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8-安藤
「ほんとに大丈夫か?お前…腕とかマダラになってっけど」
「う〜ん?体質だわ恥ずかしい。気にすんな」
嘘です。クソ酔ってます。
トイレに行ったら最後、便座を枕にして朝を迎える自信がある。心配するならペースを落としてくれよ。ハタチそこそこのビール初挑戦ヤローに負けれんだろが。
「ここまで飲んだの久しぶりだからなー」
記憶は曖昧だが、以前酷く酔った日に何か恐ろしい目に遭った気がする。
それからは飲むと言っても接待か、眠る前のビール1缶くらいだったから。新しくおろしたばかりの500mlの6缶パックが秒で消えたこの2時間で、思った以上に出来上がってしまったらしい。隣でピンピンしてるこいつは、多分飲み歩くタイプなら毎回ダチを全滅させてタクシーに放り込む担当だろう。慣れてなくてこれって、肝臓のつくり化物なんじゃねーの。
キュンキュンしちゃうわ。普段は可愛い癖にさー、そのギャップはねえって。
「酒つえーの羨ましー。ちょい肩貸して」
「え、ぁ…ちか、い!近い安藤!」
「安藤じゃねー。…とわくんでいーよ」
「はぁ?急に何……」
「俺は名前で呼んでんのに、りゅうに安藤って呼ばれたくねー。虎和くんだよ、わかった?」
だめだー。俺の完敗。
未来の酒豪に手も足も出ない。いや、手は出しかけたけど。ってそういう意味じゃねーな、あっはっは。
「お、俺水持ってくる。…から、離せ」
「水じゃねー。りゅうが居てくれればいい」
「もうさっきから何言ってんだよ…」
わかりやすい困り顔に思わず笑ってしまう。散々俺を困らせたんだ。へべれけになるまで飲ませやがってさ。だから、ほんの仕返しだよ。ビールとばっかり仲良くする右手もうぜー。両手まとめて俺に握られていればいい。
「家、勝手に入ってるストーカーは昔いたけど…他に誰も入れた事ねーもん」
だから何処へもいくな。りゅうが俺にとってどれだけ特別だと思ってんだよ。ちょっとでも離れたら承知しねー。
「どういう頭でその発言に至ったんだよ。つか恐怖体験じゃん。ていうか……家族とか、か…彼女とか、入れた事あんだろ」
「家族とか知らんわ。友達も、今まで付き合った相手も…本当にねーよ。りゅうだけが特別」
俺が一番伝えたかったのは最後の言葉で、勿論りゅうは照れながら喜んでくれると思っていた。だが、どうやらそうじゃなかったみたいだ。
どんなに今を一緒に過ごしていても、それまでの人生はお互いにあって、だから当然、常識も一人一人違っている。
「家族、あんま仲良くないのか?……と、とわ…」
「わー、りゅうから名前呼ばれた。嬉ションしそうウケる」
「っるせー!漏らしても放置するからな!」
「冗談だってw」
ああ、やけに酔いが回る日だ。アルコールだけでなく、骨の髄までもを侵す特別な香りがすぐ隣から流れてくるから。
こんな日は、少しくらい自らを曝け出したって
許してもらえるだろうか。
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