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02 Hikaru.side

『おはよう、ヒカル』 最初は、何もないただ真っ白な空間だった。 その空間に、俺と、ただ彼だけが立っていて、そしてあの時も彼はこう言った。 【おはよう、ヒカル】 まるで呪文か何かのように、その言葉を聞くと、何だかとても心地良い気分になって、ずっとここにいたいなんて、そんな気持ちが湧き出してくる。 俺には、叶人がいるのに。 彼のこの言葉を聞いてからというもの、俺は、自分の意思とは関係なく眠気に襲われるようになり、気がつけばまたここにいる。 彼…カゲノは、夢魔という存在だ。 人の夢の中に入り込んで、精気を吸い取る悪魔。 カゲノは、何千何億といる人の中で、俺を選び、この夢の中の世界を作り上げた。 夢魔は本来、そうして勝手に人の夢に入り込み、その意思を支配して無理やり行為に及び、精気を奪い取る。 でも、カゲノは違った。 カゲノは、今まで一度も、俺の意思を無碍にしたことはない。 それどころか、俺の体に触れたことさえない。 ただ見つめ合って、話をする。 俺が嫌がることは、何一つとしてしない。 だからこそ、厄介だ。 カゲノは、悪魔と呼ぶにはあまりに優しい。 そして何より、俺のことを愛している。 最初はただ、何もない真っ白な空間だったこの世界も、話をしていくうちに、段々と俺の好きなもので埋め尽くされるようになった。 特に、あの大きなグランドピアノは目立つ。 俺が話す一言一句を、カゲノは覚えていて、大切にしている。 そんな、優しすぎる悪魔を、どうして突き放すことができるだろうか。 『ヒカル、何もしないからさ…もっと近くに来てよ。話をしよう』 『…うん』 カゲノと過ごす時間は、苦痛じゃない。 穏やかで、優しい空間だ。 俺の体が保つなら、このままの日々が続けばいいと思う。 友人、親友、恋人。 そんな言葉に当てはめられないと言うなら、俺とカゲノにしかわからない関係でいいと思う。 でも、きっとカゲノは、それを望んでいない。 きっと…俺とは違う未来を、望んでいる。 思うように気持ちが伝わらないところも、人間らしいと思う。 何も違わないのだ。 悪魔も、人も。

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