころかじわじわと濃度を上げていく自らのフェロモンに酔いそうになりながら、たった今もαが出入りするオフィスのすぐ隣の掃除道具入れに座り込んだ。
そして、俺が最も恐れていた瞬間が訪れる──。
かつ、かつ、かつ……かつん。
オフィスへ向かっていてであろう革靴の音が、道具入れの前で鳴り止んだ。鍵の無い小さな扉を持てる力の全てで引っ掴んで、息を止めて。
僅かに光を漏らす隙間から覗けば、やはりスーツを纏った若い男だ。社員証なんか首から掛けやがって、絶対αじゃねぇか。辞めろ、来るな…っ。
一歩、また一歩と道具入れに迫り来るαを前に、そろそろ酸欠になりそうな火照る頭で必死に考えを巡らせる。
今ここで飛び出して隣のモップで攻撃するか。だが相手が怯んだ隙に逃げ道を確保し、何とかこのビルを脱出出来たとしてもその後は…?
そもそもコイツ以外の社員が待ち伏せしていて一斉に襲いかかってきたなんて事があれば、まず太刀打ち出来ねぇ。数で負ける。
でも、いや…だからって、コイツにいいように食われて俺の人生が終わんのだけは絶対に嫌だ。何とか…何とかしてここを出ないと。何としてでも、俺は俺の人生を掴み取るって決めたんだ。俺らΩを人間とも思ってねぇようなα野郎に差し出せる頸なんか持ってねぇんだよ…!!
「…体調は大丈夫ですか?」
「──っ」
片手で扉を押さえ、もう片方で一番長いモップを掴んでいた俺に浴びせられた言葉は
想像していたものとは大きく違っていた。
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