16 / 23

第1話

 ここは森の入口にある動物病院。  一見して普通の動物病院だが、ある特徴がある。  飼い主に連れられたペット以外に、森でケガをした動物たちが自ら訪れてくるのだ。  今朝も早くから小鳥の囀ずる声に起こされた。囀ずるなんて可愛いもんじゃない。  鳥の大群の絶叫だ。  言葉が分からなくても分かる。  声を揃えて俊おはよーと各々に叫んでいるのだ。  ダブルベッドの隣にいるはずの可愛い奥さんは今朝もいない(便宜上奥さんと呼んでいる)  また診察室か。と、寝癖だらけの髪を少しばかり整えながら向かう。  ドアを開けるとすでに白衣で獣医の格好をした妻がいた。  「おはよう亮ちゃん」 やはりここだったか。診察台には小さな兎。その横の椅子には母親らしき兎。 「おはよう俊。昨日は激しかったのにもう起きてるの?」 からかうように肩に顎を乗せ聞いてみた。 「もう!小さい子もいるのにそんな事言わないの!」 「小さい兎さんには何の事かわからないよ」 「お母さん兎もいるでしょ!…はい、終わりっと。ちょこっとの怪我だから通院なしで治るはずだよ」 俊は子兎を優しく抱っこすると下に下ろしてあげた。  その隣にお母さん兎らしき兎も飛び降りる。  心なしか俊に診てもらった後の動物は表情がイキイキしてるように見えるのは、俺の贔屓目もあるかもしれない。 (しゅん先生ありがとう)  兎の親子はペコリペコリとお辞儀をしながら、小動物用の出入口を開け出ていった。 「ありがとうだって」 「ん。頭下げてたから何となく俺にも伝わったよ。で、まだ早いから昨日の続きしようか?床上手な奥さん?」 「奥さんはやめてって言ったでしょ。なんか、恥ずかしいから…。それに…昨日沢山したからちょっとだけ腰痛いし…」 「俊は可愛いなぁ」 照れた顔が可愛くて、顎を乗せたまま頬擦りをする。  そう、俺の幼馴染みであり奥さんでもある俊は、昔から動物と話せるんだ。  それを生かして動物のお医者さんになった。  わざわざ森の入口で開業したのも、森の友達が来やすいように。  可愛いでしょ?優しいでしょ? 「ほら、亮ちゃん。寝癖スゴいから直しておいでよ。朝ごはん…簡単なの用意するから」 「はいはい」  料理の苦手な俊が用意出来るのは、トーストとコーヒーくらいだったりする。そこに俺が卵焼いたり、野菜ちぎってサラダ付け合わせしたり。これが我が家、根本家の朝の日常だったりする。

ともだちにシェアしよう!