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最終話
それから半年の時が過ぎた。あれからクレアとは仲直りできたとは言い難いが、関係は少しずつ変わってきている。時々顔を出す彼女と言葉を交わす機会が増えたのだ。
なぜなら、洞窟の奥でぎゃあぎゃあと泣く小さな子どもがいるからだ。
「ちょっと、お腹すいたって泣いてるじゃない。可哀想に」
もちろんルカの子ではない。唯一の肉親である母親を亡くした、小さな子どもの狼だ。身寄りがなく困っているところを、グランとルカのふたりが引き取った。
「ご、ごめんなさいっ、すぐにパパがご飯をとってきてくれるからね、もうちょっと待ってね」
人狼ではあるものの、まだ人の姿になれないこの子の名前はテオ。テオはある限りの力を使って「お腹がすいた」と泣き喚いていた。
涙で濡れている毛はルカと同じように白くて、テオを抱えてグランと寄り添い合うと、テオは本当にふたりの子どものように見える。
「すまん、遅くなった」
「ああ! テオ、パパが帰ってきたよ!」
獲物を片手にグランが戻ってきた。汗だくなのはテオのために最速で帰ってきたからだろう。
グランが帰ってきて、クレアもホッとする。
「テオがこんなに泣くまで時間がかかるって、どういうことよ。遅過ぎ!」
「俺が悪いんだよ! テオをうまくあやせなくて……」
「そんな言い訳より、さっさとテオにご飯あげなさいよ!」
まるで姑のように指示を出すクレアは、やはりグランとルカとテオを心配してくれているのだろう。彼女がそういう性分なのはわかっていた。
「は、はーい! テオ、ご飯だよー!」
「クレアのやつ、すっかり馴染んでいるな……」
小さく噛みちぎった肉をテオに与えながら、ルカは慌ただしい中でもとても幸せそうだった。とろけんばかりの笑顔に、グランもまた、つたれて口元が緩む。きっと、こんな生活がずっと続いていくのだろう。何か困難があったとしても、ふたりならきっと大丈夫だ。
ルカもグランも、そんな確信を持っていた。
「うん、うん、美味しいね。ちょっとお口ふきふきしようね」
すっかり母親のような口ぶりになったルカは、これまでにない幸せを感じながら柔らかな命を抱きしめ、グランへと微笑みかけた。
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