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第23話

 帰り際、将星からの連絡先が書かれた紙切れを渡された。 『連絡してやれよ。心配してたから』  そう一言添えられ、将星は帰っていった。  紙切れを広げれば、携帯の番号と連絡ツールのID、最後に《水上楽人》の名前が書かれていた。  今回、彼には随分と世話になってしまった。  今はとにかく全身が怠く、眠くて仕方がない。  (明日、連絡しよう)  理月はベッドに横になるとすぐ眠りに落ちてしまった。  理月が目が覚めた時、すでに日が暮れていた。壁の時計を見ると、六時を過ぎていた。将星が帰ったのは朝方だったはずだ。随分と眠っていたようだ。  (そういや将星に仕事休ませちまったんだな)  枕元の携帯に手を伸ばし、画面を見ると将星からメッセージが届いていた。 『起きたら電話くれ』  理月はひと呼吸置き、将星にダイヤルをした。 『体、大丈夫か?』  第一声がそれだった。 「ああ……怠いけど」 『今から行っていいか? 顔が見たい』  今朝まで一緒にいたのに、それでも顔がみたいと言う将星に少し呆れた。 「じゃあ、メシなんか買ってきてくれよ。腹減った」 『分かった……楽人に電話したか?』 「いや、まだこれから」 『そうか……じゃあ、また後で』  それで電話が切れた。  理月はメモを手に取ると、楽人に電話をした。  暫く呼び出し音はなるものの出ない。一度切りもう一度ダイヤルすると、『誰……?』そう楽人の力ない気怠そうな声が耳に入る。 「理月だけど」 『……理月?』  不自然な沈黙が流れた。 「寝てた?」 『あー、うん……』  楽人らしかぬトーンの低さに理月は違和感を抱く。 「もしかしてヒート?」 『……違うよ、ちょっと具合悪くて』  掠れた声でそう言うと、はーっと大きく息を一つ吐いたのが聞こえた。  随分と具合が悪そうに思えた。 「大丈夫か? 俺、行くか?」 『いや……!大丈夫!寝れば治るから!』  急に楽人が声を張り上げた。  (変だ……) 「家どこだ?」 『来なくていい!』 「楽人!」 『……』  少しの沈黙が流れると、 『助けて……理月……』  かき消されそう声で楽人は言った。  楽人に住所を聞き、理月は急いでシャワーを浴び、将星が来るのを待った。聞いた住所まで自転車で行くのはかなりの距離がある。将星はおそらくバイクか車で来るはずだ。それをあてにし、将星を待つ事にした。  しばらくすると、バイクの低いマフラー音が耳に入ってきた。  理月はすぐさま玄関まで向かい、将星が呼び鈴を鳴らす前に玄関の扉をあけた。扉を開けるとちょうど将星が呼び鈴に指を伸ばしているところだった。  将星は目を丸くしている。 「どうした?」 「今すぐ楽人の所に行くぞ。バイク出せ」  スニーカーを履くと将星が持っていたビニール袋を奪い、それを廊下に置いた。 「は? 何があった」 「分かんねえから行くんだよ」  理月は将星のブルゾンを掴むと、方向転換させた。  駐輪場に、将星の大型バイクが止まっている。  将星がバイクに跨ると予備のメットを手渡され、それを装着しダンデムシートに乗った。住所を告げ、将星はすぐ分かったのか、住所を聞き返す事はなかった。  楽人から教えられた住所に行くと、そこは潰れた廃ビルだった。  理月はその廃ビルを見上げると、 「本当にここなのか?」  将星に尋ねた。 「D町のSSビル……看板あるだろ」  将星が指差した先、落ちそうな看板には確かに掠れた文字で『SSビル』と書かれている。周囲に灯はなく、ゾンビでも出そうな不気味な廃ビルだった。 「昔、ここにアパレルのテナント入ってて、よくそこで服買ってたんだよ」  二人はバイクから降りると、ビルに足を踏み入れた。携帯を取り出し携帯の懐中電灯を灯すと、そこにはガラスの破片やゴミが散乱している。階段があるのが目に入り、理月はその階段を登ろうとしたが、 「俺が先に行く」  そう言って将星が理月の腕を引いた。 「なんで?」 「なんかあったら危ねえだろ」  その言葉に頭に血がカッと昇る。 「そういうのが嫌なんだよ」  将星の腕を振り払うと、理月は勢いよく階段を登った。  そのフロアは所々抜け落ちた床に散乱した段ボールや書類、ボロボロのソファが置いてあった。 「楽人……!いねえのか!」  携帯をグルリと照らすと、ソファに置いてある毛布がモゾモゾと動いた。 「楽人?」  理月はソファに駆け寄ると、その毛布を剥ぎ取った。  そこには小さく丸くなって横になっている楽人の姿。 「楽人!大丈夫か?」  楽人を揺さぶり起こしてみる。  将星が楽人に向かって携帯をかざした。その灯りに照らされた楽人の顔を見て理月は血の気が引いた。 「楽人!どうしたんだよ!」  楽人の顔は元の顔が分からない程腫れ上がっていた。 「り、つき?」  楽人は目を開けたようだったが、それすら確認ができない。 「誰にやられた!?」  理月は楽人を揺さぶると、 「その前に病院だろ、理月」  そう言って将星が理月の肩を掴んだ。 「そ、そうだな……救急車……」  携帯のダイヤル画面を開いたが、楽人に腕を掴まれた。 「やめて……大事にしたくない」 「んなこと言っても……!」  病院と言って真っ先に浮かんだのは、瓜生の顔だ。 「ダメ元で先生に電話してみる」  携帯番号は知らなかったが、診察終了時間からまだ間もない。時間帯的にはまだ病院に人はいるはずだ。病院にダイヤルすると予想通り受付の女性の声がし、瓜生を名指しで呼び出してもらった。暫くすると、 『天音くん?どうかした?』  瓜生の声に酷くホッとし、その時やっと冷静になれた気がした。  楽人の事を話すと、 『すぐ連れてきて!』  瓜生は緊張した声でそう言った。

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