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10.「僕が揉みたいのは、ノエ様の雄っぱいだけですっ!」
午前の講義が終わりノエ様が下級生クラスに現れると、教室内は騒然とし噂で持ち切りに……は、ならなかった。
まあ、そうだよね。ありふれた灰髪灰目の僕を迎えにきたのは、控えめなノエ様だもの。脱いだらスゴイのは内緒。
学園内も社交界も只今話題沸騰なのは、生徒会長でもある王太子殿下とオッフェーリア男爵令嬢との突然のラブロマンス。
オッフェーリア嬢は僕と同じクラスだ。ノエ様と僕が親密な様子だろうと、フライングで体の関係に踏み込もうと、人目につくことはない。
「マリア、行こうか」
「はい」
ノエ様にエスコートされ、大食堂のある離れの棟に向かう。途中、ふと思いついて立ち止まる。
「どうしたの?」
「ごめんなさい、すぐに戻ります」
足早に少し引き返し、教室の窓から見かけた花壇の前でしゃがみ込む。
「これを」
「ああ、もう春だね」
早咲きのクロッカスだ。寂しげな庭に、小さくても元気いっぱいの黄色。
「貰っていただけますか?」
「ありがとう、マリア」
ノエ様は僕の手から花を受け取り、楽しそうに再び歩き出す。
別館に着き、何となく最上級生用にと決まっている一角に落ち着く。オーダーを終えたノエ様は、供された水差しに一輪を飾る。
「綺麗だな」
ほのぼのと見惚れていると、食事中の皆の視線が一斉に同じ方向に集まっていた。気づいて僕も目を向けると……うわぁ……噂のオッパーイ嬢と、王太子の婚約者である公爵令嬢の取り巻きが盛大にモメている。
我が国では側妃の御子様は庶子になるので、王位継承権はない。正妃の座を必死で奪いあうのは、理解できるけれど……
あ、間違えた。オッフェーリア嬢だった。彼女は僕が唯一おっぱいを見たことのある女性だ。
「マリア」
向き直ると、鋭い眼光を湛えた淡茶の瞳に射抜かれる。
「君の好みはわかっている。だが、マリアは私の夫だ」
いやいやいや、ち、違う! オッパーイ嬢のぽよよんおっぱいは男の理想かもしれないが、僕が見たのは偶然で不可抗力だ!
庇護欲をそそる美少女なのに生徒会の役員たちを何股にも掛け、校舎内でコトに及んでいるせいで。僕の眼福は二回だけれど、他の生徒もかなりの数目撃しているはず。
自分の婚約者が役員ではないことが、実はちょっぴり残念だった。家格的には副会長になってもおかしくない。
でも今は、ノエ様がオッパーイ嬢の毒牙にかからずホッとしているんだ!
「僕が揉みたいのは、ノエ様の雄っぱいだけですっ!」
……は? えっ、わあああああ、やってしまった。
一瞬無になった後、頬を真っ赤に染めるノエ様。注目がアチラに集まっているのがせめてもの救いだ。
「マリアの、ばーか……」
小声で甘えて拗ねるノエ様に、言い直す。
「この世界で僕が花を捧げるのは、生涯ノエ様お一人です」
物語になるような僕たちではないけれど、ずっと、一生、夫夫二人で幸せだ。
【本編・終】
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