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8-山田
安藤が優しいのは今に限った事じゃない。俺が本当に困った時、助けてほしい時。いつも冗談言って仕事サボってるとは思えないほど真剣な顔で俺を守ってくれる。自分だって辛いのに、そばに居て欲しいという俺の願いを聞いてくれていた。
「お前モテるだろ」
「何でそこ客観的なん。…ま、いーけどさ。とりあえず食おうぜ」
「……うん」
揃って手を合わせて、せーのって掛け声をして「いただきます」というのが俺の家のルールであり、そもそもこの国の当たり前だと思い込んでいた。
だが、安藤は何も言わず箸を割り、ほんのりと湯気のたつホイコーローに手を伸ばす。
「おま、それはダメだろ!」
「えええ今度は何?!」
安藤が操る箸の先は、俺の声に驚いてぽとりと器にキャベツを落とした。まさか俺が止めた理由がわからないっていうのか?我慢の足りないおこちゃまなのか?俺より5つも上のくせに、いただきますが言えないのか?
作ってくれた人を思い、手を合わせるのは当然だ。ごめんなさいやありがとうにも負けない重要な言葉だ。それをコイツ……!!
「ご飯の前は手を合わせていただきますだろうが!」
「真面目か!」
「常識だ!」
ちょっと見損なったぞ安藤め。
「家じゃそうしないと飯食えねぇし。学校でもルールあったろ」
「あーうん、ごめんな。じゃあそうしよ」
「面倒そうにすんなっつの!当たり前なんだっつの!」
手を合わせて、目で合図。2人きりで「せーの」は必要ないけれど、今度こそ。
「「いただきます」」
うん。気持ち良い。こうでなきゃ食事は始まんねぇ。
初めて飲んだビールは苦くて、何が良くてぐびぐびと喉を鳴らしているのか理解に苦しむ。だが、まるで悪い事でもしているかのような好物ばかりの食卓は天国だった。それに隣には、大好きな人。
穏やかな時間は、ゆっくりと過ぎていく。そして──。
「安藤…平気?」
「大丈夫よ。顔赤くなりやすいだけだから俺」
「そか」
「なんかアレな。りゅう結構飲めるのな」
「そうなのか?あんま酒飲んだことねぇからわかんね」
安藤は頬や首を赤く染め、潤んだ瞳からは暴力的なまでの色気を漏らしている。格好良くて、綺麗なのに…可愛い。ずるい。
もしかして、俺ってここで酔っ払って安藤に徐々に体重をかけていくのが正解だったのか?微塵も酔ったって感覚に陥らないのだが。
それって実は全然可愛くないんじゃないだろうか。
…いや、別に可愛くありたいわけではない。むしろ男なんだから、愛でられるよりもてはやされたいのが本音である。でも、安藤は多分……たくましい男より、か弱い女の子を好きだろうから。
誰かを好きになるって
誰かに好かれるって、難しい。
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