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第32話

 はっとして目を開けると、ルカはあたたかい腕の中にいた。外から鳥の鳴き声が聞こえてきて、柔らかい日差しが差し込んでくる。  隣を見れば規則正しい寝息を立てるグランの顔があった。気怠い身体はきっと、あの行為のせいだろう。 「グラン……」  名を呼ぶと、初めて誰かに身体を許した記憶がはっきりと蘇ってきて、起き抜けの顔が一気に赤くなる。  何か粗相しなかっただろうか。グランに嫌われるようなことはしていないだろうか。グランは、自分の身体で気持ちよくなってくれただろうか――初めてのことで何もわからないけれど、どうしようもなく恥ずかしくてグランの腕から抜け出したくなってしまった。 「っ、っ……!」 「ん……ああ、起きたのか。まだ眠っていていいのに」  そう言って目覚めたグランはルカの頭をふわりと撫でて、大きなあくびをした。力の抜けていた耳がぴんと伸びて、それがなんとも言えず可愛く見えた。 「身体は大丈夫か」 「えっ、えと、だ、だいじょうぶ……だよ」 「そうか。……とても可愛かったぞ。一度では足りないくらいだ」  小さく笑って、それから力一杯抱きしめられる。嬉しくて、幸せすぎて、このままずっとこうしていたい。ルカはほころんでしまいそうになる顔をきゅっと引き締めて、間抜けな顔を見られないように気をつけた。 「グラン……は、どうだった?」  呼び慣れない名前を口にして、ルカは問いかける。どうしても自分ばかりが気持ちよくなっていたように思えてしまって、恥ずかしさに耐えてそれを尋ねた。 「なんだ? 不安そうな顔だな」  額に唇が触れ、いきなりぺろりと舐められてルカは肩をびくりと跳ねさせた。『た、食べられる!』なんて思ってしまったが、すぐに愛情表現なのだと気づき、ルカはおとなしくぺろぺろと舐められていた。  そういえば、小さい頃もこんなふうに頬や額を舐めてもらっていた気がする。くすぐったくて気持ちよくて、ルカは目を細めて舌の感触を受け止めた。 「一度では足りない、と言ったろう? これから毎晩抱いてやるから覚悟しろよ」 「えっ!?」  思わず顔を上げたら、グランとばっちり目が合ってしまった。意地悪な顔をして笑っている。からかわれたのだと分かって、ルカはバツが悪そうに俯いた。  少しだけ期待してしまった自分が恥ずかしくて、頭から毛布をかぶってそのまま消えてしまいたかった。 「はは、悪い悪い。冗談だよ、怖がらないでくれ」 「っ……グランのばかぁ……」 「大丈夫だ、ちゃんと大事にする。これからもずっとな」  毛布越しに背中を撫でられて、くるんと尻尾が丸まった。気持ちいい。グランが触れてくれることがすごく嬉しい。 「嘘ついたら、おこるからね!」  精一杯の照れ隠しをして、ルカはぎゅううとグランの身体に抱きついた。

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