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第1話

 好きな人には、親友兼最愛の恋人がいます。幼なじみ同士でもある二人です。  昔はその人がかまってくるのが鬱陶しくて、弟扱いされるのが腹立たしくて、素っ気ない態度もとったりしたけれど、その人の態度は変わりませんでした。そのうち気づいたんです。弟扱いしないで、1人の男として見て欲しかったってことに。  その人とは、同じバンドのメンバーでありベースの亮二さん。そして亮二さんの最愛の人はボーカルで亮二さんの同い年の俊さん。  僕が所属してるバンドはツインギターなので、いつもベースの亮二さんの横の立ち位置の僕は演奏中、ふと我にかえった時に隣の彼を意識してしまう事がありました。僕が真ん中にいる事を気にもせず、ボーカルとベースで演奏中もちょくちょく目を合わせる二人。  そんな二人の間で演奏を続ける僕。  少し惨めで、ここから抜け出したいのにこのバンドの音楽性が、奏でる音が好きで抜け出せない。  反抗期という年齢も過ぎて、「ありがとうございます」とか、軽い調子で「亮二さんのそういう所好きですよ」とか言えるようになった時にはすでにあなたは俊さんと付き合っていた。  同じメンバーとして、年下だからとか年上だからとか気にせず友達として接してくれる俊さんも僕は大好きでした。人見知りでギターが友達だった僕がこのバンドに来て一番最初に打ち解けられたられたのも俊さんでした。  それは友達としての好き。あなたの事はメンバーとして好きな気持ちと、恋しくて苦しくなる気持ち。二人が仲良くじゃれてるのを見るのは楽しかったけど、見えない楔を打たれてるようにズキズキ痛い事もあった。  この気持ちを表面に出したら俊さんに申し訳ないと思っていたのに、自分の中のシャボン玉が破裂したかのように想いが溢れて言ってしまったんです。 「好きです」 亮二さんは優しく、少し寂しそうに笑ってくれました。 「お前は優しいね。俺と俊が付き合ってるの知ってて、偏見ないってとこ見せたくてそんな事言ってくれるんでしょ。ありがとね」 亮二さんより少し背の高い僕の頭を撫でながら、あなたはそう言った。本気にしてくれなかったのか、はぐらかされたのか、よく分からなかった。考えて考えて、はぐらかしたんだなと思った。ズルイよ。  分かったのは僕の気持ちはいらないって事。意識的だろうと無意識だろうと、人の気持ちをなかった事にするのはズルい。そうしてまた二人して仲の良い姿をメンバーに、ライブを見に来てくれるファンに、僕に見せつけるんだ。どんどん自分の中に黒い感情が溜まっていった。  どうすれば1人の男として見てくれる?あなたより多くタトゥーをいれたらどうだろう。あなたが開けてない粘膜にピアスをしてみたらどうだろう。どんどん自分の外見が変わっていった。  子供じみた考えだったけど、なんとか目立つ事をして振り向かせたかった。それでもあなたは「おぉ、派手にいれたな」「痛くなかったか?」やっぱり僕を可愛い弟扱いしかしなかった。僕だって、俊さんに向けるような顔を向けてほしいんだ。何が違う?何をすればこっちを見てくれるの?  彼女が出来たように見せかけてもダメだったし、筋トレを頑張ってもダメだった。こんなにも出会った時よりも体格もよくなったのに。あなたを簡単に抱えてベッドに押し倒すくらいわけないことなのに。一度既成事実さえ作ってしまえば…。そんな良くない事も考えたりしました。  

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