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結局一時間授業をサボって教室に戻ると工藤が仁王立ちで立っていて
「ごめんね」
俺はそのまま通り過ぎて席に向かう。
何かを言いかけた工藤の声は席が隣同士の俺と凛華がキスをして更に共に消えたことで騒ぎ出した教室内の声に掻き消された。
俺はイスに座ってそんなのは耳に入れず机に突っ伏す。
美空たちが凛華の席に集まって騒いでいたが視線を感じるだけでそれも耳には入らなかった。
いつの間にか公認のカップルにされ、グループで居ても気づくと凛華と二人にされていたが、否定するのも面倒で深い息を吐き出す。
少し顔を上げて前を向くと、たまたま振り返った宮部と目が合ったがまともに見ることができなかった。
宮部もあのキスを見ていて、俺と凛華が付き合ってる……その噂を信じたら、凛華のことを諦める?
俺の気持ちは知られず、そっと宮部はあいつの恋にケリをつけてくれる?
でも、傷つく宮部は見たくなくて、もうあんな顔はして欲しくないとも思う。
もう、“辛い”も“寂しい”も“悲しい”も思って欲しくないのに……。
穏やかに笑って小さく丸まらずに安心して眠って欲しいのに……。
どんな顔であいつに会って、どんな話をしたらいいのかもわからない。
結局、この日から宮部との勉強に行くのはためらってしまい、宮部が夕飯もうちに来ることはないまま夏休みになった。
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