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夜盗と獣と傭兵団
四面楚歌ってこういう時に使うんだっけ?
結構な大木に掴まって寝ていたら、ゆさゆさとした揺れで目が覚めた。
「ううぉ!」
辛うじて大声まではいかなかったと思うけど、心霊現象なくらいの大きさにはなっていたと思う。
普段の生活のせいで、寝ぼけるとか寝起きで頭が働かないって事もなく、今の状況把握に徹して揺れてる元、つまり下の方を見た。
「……、熊?」
熊って木登り得意だよな。
こんな高さまでは登れないかな? 登れないよな? 登ってくるなよ!
幸いな事に熊は体当たりしたり、揺らすだけで登ってくる気配は無かった。
「今何時だろう?」
時間の概念はあるけど、時計を持ってる庶民なんて存在せず、教会とか広場にあるみんなで見上げるだけの時計と、王室が鳴らす鐘が大体の時間を教えていた。
そう、すべてが大体。
王室が鐘を鳴らしたって、それを聞いて鐘を打てばどうやったってタイムラグを生じるんだし、正確な時間は王室の近くに住んでる人たちだけの話だ。
こういう領土とか街ですらないようなとこで生活する人にとっては、日が昇った、日が沈んだ、雨が降った曇りだった、寒い、暑い、っていうレベルでしかなかった。
「ゆーれーるー、これずっとされたら、酔いそう」
しかし頑張るなぁ、熊。
下を見ると、黒い熊がさらに別な獣に囲まれていた。
「あれ?」
よく見ると熊じゃなくて人だった。
揺らしていたのでなく、登ろうとしては落ちるを繰り返していて、それで揺れていたみたいだった。
ある程度までは登れるけど、そこから先が上に上がれないらしく、狼みたいな獣に囲まれて余計に焦ってると言う感じだった。
どうするべきか悩んだ。
助けるにはやり方が思いつかなくて、僕もどうしたら良いか焦っていた。
幹と体に巻きつけた丈夫なロープを、体からほどき僕は幹にしっかり掴まって、下にいる人に投げた。
「それに掴まって登って!」
「え、あ、ああ! 助かる!」
頭上から落ちて来た得体の知れないロープに急いで掴まると、運動神経が良いとは言えない動きで、滑ったりしながらひーふーと息を吐いて登って来た。
「いやー、助かった!
ほんと、命拾いしたよ!」
熊だと思った男は、頭から熊の毛皮をかぶり腰には短剣、熊の毛皮の下の背中には大剣が隠れていた。
助けなんかいらなかったのでは? と思いつつ、自分の気持ちとしては満足だったからいいや、と気にしなかった。
「夜が明けるまでは無理そうですね」
「そうだな、さすがにあの数を相手にすると血の臭いでヤバいのも来るだろうしな」
「他の獣ですか?」
「いいや、魔物だよ」
魔物!
「大丈夫だ、俺が、いや、俺らが助けてやるよ」
「はあ、ありがとうございます」
とにかく夜が明けたら、さっさと森を抜けようと誓った。
「あー、信じてねーな?
俺たちはカヌレって盗賊団であり、傭兵団でもあるのさ。
だから、陽が登れば仲間が来てくれるからな」
「えぇ? 盗賊と傭兵って兼務しちゃダメでしょ」
ニヤッと笑った男はその団体の副団長だと言った。
「いろんな戦場で強奪するって事で、兼務なのか」
呆れた。
自分が戦地になった場所の人だったら、非人道的過ぎて許せないだろうと。
朝になったらこの人とは離れないと。
「お前、面白いな
俺の世話係として雇ってやろう」
「いえ、これから次の街へ行かないといけないので」
「家出したんだろ? なら仕事が必要だろ」
あ、髪を切ったからか。
「大丈夫です」
どう答えても面倒になる事が必至だった。
逃げようがない。
下に命懸けで下りても逃げられない。
朝になってこの男の仲間が来たら、逃げるタイミングが無くなる。
逃げるなら今、もしくは下の獣がいなくなるタイミングしかなかった。
夜が明けたら、逃げようが無かった。
衛兵の一人が街で探すなら、まず身分証が必要なはずだから、身分証が手に入る場所と言えばギルドだと言い出した。
「ギルドでローレンツォが働けるとはとても思えないが」
「ですが閣下、街で身分証も無く働ける場所は娼館しかありません!」
娼館だと!
「いや、ローレンツォはそんな事はしない!
魔法ギルド、家政ギルド、念の為冒険者ギルドも調べてくれ」
「はっ!」
思い出しても、ローレンツォは大人しく口ごたえはした事がなかった。
「口下手で余計な事を言う人ではなかった」
「ですから、そう言う契約でしたし、スキルが封印されていたと言ってるじゃないですか!」
執事は最近、口煩くて困る。
ローレンツォは慎ましく、私の前に出て出しゃばるような事もしなかった。
全ては私を思うが故の行動だと思うと、愛しさが溢れ出した。
「奥様は、使用人に嫌がらせをされて、そんな暇が無かったようです。
処罰を受けた使用人のうち、半数程がマカロン准男爵の命を受けた者たちでした。
他の者たちは、感化されたようでごさいます」
ギルドでローレンツォの消息が掴める事を祈りつつ、マカロン准男爵の意図を考えあぐねていた。
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