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第5話
「え? あ……そう? えーちゃんのことやから、『いろいろしてもろてんねんからこれぐらい我慢せな~』とか思って嫌々応じてんのちゃうかと思って」
半分図星。ハルにはいつも何でも見抜かれてしまう。
「嫌々じゃ、ない、です」
「ほななんでそんな細切れな喋りなん」
「嫌なんじゃなくって、怖い、んです」
「怖い」
「はい」
息ができなくて苦しいこと、どこかへ攫われるようで怖いこと、自分が自分じゃなくなるようで不安に襲われることなど、思っていることをハルに話してみた。
「そっか……そんな思いさせて悪かったなあ。もうちょい優しくしたほうがええんかな」
「いえ、あの、ハルさんに不満があるというわけではなくって」
「改善できるんならした方がええやろ」
「でも、」
「でももイモもないわい」
「ハルさんが気持ちよくなるの邪魔したくないです、それに、本当に嫌じゃない、ので」
「……その『嫌じゃない』っていうのは、『してほしい』って意味で合ってる?」
「……はい」
蚊の鳴くような声で智が答えると、それまで不安げな表情だったハルは優しい笑みになって、智の頭を撫で繰り回した。さきほどせっかく梳いて整えた髪を、再びぐちゃぐちゃにかき乱してしまった。
「息が出来なくて、胸が苦しくて。例えるなら溺れているみたいな感覚っていうのかな。……最近夢でもよく見るんです、溺れてる夢」
腕枕されながら、智はぽつりぽつりと話し始めた。
「溺れる夢ってあんまり良うない意味みたいやけどなあ」
「そうなんですよね。ストレスとか、疲労とか」
「やっぱり夜の営み的な方面で」
「違いますって! ……で、不思議と嫌な感じはないんです。逆にずっとそこにいたくて、出たくないっていうか」
「まあアレやな、どうせ溺れるんやったら、俺――」
「?」
ハルの言葉が途中で止まったので、智はきょとんとしてハルを見つめた。何故かハルは口に手を当てて頬を赤らめている。
「どうしたんですか? 『俺』が何ですか?」
「いや、さすがに寒いわ。さぶいぼ立ってきた」
「お布団どうぞ?」
「う、うん」
智に布団を掛けられたハルは汗だくで。
「ほんとに寒いんですか? 汗すごいですけど」
首を傾げる智に
「もう早よ寝えや、また寝坊すんで!」
ハルはくるりと寝返って、智に背を向けた。
いくらなんでも、寒すぎる。
寒がったのは己の思考回路にだ。
――『俺に溺れろ』やなんて、寒すぎるやろ!
【おわり】
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