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第7話
『今度涼真くんの家に行ってみたいんだけど、かまわない?』
そのメッセージを見た瞬間、涼真は物理的に飛び上がった。嬉しさのあまり家具に脛をぶつけたが、そんな痛みなど感じないほど。涼真は自分でも引くくらい喜んだ。
「やっべえ、マジで嬉しい・・・どうしよ・・・!」
天を仰ぎ、顔を覆う涼真。瑞稀はそんなつもりで言っていないのかもしれないと頭では分かっているが、どうしたって期待はしてしまう。今の今までそんなそぶりも見せなかった瑞稀が、家に来たいと言い出してくれるなんて。期待するなという方が無理だろう。
「と、とりあえず掃除しとこ・・・!」
まだ瑞稀が来る日も決まっていないのに、涼真はいそいそと掃除機を取り出した。母の厳しい言いつけのおかげで部屋の中を綺麗に保つ習慣はついている涼真だが、どうしても掃除機をかけたりすることは後に回しがちだ。だが瑞稀がいつ来てもいいように、埃は撃退しなければならない。明日は休みだし、風呂掃除とトイレ掃除もしなければ。涼真はるんるんと効果音がつきそうなほど上機嫌で、掃除を始めた。
その後、瑞稀が来るのは1週間後に決まった。
ピンポーン。
軽快な音に、涼真は飛び上がって玄関へ向かった。
「はいはーい!」
「こんばんは。おじゃまします」
瑞稀からの連絡があってから、1週間後の夜。玄関のドアを開けて外に立っていたのは、涼真が待ちに待った恋人だった。瑞稀はぺこりと頭を下げてから、中に入る。涼真は、それはもう輝くばかりの笑顔で彼を迎え入れた。
「瑞稀さんいらっしゃい!狭いとこだけどゆっくりしていってな!」
「ありがとう。何だか緊張するな。あ、これお土産に持ってきたんだ」
「え、そんなんいいのに!」
「一緒に飲もうと思って。涼真くんのご飯が楽しみだったからさ」
「おーなるほど!じゃあメシの時に開けよ!」
「うん」
涼真のアパートは一般的な1人暮らし用の部屋で、いわゆるワンルーム型だ。ベッドにパソコンデスク、備え付けのクローゼット。それから奥にキッチンがあるという形。瑞稀は物珍しそうにキョロキョロと部屋の中を見回した。
「1人暮らしの部屋ってこんな感じなんだね」
「瑞稀さんって1人暮らししたことないんだっけ?」
「うん。ずっと実家暮らしだよ。ちょっと憧れるなあ」
「割と快適だよ。好きな時間に起きて好きな時間に寝れるし。あ、でも瑞稀さんは仕事してるからそうもいかないか」
「あはは、そうだね。でも好きな時間に起きれるっていいなあ」
「オレも実家戻ったら毎日お袋に叩き起こされるだろうし、今だけの特権なんだよな~。あ、座って座って!」
「うん、失礼しまーす」
涼真が床に用意してくれている座布団に腰を下ろして、瑞稀はもう一度ぐるりと部屋を見渡す。涼真はローテーブルで床に座るタイプの生活スタイルらしく、座布団とクッションがいくつか乱雑に置かれていた。
「張り切って色々作りすぎた気がするんだけど・・・腹減ってる?大丈夫?」
「うん。仕事終わりで何も食べずに来たから、ペコペコだよ」
「お、それならよかった。もうちょいで出せるから待ってて」
「楽しみだなあ」
実は今晩の食事は、涼真が腕によりをかけて作った料理となっていた。瑞稀のリクエストだ。涼真の部屋に来たいと言った彼は、それと同時に涼真の料理を食べてみたいとも言った。当然、涼真はそれに了承して夕方から張り切ったわけである。
「一応ちゃんと作ったから大丈夫だとは思うけど、オシャレさはないからな!そこは勘弁ってことで!」
