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『ん…』 「ヒカル…!大丈夫?」 『…叶人…』 「良かった…もう、このまま起きないかと思った……」 俺が叶人に話したことは、何も全てが嘘ではない。 叶人の家族が、交通事故に遭ったというのは本当。 でも、その事故で両親が死んだというのは嘘だ。 叶人の親は二人とも死んじゃいないし、勿論、叶人自身だって生きている。 叶人が、歩く力と記憶を失ったというのは本当。 でも、失ったのはそれだけじゃない。 叶人は、現実さえも失ってしまった。 叶人の親は、昔から叶人を愛していない。 幼い頃は暴力をふるい、成長してからは、存在を無視し、養育の全てを放棄していた。 俺は、あいつらから叶人を守りたかった。 それが、いつしか愛したいという想いに変わった。 その頃には、叶人の心はもう壊れてしまっていて、叶人はいつも、死ぬことしか考えていなかった。 そんな時、タイミング良くあの事故が起きて、叶人は、一生目を覚ますことの出来ない体になってしまった。 病室で眠る叶人の前で、あの女はこう言った。 【もういらないのに】 『だったら俺が貰ってやる』 そう言ってやったけど、あの女には聞こえていなかっただろう。 それから、俺は叶人の夢の中に入り込み、そこに、叶人の現実を作った。 叶人は従順に、俺の言うことを全て信じている。 カゲノのことは、予想外の出来事だった。 俺の夢に入り込めるほど力の強い悪魔だ。 それを、逆に俺が支配できればどんなに気持ちがいいだろうと思った。 最初は、ただそれだけだった。 でも…カゲノと接しているうちに、そんな考えは薄れていった。 寧ろ、叶人の夢の中で力を使い続けている俺にとって、カゲノの優しさは、心地が良かった。 この、狂おしいくらいに欲する心が愛だと言うなら、俺は間違いなく二人を愛しているのだ。 それなら、手に入れるべきだ。 叶人の依存と、カゲノの執着。 俺はその二つの愛を、両方手に入れることに決めた。 それなのに、最後だなんて、馬鹿なことを言うから仕方なくタネ明かしをした。 人間だから、悪魔だから。 そんなの、くだらない。 人間も悪魔も、何も違わない。 悪魔だって、人を愛する。 人間だって、人を壊す。 俺は、カゲノと叶人を愛してる。 そして、愛に満ちたこの二つの夢こそが、俺の幸福だ。 『おやすみ』 甘い甘い、花の香りがする。 ――――――End――――――

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