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【SIDE:M】

「ぐうううううぅぅ……っ」  甘いムードを引き裂くのは、いつだって俺の腹の虫だ。  火照った肌に引っ付いていた体温が離れようとするのを、全力で引き止める。  ちょっと笑ってから、佐藤くんはまた俺にピタっとくっ付いてくれた。  硬い胸板にすりすりすると、大きな手が俺の背中を撫でてくれる。 「ご飯、作っていけなくてごめんなさい」  なに言ってんだ。  そんなの気にすることじゃない。  そう、答えるべきなのに、 「うん、寂しかった……」  口から漏れたのは隠そうとした本音のほうで、髪の毛を揺らしていた佐藤くんの吐息を、ふわりと綻ばせた。 「ちゃんと食べました?」 「うん」 「なにを?」 「……」 「もう、理人さん……」 「な、なんだよ! うなたれご飯だって、ちゃんとしたご飯だろ!」 「それだけじゃ栄養が足りないじゃないですか」 「……佐藤くんが悪いんじゃないか」  土曜日は、俺がひとりになるって知ってたくせに。  佐藤くんが、残していってくれないから。  佐藤くんの手作りのご飯も、  佐藤くんの形の残ったシーツも。  佐藤くんが、なにも残していってくれなかったから……って、あ。  しまった!  普通に『佐藤くん』って呼んでしまった……!  また悲しませてしまったかもしれないーーと焦ったけど、見上げた佐藤くんは笑顔のままだった。  というより、むしろニヤニヤしている。  なんだろう。  ものすごく嫌な予感がする……! 「いいですよ、『佐藤くん』のままでも」 「へ、なんで……?」 「エッチな気分になったら、理人さんの方から勝手に『英瑠』って呼んでくれるから」 「えっ……?」 「あ、やっぱり無意識でした?」 「えっ、えっ?」 「理人さんのことだから、わざとではないだろうな〜とは思ってたんですけどね。そういう時だけ名前で呼ばれるっていうのも、悪くないなーって思っ……」 「え、えええええ『英瑠』って呼ぶ!」 「……」 「これからは何があってもどんな時でも四六時中『英瑠』って呼ぶ! だからっ……」  誰か俺を今すぐ深くて暗ーい海の底に沈めてくれ……! 「そんなことまで気づくなよ、このやろう……っ」 「気づくに決まってるじゃないですか。こんなかわいいこと……じゃないや、理人さんのことならどんなことでも」  今、かわいいって言っただろ! 「と、とにかく! これからは『英瑠』って呼ぶから! 絶対!」 「俺は別にどっちでもいいですけど、理人さんはいいんですか?」 「へ……?」  もぞもぞ動き出したと思ったら、佐藤くんが俺の耳に唇を近づけてきた。  なんだよ、急に。  吐息が耳たぶに当たってくすぐったーー 「それって、四六時中俺に『襲って』って言ってることになるよ……?」  ……は? 「そ、そんなわけあるか、ばか!」  ていうか、ど、どこ触って……ッ。 「おい……!」 「オムライス」 「は……?」 「今日のお詫びに、後でとろとろふわふわオムライスを作ります」 「……」 「だから、もう一回」 「……」 「今度は優しくするから」 「……」 「だめ?」 「……」 「理人さん……?」 「……だめ、なんて」  言えるかよ、このやろう!  あーもう! 「その代わり、絶対『英瑠』って呼ばないからな!」 「プッ、わかりました」  佐藤くんは嬉しそうに笑い、素早く俺の上に覆いかぶさった。   「いいですよ、呼ばせてみせますから」 「なっ……」 「優しくしますから、いっぱい啼いてください」 「ちょ、調子に乗っ……」 「どうしたの?」 「……ッ」  スルリと入ってきた佐藤くんの指が、早速そこをトントンしてくる。  だめだ。  やめろ。  そんなの、  そんな、  ピンポイントで良いトコロばっかり攻められたら、  もう、 「あ、英瑠……っ」  ほらああああああぁぁぁッ!  fin

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