「ふふ、大丈夫だよ」
ふわっと肉と何かのタレが焼ける匂いが漂ってきた。瑞稀は鼻を動かして、嬉しそうに目を細める。
「美味しそうな匂いだな~」
「へへ、そう?お袋直伝だから、味は保証するよ!」
「そうなんだ。じゃあ原田家伝統の味ってことだね」
「そこまで大層なもんじゃないけどな~。よーし、もう持ってっていい?」
「おお、ぜひぜひ」
涼真が両手に持ってきたのは、生姜焼きとサラダのセットだ。そして次に炊きたてのご飯と味噌汁が運ばれてくる。男子大学生らしく盛り付けは豪快だが、とても美味しそうだ。瑞稀は小さく拍手した。
「すごい、涼真くんって本当に料理上手なんだね!」
「まー、節約のために色々作ってたらそれなりになった感じかな。この味噌汁もお袋に教えてもらったし。実家から送られてきた大根入り!」
「そうなんだ。ますます楽しみだな」
「持ってきてくれた酒、どうする?定食スタイルにしちまったから、酒には合わねえかも」
「じゃあ食後の楽しみにしようか。実はさっきの袋につまみも入ってるんだ」
「え、そっか。じゃあそっちのがいいな。今はとりあえず麦茶でいい?」
「うん、ありがとう」
涼真が麦茶を持ってきて腰を下ろすのを待ってから、2人は手を合わせた。湯気が出ている生姜焼きを一口かじると、絶妙な加減で甘辛いタレとしょうがのピリッとした辛さが口内にじわりと広がる。恋人が作ったという欲目なしに、美味だった。
「おいしい・・・!」
「お、マジ?口にあった?」
「うん、すごくおいしい・・・!涼真くん、本当にすごいね・・・!」
「大げさだって。でもよかった。オレも食おうっと」
涼真も自分が作った生姜焼きを食べ、安心する。瑞稀に食べてもらうにも不足のない出来だ。生姜焼きは母から初めて習った料理で、作った回数もそれなりだったので自信があった。だが恋人に披露したのは初めてだったので、やはり心配でもあったのだ。だが杞憂に終わったらしい。瑞稀に喜んでもらえたのなら、何よりだ。
「この味噌汁もおいしいね。何だか優しい味だな」
「味噌汁に使ってる味噌はばあちゃんが作ってるんだ。送ってもらっててさ」
「え、味噌を?味噌って家で作れるんだ・・・?」
「あー、ばあちゃん何でも作るからなあ。漬物とかも漬けてるし。たぶん、手間はかかるけど作れないわけじゃねえって感じなのかも」
「そうなんだ・・・。涼真くんのおうちはすごいね」
「そう?」
「もし映画みたいに世紀末になっても、涼真くんのおうちは飢えなさそうだ」
「あはは、世紀末って!それこないだ見た映画のやつじゃん」
「ゾンビが来てもきっと大丈夫だね」
「確かに、野菜と味噌はあるから当分はしのげそうだけどな」
他愛もない話をしながら、箸を進めていく。瑞稀は何度もおいしいと繰り返しながら、大盛だった生姜焼きもぺろりと平らげた。少し多く作りすぎた気もしていたので、完食してもらえて涼真は感無量だ。洗い物は瑞稀がすると申し出てくれたが、彼にやらせるのも何だか悪い気がしたので涼真が片づけた。瑞稀が洗い物をすると危なっかしい気がしたというのは、涼真だけのヒミツだ。
「ごちそうさま。本当においしかったよ。ありがとう!」
「やー、お粗末さま。喜んでもらえてよかったよ」
「ごめんね、急に押しかけてご飯まで作ってもらっちゃって・・・。涼真くんの部屋に来させてもらうならって思ったんだ」
「いいよいいよ、むしろオレの料理でそこまで喜んでもらえるなんて思ってなかったし。オレ、恋人にメシ作ったの初めてだったからさ」
「え、そうなの?前に彼女さんがいたって言ってたけど・・・」
