3 / 5

第3話

 食事を終え、二人でシンクに食器を運ぶと、洗うのはやっとくから風呂にでも入っとけとハルは言う。それぐらい手伝わせて欲しいと智が食い下がるも、智がキッチンに入ると邪魔だと一蹴された。決して広くはないカウンターキッチンに長身の智が入ると、圧迫感が半端ない、とのこと。事実、智がコンロの前に立つと、出張った換気扇のレンジフードに頭をぶつける。  すごすごと言われたとおり風呂に入ると、もちろん浴槽にはあたたかい湯が張られている。深いブルーの湯は少しぬるめで、ハーブの香りがする。香りを嗅ごうとすると無意識に呼吸が深くなり、仕事モードで気を張っていた体がほぐれていくのがわかった。  湯に浸かりながら、夢の中の水に似ているな、と智は思う。浸かっていると温かくて、ほっとする。 「お風呂いただきました」 「おう。長かったなあ」 「あんまり気持ちよくて、ちょっと寝ちゃってました。あの入浴剤、いい匂いですね」 「おやすみ前のハーブっちゅうらしいで。知らんけど」 「そうなんですね。とてもリラックスできました」 「このままベッド入ったらコロッと寝てまうんちゃう? 体冷めへんうちに布団入っとき」  そう言うハルはテーブルを拭いていて、もうすぐ後片付けが終わるのがわかる。 「はい。……じゃあ、待ってます」 「えっ」  何を? と続けようとハルが振り返ったときには、智の姿はもうなかった。  潔癖症ぎみの智は人に触れるのも触れられるのも苦手で、ましてや性的な接触に対しては嫌悪に近い感情を抱いていた。だからハルと『そうなる』までにも当然長い道のりがあった。  現在好いた者同士として一緒に暮らしている以上、そういった行為は自然と行われるのであるが、嬉々として応じているわけではなく、本音の所ではまだまだ苦手意識が残っている。だがその苦手意識は、以前のそれとは異なる種類のもののように智は感じている。 「お待たせ」  ハルが部屋に入ってきて、うとうととまどろんでいた智はどきっとする。ベッドをぎしりと軋ませてハルが潜り込んでくると、筋肉質の腕と脚を智の体に絡ませて、ついばむように唇を重ねた。智と同じボディソープの香りがふわりと漂ってきて、手早くシャワーを済ませてきたことがわかる。優しく甘いスキンシップは智も嬉しくて、うっとりとハルの唇を受け入れた。 「今日もお疲れ」 「ハルさんも」  見つめ合って、微笑み合って。  ここまでは、いい。

ともだちにシェアしよう!