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第31話※
「将星……」
低めの声でそう名を呼べば、
「ごめんな、理月」
弱々しく笑う将星。おそらく、自分に嫌われる事を酷く恐れている。元々将星はこんな男ではなかったはずだ。こんな風にしてしまったのは自分なのだと思うと、自己嫌悪に陥る。
隣にいる将星に理月はキスをすると、将星は目を見開き固まっている。そんな行動をした自分に随分と驚いているようだった。
「り、つき……?」
「もういい……」
ふいっと顔を背け、将星に肩を掴まれたと思うと強く抱きしめられた。
「あいつには悪いと思うけど……おまえ以外俺はいらない」
胸がぎゅんと掴まれるような感覚になり、理月も将星の背中に手を回した。
時折、自分に対する将星の気持ちに重いと感じてしまう事も正直あった。それでも不思議と嫌だとは思わない程に将星へ気持ち向いている。
(俺だって……俺なりにこいつの事は好きだ……)
ただ感情が表に出にくい上に、将星が向ける自分への感情が大き過ぎて、理月の気持ちが酷くちっぽけなものに思えてしまうのだ。
合わせていた唇が徐々に深いものとなり、将星の長い舌が理月の口内に侵入してきた。上顎を舐められると、背中に電気が走ったようにピリピリとした感覚が走る。
理月の腹に硬いものがあたるのに気付く。
(将星……勃ってる……)
理月はそこに手を這わせた。
「……! り、つき…………! やめろ……」
焦った声を出した将星は理月の腕を掴む。
理月はその手を振り払うと、将星のデニムのベルトを緩めた。
「理月?!」
黒いボクサーパンツ越しに、くっきりと形が分かるくらい張り詰めているそれを見て、理月は酷く興奮した。ボクサーパンツを下げると、そそり立った中心が勢い良く露わになる。
「ガチガチじゃん……」
理月は自分の唇をゆっくりと舐める仕草を見せつけるように、上目遣いで将星を見つめた。
将星は興奮した獣の如く息を荒らげている。不意に乱暴な手付きで理月の髪を掴んだ。
「や、めろ……」
「本当に止めてほしいか?」
そう言って理月は将星の中心に、フッと息を吹きかけると将星の体が小刻みに震えた。次の瞬間、理月は将星のモノを躊躇う事なく口に含んだ。
「理月……!」
瞬間、頭を掴まれたが将星にしては力が入っていなかった。
含んだ瞬間、思いのほか将星のが大きくて、一気に喉奥に届いてしまった。一瞬嗚咽が込み上げ、それに何とか堪えると再び奉仕を始めた。不思議と嫌悪感がない。寧ろ将星に奉仕している事に高揚感を覚える。
舌先で亀頭の先端を突き、そのまま口に含む。何度か口の中で往復させ、最後に裏筋を舐め上げた。
ピチャピチャと卑猥な音が自分の耳を犯す。奉仕している理月自身も興奮し、腰が疼き始めた。
(ヒートでもねぇのに……)
不意に元カノの存在が頭にチラつき、意地になって奉仕してしまう。
裏筋が弱いのか自分の頭を掴む将星の手が、段々と緩んでゆく。いつの間にか、将星の手は理月の髪を優しく撫で始めた。
将星の体がブルリと大きく揺れ、
「出る……! 放せ……!」
そう言って顔を離そうと将星の手に力が入る。それでも理月は止めようとはしなかった。
次の瞬間、将星のが口から離れたと思うと、顔面に生暖かい液体が理月の顔にかかった。一瞬何が起きたか分からず、理月は放心した。
キョトンとする理月に、将星は近くにあったタオルで理月の顔をゴシゴシと荒っぽく拭き始めた。
「わ、悪い理月! 間に合わなかった……」
「顔射……」
「おまえが悪いんだぞ! 離せって言ってるのに、離さねぇから! とにかく顔洗え!」
独特の青臭い匂いが鼻につき、糊でも貼られたように顔面が突っ張り気持ちが悪い。
将星は相変わらず焦った表情で理月の顔を拭いている。いい加減痛くなり、
「いてーよ! アホ!」
将星の手を掴んだ。
怒られた子供のように泣きそうな顔をしている将星。こんな顔をする将星を、自分以外誰か知っているのだろうか。おそらく元カノにも見せていないのではないか、そう思うと妙な優越感を覚える。それと同時に愛おしさも込み上げてくるのだ。
(こんな厳つい男を前に、愛おしいと思うなんて自分も相当イカれてるぜ……)
将星は、自分に嫌われるのを酷く恐れているように見えた。好きになってもらう、というよりは、嫌われて傍にいられなくなる事に恐れている、そんな風に見えるのだ。
「このくらいで嫌いにならねえから、そんな不安そうな顔、するなよ」
濡れたタオルで理月の顔を拭く将星の頬を軽く叩いた。
「そんな顔……してたか?」
自分で自覚がないのか、将星は不満気に片眉を上げた。
「運命の番だって言ってるわりには不安になるんだな」
そう言うと将星は、理月を抱きしめてきた。
「ああ……不安だよ……おまえの事になると、俺はダメになる……好き過ぎて頭がおかしくなりそうだ……」
理月の匂いを確かめるように、将星は理月の首元に顔を埋めた。
「はは……っ。おまえ、こえーよ」
「こえーか?」
「その感情、クソ重いし」
「いやか?」
小さく一つ息を吐き、
「嫌だったら一緒にいねえよ」
そう言うと将星の腕の力が強くなり、苦しいくらいに抱きしめられた。
「将星……」
そう名を呼べば、噛み付くようなキスをされ、そのまま押し倒された。先程までの弱気な表情はなく、目の前の獲物を噛み殺そうとする獣の様な目をしている。そんな将星にゾクリと体が身震いし、理月の体は熱くなり、下半身に血が集まっていくのを感じた。
体中に将星からのキスの雨が降り、自分の所有物であるかのように痕を残された。
抱かれながら理月は、きっとこのまま将星と共に生きていくのだろうと、漠然とながらに思った。
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