「うーん、彼女んち行ったことはあったけど、うちに来てもらったことなかったんだよ。そうなる前に別れちゃって。だからこの部屋に来た恋人は、瑞稀さんが初めてなんだ」
「そうだったんだ。僕でよかったの?」
「え、いいに決まってんじゃん!」
「ふふ、そっか。ありがとう」
部屋で座っている瑞稀と会話をしながら、涼真はてきぱきと晩酌の用意をした。瑞稀は明らかに高そうな酒を持ってきてくれたようだ。涼真の家にあるグラスではどうしても負けてしまうが、それはご愛嬌ということで許されたい。酒と一緒に入っていたつまみも、高価そうなサラミと一口サイズのエビの干物だった。せっかくなら皿に出してしまおうと、涼真は封を開ける。
「瑞稀さん、サラミとエビどっちから食う?」
「涼真くんの好きな方でいいよ。どっちもその酒に合うヤツだから」
「おー、そうなんだ。じゃあサラミの方から食おうかな」
「あ、もう用意してくれてるの?」
「うん。とりあえず出しといてゆっくり飲もう」
「そうだね」
酒とグラス、サラミの皿をお盆にのせて、涼真はキッチンから出てきた。
「どう考えてもグラスと酒が合ってない気がするけど、ごめんな」
「そんなこと気にしなくていいよ。飲めたら大丈夫」
「瑞稀さんって意外とそういうとこ雑だよな」
「そう?」
「うん、そういうとこが好きだけど」
「・・・!ふふ、ありがとう。照れるな。あ、せっかくだし僕が注ぐよ」
「やべー、これ飲まないと怒られるヤツだ」
「僕の酒が飲めないって?」
「こえー!パワハラじゃん、社長~!」
「あはは」
瑞稀がグラスに注いで、交代して涼真も彼のグラスに酒を注いだ。そして軽く乾杯をして、涼真は注いでもらった分を一気に煽る。浮かれ切っている彼にとっては、味がどうというよりも瑞稀と部屋で飲めているという事実がどうしようもなく嬉しかった。それに、先ほどまでは食べることに集中していたため忘れかけていたが、今は2人きり。誰かの視線なんて何も気にしなくていいシチュエーション。そんな状況なので、涼真の下心はむくむくと膨らんでいる。さすがに今行動を起こすのは即物的すぎて嫌われかねないということは涼真も理解しているので、酒を飲んで誤魔化そうとしているわけである。
「あ、涼真くん。ここって禁煙?」
「いや?特にそういうことは注意されてねえけど・・・」
「じゃあ、1本だけ吸ってもいいかな?」
「!」
瑞稀はポケットから煙草とジッポライターを取り出した。それは、初めて見る光景だった。今まで彼が涼真の前で喫煙することはなかったのだ。どうしたんだろうと思いつつ、涼真は頷いた。
「いいよ。一応窓とか開けよっか?」
「あ、そうだね」
「何か珍しいな。吸いたくなった?」
「うん。お酒入ると、少しね。いつもは我慢してるんだけど・・・。ごめんね」
「や、別にいいよ。親父も吸うし、割と慣れてるから」
「ああ、そうなんだ。じゃあお言葉に甘えて」
瑞稀は慣れた手つきで煙草を咥え、火をつけた。窓を開けていても、部屋の中には独特の香りが漂う。瑞稀がいつも購入しているのはコンビニで買える中では高級な部類に入る煙草で、だからなのか瑞稀が火をつけたものは、涼真が知っているような香りではなかった。少し甘く、バニラのような。クセになる香りだ。
「瑞稀さんの煙草って、そんな匂いだったんだな」
「そう、ちょっと甘いんだよね」
「それって吸うと甘い味すんの?」
「吸ってみる?」
「あ~・・・オレ、昔親父のヤツ吸ってみたんだけど死ぬほどせき込んでさ・・・」
「あれ、そうなんだ。昔って、まだ大学生になってない頃?」
「内緒な!親父がスパスパ吸ってるの見て、興味出ちまって。でもあの時だけだから!」
