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スキル設定
街を出ると直ぐに陽が落ちて来た。
「もう少し先に進みたいし、野宿するにも高い木の上が良い」
体を丈夫なロープで幹に縛り付けて寝れば獣対策にも、夜盗対策にもなる。
高い木だっている事を知られたら逃げ場の無い諸刃の剣だった。
先を急ぎたい時間だったが、索敵を兼ねてスキルを使って調べると、薬草のマーカーや鉱物のマーカーが現れた。
「錬金スキルでポーション作れるし、薬草採取をしながら進めばいっか」
素材が揃えばインベントリが付与されたカバンを錬金しよう。
薬草ならまだしも、鉱物は持ち歩くには重過ぎた。
鉱物ランクも、ありふれた鉱物って表示なので、ここじゃなくても採れるだろうと諦めた。
街からだいぶ外れ、森の中へ入るとそれまでの空気感から明らかに、異質な者へ警告しているかの様な雰囲気に緊張をした。
「野宿するにはやはりこの状況は、木の上だなぁ」
森の木々を見上げながら、今迄の生活を思い出していた。
この世界は僕の知らない世界だけど、公爵夫人が離婚をされて慰謝料で若くして隠居するって言うのは前世で流行っていたラノベの内容だった。
今の僕がその公爵夫人だとは思っていないけど、かなり似通っていて違うって思う方が難しい状況だった。
ローレンツォ・モンブランはラノベで離婚される女性、そう、女性なんだ。
実家は准男爵のマカロン。
モンブラン公爵はマカロンとの賭けに負けて、ローレンツォと結婚しなければならなくなった、自由恋愛主義のボンクラ野郎で、賭けの借金のせいでローレンツォと結婚したことがとにかく気に入らない、そんな時に社交場で出会うのが給仕をしていたヒロインの異世界転生してきた女の子、ミルフィーユ。
彼女と運命の恋とやらで結ばれたモンブラン公爵は、ローレンツォに慰謝料を払ってめでたく離婚。
だかしかし、慰謝料のせいで公爵家が傾くところを、ミルフィーユが前世の記憶を駆使して傾いた公爵家を建て直し、幸せになるってなんともアリアリなストーリーだった。
僕も最初は普通に従業員として商売を手伝って、鑑定スキルで美術品を見極めていたけど、その鑑定ってスキルがレアだったって話で養子にされて、そこから王室に目を付けられて今に至るってわけだ。
莫大な支度金に王室とのつながり、そっちに目がいくのは仕方ないけどね。
売られたようなもんで、さすが商人って思ったわ。
確かにラノベで読んでた世界観に似た設定だったけど、性別が違ったしスキルだなんだなんて設定は無かった。
だから最近までラノベの世界だなんて思っても無かった。
それに、こんななんでも有りなボーイズラブとかガールズラブとかの世界じゃなかったし。
でも、モンブラン公爵登場で思い出した。
人物の名前はラノベと同じだってことを。
そう、この気に入らない名前、なんで主要人物がお菓子とかケーキの名前なんだよ。
モンブラン公爵の名前なんて、ザッハトルテだぞ!
まぁ、とにかく、今夜はあの木の上で寝るとするさ。
適当に同じくらいの太さ、高さの木が茂っていて上には枝と葉が密集している木。
下から見たくらいじゃ誰かいるって分からない程度の木を探して、体を幹に縛り付けて眠りについた。
食事は普段からまともに食べられていなかったから、対して苦にはならなかった。
それよりも、あのバカみたいな設定の困窮生活から逃げ出せた事で、気持ちは一杯だった。
公爵家の門の前に黄色から薄茶色の髪の女子供が集められていた。
「旦那様、懸念していたことが起こりました」
執事はこうなることを予想していたと言うのか。
「何故、女子供なのだ!
女はまだ致し方無いとしてもだ! 公爵夫人だと言ってるのに何故子供がいる!」
「新しい使用人は公爵夫人が何歳くらいの方だったか聞かされておりませんでしたので。
それに衛兵も奥様の年齢を知りませんし。
旦那様は知っておいででしたでしょうが……」
「ぐぬ」
この執事、どうしたことか。
分かっているなら言ってくれればいいだろうに。
なんだか、邪魔をされているような気がしなくもない。
「ローレンツォは男性だ!
女子供は全員帰せ! しかもあんな髪色ではない!
ハニーブロンドだ!!」
「しかし、栄養が行き渡らず、少し褪せておりました故、あのような色に見えたかもしれません」
いちいち上げ足を取られている気がする。
「すぐに男性のハニーブロンドを探すのだ!」
もう三日になる。
お腹を空かせていないだろうか、仕事を探すために悪い者に騙されていないだろうか。
「奥様はスキルでうまくやってると思いますし、ここでの生活で家政ならば完璧にこなせると思いますよ。
旦那様が思うような事は無いと思います」
「あんなに痩せて」
「はぁ、そうですね。
旦那様の責任がそこは重ぉございますね」
「さっきから、一体どうしたと言うのだ!!」
「いえ、奥様のご実家を調べましたところ、ローレンツォ様は御養子であらせられ、スキルを知った准男爵様が引き取られた、との事でした。
今は豪商として大っぴらに王室とのつながりを誇示しているようです
ご実家に帰られていないのも、実子がいらっしゃってそちらの方がかなりの悪女らしく、この屋敷で受けた待遇とほぼ同等だったようでございます」
「どういう事だ……」
「分かり兼ねます」
淡々とどこか冷たく言い放つ執事に、処罰を与えて解雇した使用人たちの素性を再度調べるように命令した。
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