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おまけ またあの日のように
またあの時のように
「妖怪じゃなくね?」
明日葉はなんとも不満そうにしながら田んぼのあぜ道を歩く。明日葉はこの世を旅立った、それは彼の死を意味するが今は妖怪となって暮らしている。
普段は地上に顔を出すことはないけれど、盆祭の時期になると百鬼夜行に参列するために降りてくる。人間には明日葉のことが見えないので、通り過ぎても挨拶をされることはない。まだ生きている祖父母を見かけては少しばかり寂しくもなるが、病魔は待ってくれなかったので仕方ない。
緑禅と病室で会った日に様態は急変した。彼が言うにあれが最後の勝負ったらしい。あの時に返事をもらえなければ明日葉のことは助けられなかったのだと教えてくれた。
「お前は妖怪だが?」
「どこが? なんの妖怪なわけ?」
「小鬼だな」
ほれと額を突かれたので触ってみるとぽこんと膨らんでいる。なんだろうかと擦ると「角がもうすぐ生える」と緑禅は言った。
どうやら、初盆を迎えたことで地上との縁が切れて、やっと妖怪としての姿になろうと身体が変わっているようだ。あと二、三日もすれば角が生えてくると言われてそうなのかと明日葉は額を押さえる。
「これで何の憂いなしに手が出せる」
「手が出せる?」
「そのままの意味だが?」
はてっと首を傾げる明日葉に緑禅は「分からないならそのままでいるといい」と言われてしまう。いずれ知るからと。
「妖怪となれば仲間に紹介もできるからね。今日の百鬼夜行でお前を紹介してやろう」
「大丈夫?」
「俺の嫁だと告げれば皆、何もせんさ。怖いからな」
怒らせれば何があるか分からない存在の嫁に傷をつけはしないのだという。確かに恐怖の対象である存在を怒らせたくはないと明日葉は頷いた。
「怒ったら緑禅は怖いの?」
「どうだろうね?」
「うっわー、絶対に怖いやつだ」
「お前を怒ったりしないよ」
「それはそれでどうなんだよ」
甘やかすのもほどほどにしてもらいたい。甘やかされるとどうも抜け出せなくなってしまうので、多少は厳しくしてほしいかったのだが明日葉の願いに緑禅は「どんどん甘やかすよ」と宣言されてしまった。
「ダメににしてくるつもりだ」
「それはそれで愛らしいだろう」
「歪んでない、その愛」
「そんなことないさ」
はっはっはと笑う緑禅であるが、明日葉は「これは結構、愛が重いな」と彼の想いを悟っていた。そんな明日葉の手を引く緑禅は上機嫌で楽しそうだ。
明日葉が「楽しそうだね」と問えば、「お前が傍に居るからね」と返ってくる。愛する存在が傍にいるというのは楽しいものなんだよと。それには明日葉も同意する、自分も今とても楽しいから。
「俺はお前を愛しているからね」
ふっと微笑むと緑禅は明日葉の頭を撫でた。不意打ちの行動に明日葉は頬を少しばかり染めながら視線を逸らす。
「不意打ちは反則だと思う」
「お前はこれが好きだろう?」
「好きだから余計に反則なんだよ!」
緑禅に頭を撫でられるのが好きな明日葉にとってこれは反則行為なのだ。そんな反応が可愛いのか緑禅は頭を撫でることをやめなかった。
END
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