「悪い子だな~」
「えー、瑞稀さんだって成人する前に煙草吸ってそうじゃん」
「それは想像にお任せするよ」
「あ、それ絶対やってる人が言うヤツ!悪いんだ~」
涼真がおどけて言うと、瑞稀は煙を吐き出しながら楽しそうに笑った。右手の指で細い煙草を挟んでいる様が妙に色気があって、目の毒だ。涼真は湧き上がる劣情に大人しくしろと言い聞かせる。せっかく部屋まで来てくれたのに、今がっついてしまったら台無しだ。そんなことしか考えてなかったのかと思われるのだけは絶対に避けたい。だが煙草を咥える口元を見ているとどうにも我慢できなくなって、涼真は瑞稀の頬に手を伸ばした。
「涼真くん?」
「・・・キス、してもいい?」
ねだるように小首をかしげる涼真。瑞稀はふっと目を細めて、煙草を口から離した。
「いいよ」
瑞稀が目を閉じるのが、合図。伏せられた睫毛の影に目をやりながら、涼真は彼の唇に己のものを重ねた。そのまま舌を差し入れても、瑞稀は拒まない。れろ、と舌を絡めると涼真の口内にも先ほどから香っている甘いにおいが広がった。
「ん、んぅ、ふっ・・・」
「っ、瑞稀さん、」
「んんっ、」
涼真が瑞稀の肩を抱き寄せて、自分の腕の中に閉じ込める。深い口づけをしたまま、2人の体はぴったりとくっついた。お互いの心音といやらしい水音だけが聞こえてくる世界。涼真はキスに夢中になりながら、気づけば瑞稀の体を押し倒しかけていた。
「っ、ちょ、っと待って、涼真くん、」
「!!」
中途半端な体勢になりながら、瑞稀は涼真をやんわり制止する。ハッと我に返った涼真は慌てて彼から体を離した。
「ご、ごめん!つい・・・!」
「ううん、こっちこそごめんね。煙草が危なかったから」
「あ・・・そっか・・・!」
瑞稀が右手に持っていた煙草は、灰が落ちかけていた。確かにこれは危ない。涼真はしゅんとして項垂れてしまった。もし犬のような耳がついていたとしたら、垂れさがっているだろう。瑞稀は苦笑して、携帯灰皿を取り出した。
「ごめん、お手洗い借りてもいい?」
「あ、どうぞどうぞ!玄関出る方に行って右だよ!」
「ありがとう」
瑞稀が立ち上がって部屋から出る。トイレのドアがぱたんと閉まった音が聞こえてきたと同時に、涼真は深い反省のため息を吐いた。がっついてはダメだと分かっていながら、あのまま瑞稀が止めていなかったら。何とも情けない。酒が回っているのか、頭もふわふわとして自制が利かなくなっているらしい。
「あーダメだろ、オレ・・・」
ほわんほわんと意識が浮いていくのを感じながら、涼真は自分の頬をぺちぺちと叩いた。ディープキス1つでこうなってしまうなんて、スマートな男とは程遠い。酔いに任せて、なんてことはしたくないのだ。次に進むとしたら、きちんと瑞稀の意志を聞いてからにしたい。涼真はそう考えながら、段々と瞼を降ろし始める。どうしたのだろうか、上手く頭が回らない。そこまで強い酒ではなさそうだったが、一気に煽ったのがいけなかったのかもしれない。
「涼真くん、お手洗いありがとう・・・って、どうしたの?」
「ん~・・・・・」
トイレから戻ってきた瑞稀は、涼真が頭を揺らしていることに気づいて駆け寄った。
「もしかして、調子悪い?大丈夫?」
「だいじょーぶ、何かめっちゃ眠たくなってきただけ・・・」
「そっか・・・。後片付けはやっておくし、眠いならもう寝よう?」
「やだ、もったいねえ・・・」
「え?」
「せっかく、瑞稀さんが来てくれた、のに・・・」
「・・・!」
「みずき、さん・・・・・」
