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 凛華の視線が痛い。  席替えをしていつもの窓際の一番後ろになっていた俺は隣の席に居る凛華をしっかり見ることができないでいた。  全く見ないのはおかしいからたまに目を向けてヘラッと笑うだけはしておく。  だけど、鋭いその視線は何かを探るようで、全てを暴かれそうなその目から逃れるように俺は宮部に教えてもらってただの言葉の羅列ではなくなっている教科書に目を落とした。  いつもの最前列ドセンターに居る宮部を見るのも躊躇う。  凛華には俺の気づいていないようなことまでも見透かされている気がして、俺はとにかく必死にもうショートしている頭で教科書の文字を追った。  チャイムが鳴ってやっとこの緊張から解放される……と思いきや、 「琉生」  俺の机に手を付いてこっちを見る凛華に行く手を阻まれる。 「何だよー」  笑って聞きながらも全く笑っていないその目を見るだけで目を逸したくなった。 「……琉生の好きな人って委……」  咄嗟に俺はその口を自分の口で塞ぐ。 「凛華……ちょーっと休憩しねぇ?」  ぷるんと淡く色付いた唇から耳元に移動して低く囁くと、凛華はこくりと小さく頷いた。  呆れた顔の武野もキャーキャーしながら笑って凛華の腕を突付く美空もほとんど目に入らない。  内心かなりバクバクしながら、俺はざわつく教室を凛華の手を引いて後にした。

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