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第1話

 平日夕方。  定時に会社から帰れる嬉しさはあるものの、足取りは重い。どうしてここの会社は出入口が一ヶ所しかないんだ。  新宿というオフィスビルが立ち並ぶ都会のビルの中にオフィスがあるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。  裏口の非常口はいつも鍵がかかっている。非常事態はいつ来るか予想がつかないのだから施錠しない方がいいのではないかなどとビルのセキュリティにまで文句をつけてしまう始末。  あくまで脳内だからただの愚痴を脳内処理しているだけ。今から一ヶ所しかない出入口から出ると待ち受けてる者から言われることが予想ついてるからこその愚痴だ。  多分、隣で歩いてる亮ちゃんには俺のこの愚痴が駄々漏れなんだろうな…。 「あっ、出てきた!俊!そろそろ決めてちょうだい!どの子とお見合いするの?!どの娘さんも由緒正しいお家柄で申し分ないのよ!何が不満なの?!あなたしか男の子いないんだから跡継ぎを残してくれないと、私もパパも心配であの世になんかいけないのよ?!」  やっぱり今日もいた。来られる距離だからといって会社の入ってるビル前で待ち伏せはやめてほしい。待ち合わせなんて可愛いものではない『待ち伏せ』だ。 「毎日毎日やめてよ。まだ2人ともあの世にいくなんて年じゃないよね。縁起でもない」 「そんなの比喩に決まってるわ!でも人間明日はどうなるか分からないのよ?!早く安心させてくれてもいいじゃない?女の子が嫌なら隣にいる亮ちゃんでもいいのよ?男の子が赤ちゃん作れる世の中になったんだから、どちらでもいいのよ。亮ちゃんなら産まれた時から知ってるんだから家族になるのも簡単でしょ」 「そんな事急に言い出して。亮ちゃんも困ってるよ、母さん」 「僕ならいいよ?」 「………へっ?」 「僕、俊のお嫁さんになって赤ちゃん産んでもいいよ?俊お見合いめんどくさいんでしょ。僕でいいんじゃない?」  平静を装って言えた。…とうとう言えた!毎日仕事終わりを待ち構えて俊にお見合い話を迫るおばさん。困ってる俊を毎日見てて、決心は出来てたんだけど、タイミングがつかめなかった。  今日やっっっっと言えた!

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