涼真はついに耐え切れなくなって、瑞稀に寄りかかって寝息を立て始めた。まるで幼子のような、穏やかで無垢な寝顔。瑞稀は彼の顔を見つめて、それから前髪をあげてその額に口づけた。
「・・・涼真くん、ごめんね」
自分にもたれている涼真を抱きしめながら、瑞稀は謝罪を口にした。許されることはないと、分かっていながら。
涼真が急に眠気を感じて眠り込んでしまったのは、他の誰でもない、瑞稀のせいなのだ。彼は手土産として持ってきていた酒に、睡眠薬を仕込んでいた。自分が注げば涼真は飲んでくれるだろうと踏んでのことだ。酒を一気に煽っていた涼真をしり目に、瑞稀は飲むふりをしただけで飲み込んではいなかった。
もちろん、睡眠薬といっても健康に害はないもので後遺症も残らないタイプの合法薬だ。だが飲み物に薬を仕込んでいる時点で、瑞稀は涼真からの信頼を裏切ったと思っている。けれどこうでもしないと、彼の傍を離れる決心がつかなかったのだ。
最後に涼真との思い出を作って、彼を眠らせて去り、そして彼とはこれから二度と連絡を取らない。瑞稀が考えたシナリオはこうだった。別れてほしいと言えば理由を聞かれるだろうし、涼真に縋られたら覚悟が揺らいでしまいそうで。
いや、そんなこと言い訳でしかない。言い出せなかったのだ、別れてほしいなんて。瑞稀の心は、彼と離れたくないと叫んでいるから。
「ごめんね、ごめん・・・涼真くん、ごめんね・・・」
涼真を抱きしめている手に力を込めながら、瑞稀は何度も「ごめん」を繰り返した。
彼と離れることが正しいと分かっている。彼を巻き込むわけにはいかない。彼を想うなら、彼の手を離さなければならない。本当はきちんと話して「自分のことは忘れて」と伝えてから去るべきだとも、本当は分かっている。
でも、ダメなんだ。こんな最低な方法で君の傍を離れることしか、僕にはできないんだ。
期待させてるって分かっていながら部屋に上がりこんで、煙草で残り香を残して、少しでも君に忘れてほしくなくて。こんなズルいやり方をしてまで、君に忘れられるのが怖いんだ。恨まれてでもいいから、君の心に残りたいんだ。
組長としての名前も、背中の入れ墨も、君を守るために明かさなかったなんてただの言い訳で。本当は、君に嫌われるのが怖かっただけ。極道者であることを君に知られて、太陽のような笑顔を向けてもらえなくなるのが、恐ろしかっただけ。
僕はどこまでも自分勝手なんだ。こんな最低な男、忘れてもらうのが一番なのに。それでも、忘れないでと願ってしまう。もう二度と会えないけれど、ほんの少しだけでも君の心に居させてほしいと望んでしまう。
そんな資格、僕にはひとつも無いのに。
「・・・涼真くん、好きだよ。大好き」
いつかと同じようにすうすうと穏やかな寝息を立てる涼真に、瑞稀はそっと口づけた。そして彼の体をベッドに横たえさせる。そのあと用意していたメモをテーブルに置き、酒を回収した。置いて帰ってしまえば、彼が誤って口をつけかねないからだ。念のため、つまみも袋に入れた。まるでこの部屋に自分が来たことを消すように、瑞稀は小さな痕跡まですべてを消す。唯一残っているのは、甘い香りと小さなメモだけだった。
「・・・・・さよなら、涼真くん」
瑞稀は一度だけ部屋を振り返って、それから涼真の家を後にした。
『涼真くん、美味しいご飯をごちそうしてくれてありがとう。とってもおいしかったよ。朝まで一緒にいたかったけど、仕事の電話が急に入っちゃって。途中で帰っちゃってごめんね。とりあえずお酒とつまみは片づけておいたよ。瓶は持って帰っておくね。じゃあ、また。』
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