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第2話
ハルのおかげで遅刻は免れ、仕事の方は順調に進む。入社三年を過ぎ、一人で任されることが増え、仕事がますます面白くなってきた。
「えーちゃん最近ますます張り切ってるやん。輝いてるで」
打ち合わせを終えると、共に出席していた先輩の椚田が声を掛けてきた。
「お疲れ様です。打ち合わせ、問題なく終わってホッとしてます」
「入社当時はまごまごして可愛い新入社員やなあと思ってたけど、今ではほんまに頼れる後輩やわ」
「ありがとうございます」
「やっぱりプライベートの充実も仕事に影響するよなあ」
意味ありげにぼそっと耳打ちされて、それまで謙虚にかしこまっていた智が顔を真っ赤にした。
「なっ、それはっ」
「ハハハ! お疲れ~」
椚田は笑いながら手をひらひらさせて去って行った。ハルとの関係をただ一人知る、ハルの親友でもある、そして元・智の片想い相手である椚田に、まんまと揶揄われたのだった。
「ただいま帰りました」
「お帰り」
こんな挨拶すら気恥ずかしくてたまらなかったのに、今では当たり前になってきつつある。
「朝はすみませんでした」
「ええってええって。昼に俺がしっかり食っといたから」
テーブルには夕食の準備が整っている。
「わ、さつまいもごはん!」
「塩バター味やで」
「グラタンもある」
「山芋と長ネギやで」
他にも副菜が並んでいる。大急ぎで手を洗い、部屋着に着替えている間に、箸や茶、そして智がハルに教わって焼いた椀によそわれた炊きたてのさつまいもごはんも、智が席に着くのを待っていた。
「いただきます!」
少し前まで社員寮で暮らしていて、夕食は出るもののこんなにバラエティに富んだ物ではなかったし、残業が多い智は食べそびれてしまうことも多く、そのときはコンビニ頼りだった。こうしてできたてのあたたかい、栄養バランスと智の好き嫌いを考慮した食事を、何より大好きな人と向かい合いって食べることが出来るだなんて、寮暮らしの頃には考えられなかった。食事をしながら智はハルに今日あったあれこれを話し、ハルは嬉しそうにその話を聞いている。
相づちを入れるタイミングや話の促し方が絶妙で、決して喋るのが上手でない智もついついべらべらと喋ってしまう。そして話を聞いている間、ハルは横やりを入れてこないし、絶対に否定をしない。返してくるの言葉は全肯定である。
ハルの優しさは底なしだ、と智は感じている。甘やかされているとわかっているけれど、底なし沼にズブズブ沈んでいっているようで怖いけれど、沈んでいく感じがなんだか快感で、そこから抜け出したくない。だってこの沼は、とてつもなく心地がいいから。
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