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8-山田

「好きなもの選んでいいとは言ったけど…りゅう、組み合わせって言葉ご存じ?」 「いいだろ別に。決めていいっつったのそっち」 「そうだけどさ…」 カートに入れた商品は、カボチャの煮物とホイコーロー、餃子と炊き込みご飯とハンバーグだ。流石に一人で食べられる量ではないが、何たって今日は隣に安藤がいる。俺よりタッパもあるんだから、胃もそれなりに容量はあるだろう。本音を言うとたこ焼きも追加したい所だが、それに関してはパパが焼いてくれたのが一番美味い自信があるので諦めた。折角デリバリーするってのに、味でガッカリはしたくない。 「俺出すよ。泊めてもらうんだし」 「ん?いーよソレ俺のアカウントだし引き落とされるようになってるもん」 なんと代引ですら無いらしい。どんだけハイスペックなんだよ現代の技術。 しかし、そこで引き下がる俺ではないのだ。スマホ一つで食べ物が届くこんな時代より遥か昔から、この世には“礼儀”というものが存在する。泊めていただく上に食費まで出させるなど言語道断。せめてこれくらいはしないと、今後の安藤との付き合い方も変わってくる。借りは作りたくない性分だ。 「支払い方法とか変えれねぇの?絶対出す。つーか今現金で渡す。それならいい?」 「ええ…変えてもいいけど……んあ、ならさ」 「ん?」 やっと折れてくれたか。 そう思ったが、安藤は俺の手から自身のスマホを引き抜くと何やら操作を始めた。すると間も無く俺のポケットで通知音が鳴る。 開いてみると、送り主はまさかの隣でスマホをいじる人物からだった。 「…何これ」 「このURLから入れよ。入会したら、俺の紹介って事になるから特典で2人にクーポン届くんだよ。ついでにりゅうは初回特典のクーポンも行く筈だから多分合わせて数千円くらいにはなる」 「ほおおお!!」 「そしたら実質りゅうの奢りになるんじゃね?それならいいだろ」 確かに!お前頭いいな!!って言いそうになって口を押さえた。言い感じに丸め込まれた気しかしねぇ。 だがまぁ、家にいてもまず使わないものだ。ちょっとした操作で数千円分がタダで食えるのは悪くない。 仕方ないから、俺の奢りって事にしといてやるよ。 結局クーポンを駆使して2人のアカウントでそれぞれ数品ずつ注文し、オーバーした200円弱は月曜の朝カフェでコーヒーを奢ってカバーする事で纏まった。 なかなか操作に慣れず時間はかかったものの、あとは届くのを待つだけというワクワク感は相当なものだ。こんなデカイベントを日常的にこなしている安藤という男が、なんだか妙に大人に思えた。 ……実際5個も歳上の大人なんだけど。

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