6 / 6
06
『ん…』
「ヒカル…!大丈夫?」
『…叶人…』
「良かった…もう、このまま起きないかと思った……」
俺が叶人に話したことは、何も全てが嘘ではない。
叶人の家族が、交通事故に遭ったというのは本当。
でも、その事故で両親が死んだというのは嘘だ。
叶人の親は二人とも死んじゃいないし、勿論、叶人自身だって生きている。
叶人が、歩く力と記憶を失ったというのは本当。
でも、失ったのはそれだけじゃない。
叶人は、現実さえも失ってしまった。
叶人の親は、昔から叶人を愛していない。
幼い頃は暴力をふるい、成長してからは、存在を無視し、養育の全てを放棄していた。
俺は、あいつらから叶人を守りたかった。
それが、いつしか愛したいという想いに変わった。
その頃には、叶人の心はもう壊れてしまっていて、叶人はいつも、死ぬことしか考えていなかった。
そんな時、タイミング良くあの事故が起きて、叶人は、一生目を覚ますことの出来ない体になってしまった。
病室で眠る叶人の前で、あの女はこう言った。
【もういらないのに】
『だったら俺が貰ってやる』
そう言ってやったけど、あの女には聞こえていなかっただろう。
それから、俺は叶人の夢の中に入り込み、そこに、叶人の現実を作った。
叶人は従順に、俺の言うことを全て信じている。
カゲノのことは、予想外の出来事だった。
俺の夢に入り込めるほど力の強い悪魔だ。
それを、逆に俺が支配できればどんなに気持ちがいいだろうと思った。
最初は、ただそれだけだった。
でも…カゲノと接しているうちに、そんな考えは薄れていった。
寧ろ、叶人の夢の中で力を使い続けている俺にとって、カゲノの優しさは、心地が良かった。
この、狂おしいくらいに欲する心が愛だと言うなら、俺は間違いなく二人を愛しているのだ。
それなら、手に入れるべきだ。
叶人の依存と、カゲノの執着。
俺はその二つの愛を、両方手に入れることに決めた。
それなのに、最後だなんて、馬鹿なことを言うから仕方なくタネ明かしをした。
人間だから、悪魔だから。
そんなの、くだらない。
人間も悪魔も、何も違わない。
悪魔だって、人を愛する。
人間だって、人を壊す。
俺は、カゲノと叶人を愛してる。
そして、愛に満ちたこの二つの夢こそが、俺の幸福だ。
『おやすみ』
甘い甘い、花の香りがする。
――――――End――――――
ともだちにシェアしよう!