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「す、すみません…突然怖いですよね。無理やり開けたりしないので、このままで大丈夫なので聞いてください」 「……?」 確かにΩのフェロモンに気付いて寄ってきたハエ野郎の癖して、全く獣みてぇな反応を見せる事は無い。冷静で、むしろ弱気そうにも思えるソイツは、本当に扉に触れないまま話を続けた。 「あの…多分ヒートですよね。薬、持ってないようでしたら僕市販のやつ持ってるので……。あ、えっと…僕はαですが番がいるので、多少フェロモン耐性はあるんです。だから安心してください…」 「……どんな形してんだその薬」 「え?ええと…」 悪いが俺は話した事もない奴を簡単には信用しねぇ。今だってフェロモンに集るだけの虫ケラが俺を食うために嘘ついてんじゃないかって疑ってる。市販の物、病院で処方される物、全て頭に入ってんだ。ボケた事言いやがったら今すぐぶっ殺してやる覚悟は既に決めていた。だが。 「白いけどよく見ると…若干ピンクっぽいです。大きさは5ミリ…いや、もう少し大きいかな。真ん中に線の入った円形です。服用は15歳以上で、成人は1回2錠。6時間以上は空けて、空腹時の服用は──」 「もういいって。…俺は形を聞いただけだっての」 「すっ、すみません!」 謝るのかよ。掃除道具入れでヒート起こして動けずにいる間抜けなΩに、大手企業で働いてるクソαが。 コイツの説明にピンと来る市販薬は間違いなく存在する。俺も何度か病院に行く時間がない時頼った事がある、ごく一般的な錠剤だ。色と形がわかれば十分だっつーのにご丁寧に箱の側面まで読み上げやがって。 「さっさとソレ置いて消えろよ」 「…わかりました。あの、」 「んだよまだ何かあんのかよ!」 番が居ると言っていた。もしかしてそれは、自分の番に飲ませる為の物なんだろうか。 別のαが匂いに反応する訳でもねぇのに相当束縛気質なのか、フェロモンが邪魔だからヒートを起こしたら無理やり飲ませてんのか知らねぇが。 どちらにせよΩの抑制剤を持ち歩いているなんて珍しいαに出くわしたもんだ。いつまでも垂れ流してその辺のゴミムシ野郎共を喜ばせる程俺のフェロモンは安くねぇからな。 さっさと置いてどっかに行って欲しい。コイツが怖いなんて認めたくはねぇが、この状態で丸腰のまま化物みてぇにΩを喰らうαと顔を合わせたくないのは当然だ。 「僕綾木って言います!今日残っているのは僕が最後で、もう帰るので…心身が落ち着いてから、気を付けて帰ってください」 それだけ言うと、扉をこじ開けようともせず、襲い掛かろうとする素振りも見せず、ゴミムシは静かに立ち去ったのだった。

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