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トリガー③

 律が持っていたのは何も魅力的な容姿だけではない。  ただの見てくれだけのアイドルだろうと高を括っていた人たちはその歌声に度肝を抜かれた。  透き通るようなクリアな声は男性にしては少し高めで、キャラメルのように甘ったるい。  歌唱力にも抜群の才能があった。  テレビの中で歌う姿があまりにも美しくて、その声がとてつもなく綺麗で、どうしようもなく心惹かれてしまった。  僕と同じように目を奪われて、その歌声の虜になったひとが何人いたことか。  東雲律はたったの一夜にして、スーパーアイドルの称号を冠することになる。  歌声に聞き惚れたのが先か、その瞳に見惚れたのが先か。今となっては、あまりよく覚えていない。ただ、心を奪われた。  律という存在は、僕の人生を大きく狂わせた。  「推し」だとか「自担」だとか、自分の好きな芸能人を表現する言葉はいろいろあるけれど、僕にとって律は「神さま」だった。  きっと産まれてくるときに神様から人よりも多くの祝福をもらったに違いない。律は才能の塊だった。  とにかく夢中だった。  瞳をキラキラと輝かせて、瞬きをすることさえ忘れてしまう。紅潮した頬は、僕がどれだけ興奮しているかを物語っていた。  たぶん、誰が見てもよくわかる。  人が恋に落ちる瞬間だ。  律に出会ったあの日から、僕はずっと叶わない恋をしている。

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