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第15話

 駐車場に戻ると、将星のバイクに五、六才の男の子と父親らしき男性が少し離れた所から将星のバイクを物珍しそうに眺めていた。  二人は近付くと、父親は自分たちの存在に気付きハッとしてように子供の肩を叩いた。 「ほら、行くよ! すみません、この子バイクが好きで……」  父親は強面な将星を前に幾分腰が引けている。 「これ、お兄さんのバイク? かっこいいね!」  自慢のバイクを褒められて、将星も悪い気分をするはずもなく、 「乗ってみるか?」  そう言うと少年は目を輝かせ、大きく頷いた。将星は軽々と少年を持ち上げ、自分と共にバイクに座らせ、ハンドルを持たせてやった。 「パパ! 見て!」 「かっこいいぞ、ユウタ」  父親も嬉しそうに携帯のカメラを向け、少年を連写している。 「僕も大人になったらこのバイク乗る!」  少年は嬉しそうに将星に言うと、 「これはな、ハーレーってバイクだ。覚えとけ」  そう言って将星は少年の頭をくしゃりと撫でた。  理月はそんな二人を離れた所から見つめた。  (将星もいつか誰かと……)  将星の子供が産まれ、あんな風に子供と戯れる未来もあるかもしれない、そう思うと理月の心がチクリと痛んだ。  自分はそれを叶えてやる事はできない。そもそも、そういう関係でもないのは分かっているのだが、将星にそんな未来がある事に理月に複雑な思いが過ぎった。  親子は何度も頭を下げると砂浜の方へ歩いて行った。 「可愛かったな」 「俺のバイクに目を付けるなんて、分かってるガキだな」  少しドヤ顔を決めている将星に理月から笑いが溢れた。 「子供相手に何言ってんだよ……おまえもいつか、あんな風に父親になるんだろうな」 「……俺は……子供はいらねえかな」  ポツリとそう言った。 「なんで?」 「欲しいと思わないから」  将星は表情を変えず、理月を見る事なく真っ直ぐ前を向いたままだ。 「ふーん……いい父親になりそうな気はするけどな、おまえ」  自分でそう言って、またチクリと胸が痛む。 「この後どうするか?」  不意に話題を無理矢理変えられたように理月は思った。  近くのショッピングモールを少しぶらつくと、理月が夜バイトが入っていた為、帰宅する事となった。  帰りは夕方の渋滞に少し巻き込まれたが、バイクにはあまり関係がない様だった。将星は器用に車の間を縫って、前へ前と進んで行く。こんな巨体なバイクをよくこうも、軽々と扱えるものだと理月は感心した。  帰りも一度休憩をいれただけで、ずっと走り続けた。見慣れた景色が広がり、自分たちの地元に戻ってきたのだと実感する。  将星とお互いの気持ちを曝け出した事で、互いの距離が縮まったような気がした。《アルファとオメガ》という全く異なる性であるが、家庭環境や根底にある思いは近いものだった。 (将星と話せて良かった) この《デート紛い》な遠出は無駄ではなかったようだ。まだ離れ難いと思うくらい、将星といる時間がとても楽しく思えたのだ。  バイト先近くの駐輪場に停めると、二人はバイクを降りた。 「ケツの感覚がねえんだけど」  理月の尻は麻痺したように感覚がなくなっており、思わず理月は自分の尻を摩った。 「慣れねえとな」  理月からヘルメットを受け取り、サイドに引っ掛けた。 「今日はありがとう。結構楽しかった」  そう理月は素直に伝えた。 「また、どこか行こうぜ」 「そうだな」  途中にあるコンビニでタバコを買うという将星も、理月とならんで歩き出した。

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