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第1話

 苦しい。息が出来ない。  わかっている、これは夢だということを。  このごろしょっちゅうこの夢を見るから。  仰向けに水底へ落ちてゆく感覚。頭上にはきらきらした水面。なのに、必死になって水面から出ようとはしていない。息が出来ない感覚がリアルで、苦しさまで再現されているのだけれど、不思議と不快感はなくって、なんなら心地良くさえある。そこが海なのか、池なのか、わからない。けれどその水はあったかくて、何かから守るように包み込んでくれる。そう、赤ちゃんを優しく守る羊水みたいな―― 「えーちゃん、まだ起きんでええんか?」  ハルの遠慮がちな声に心地よい夢を中断され、寝ぼけまなこで時計を見れば、起きなければいけない時間をとうに過ぎていた。あまりにも水中の感覚が心地よすぎて、寝過ごしてしまったようだ。 「わわ、ありがとうございます、助かりました」  跳ね上がるように身を起こしてリビングに走れば、きちんと朝食の準備が整っている。有り難く思うも、残念ながら食べている時間はなさそうだ。 「時間なかったら、これだけでも」  察するように手渡されたのは、緑色のスムージーが入ったコップ。礼を言って一気に飲み干せば、冷えたどろどろの液体がゆっくりと喉を伝い、脳をしっかり覚醒させてくれた。 「朝ご飯、すみません」 「ええよ、俺の昼飯にするし。ほら早よ行き」 「行ってきます」  紆余曲折の末、付き合うと同時に一緒に暮らすようになって、ますますハルにはおんぶにだっこで世話になりっぱなしである。ハルにとって、智と一緒に暮らすことにメリットはあるのだろうか、智はいつも疑問に思っている。在宅の仕事をしているハルが家事をほぼ受け持っているし、それ以前に、器用で気が利くハルに対して正反対の智は、何もしてあげられない感を常に抱いていた。

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