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1.「ところで、精通しましたか?」

「ところで、マリアくんは精通しましたか?」  社交シーズンの王都。公爵邸の庭園は、冬薔薇の赤いグラデーションが見事だ。淡い木漏れ日が差し込む東屋で、真面目なはずの婚約者殿からトンデモナイお言葉が飛び出した。 「えっ……せい……?」  向かいに座るノエ様を、僕はマナーを忘れて凝視してしまう。  背はスラリと高く、艷やかに整えた金色の短髪は華やかだ。けれど、それ以外は取り立てて目立つ容貌じゃない。そこそこの貴族令息の僕にお似合いの、普通の政略結婚のお相手だと思う。  家長と正室と長子が地位も名誉も財産も総取りする文化の我が王国において、次子以下の同性婚は割と一般的だ。政略結婚なら尚更。養うべき一族郎党の人数調整を考慮して、子供を成さない男性同士の婚姻が好まれる。 「精通です。少し前に閨房術の講義を受けました。マリアくんは知っていますか?」 「……は、い……」  つまり、セッ……男のアレが男のアソコにズゴーンとアレしちゃうやつだよね? ええ、存じ上げておりますが!    公爵家の末っ子男子のノエ様と、二つ年下で伯爵家次男の僕。家格的にも体格的にも、僕が周囲に嫁扱いされている。男子の遠乗りやカード遊びにも加わるし、ご令嬢たちのお茶会にも呼ばれがちだ。甘いもの、好きだし。  うん、女の子のおしゃべりってエゲツナイよね。なぜかオネーサマたちが、男同士のアレヤコレヤを詳細に教えてくださいましたよ。僕が閨房講義を受けるより前に。 「それなら、話が早い」  ノエ様はスッと立ち上がり、僕の隣にゆっくりと腰を下ろす。でも、手のひら三つ分ぐらい距離を空けて。 「私はマリアくん以外娶るつもりはない。出来れば、マリアくんも私だけであって欲しい」  婿側にも嫁側にも、婚姻に人数制限はない。政略同性結婚の場合、第一夫夫は体の関係はナシで、信頼で繋がるパートナーに。第二夫人以下は恋愛で異性婚を選ぶことが多い。いろいろ立場は弱いし、庶子には相続権は無いけれど。  将来僕は男性のノエ様と白い結婚をして、おっきいおっぱいの女の子を僕の愛妾にする……のかなぁと漠然と思っていた。まだ王都学園の生徒で思春期だから、妄想気味なのは許してくれ。 「だからね。少し早いけれども、私と初夜を試してみませんか?」

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