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第9話 回想/とんでもない日 ※
「落ち着いて出来そうなとこつったら、やっぱここだよなあ」
サギト達は午後の自由時間に、いつもの読書場所に来ていた。森の奥の小さな草地。
「誰もいないところじゃないと出来ないのか?」
「そりゃそうだ。それに汚したらまずい所だとやりにくいし、外がちょうどいいんじゃないかな」
「何をするんだ?」
「ようするにさー、体の中にあの白いドロドロが溜まっちゃうんだよ。抜いて出さないと、寝てるときに出ちまうことがあるんだ。今朝のお前みたいに」
「ふむ。夜尿をしないために就寝前に排尿をしておくような感じか?」
「……うん、多分……」
「違うのか!?」
「い、いやそれでいいんじゃね!?」
「分かってきた。あの白いのを起きてる時に出せばいいんだな。でもあんなの出たことない、どうしたら出るんだ?」
「とりあえずやってみよう。俺も人に教えたこととかないけど、一緒にやれば分かりやすいかな?」
とグレアムはサギトを上から下まで眺めて、なぜか急に視線をそらした。
「どうした?」
「い、いや、悪い、緊張してきた。他のダチだったら気楽に教えられそうなんだけど、相手がお前だとなんかちょっと……」
「……」
他の友達には教えられるけど、サギトだと嫌?
サギトはその時、傷ついた顔をしたのだろう。グレアムが焦る。
「うわ、なんでそんな顔するんだ!?」
「べ、別に……。いいよ、嫌なら無理して教えてくれなくても」
「何すねてんだよ」
「すねてなんかない、お前が嫌なんだろ俺に教えるのが」
「あーもう!わかった、教えるって!……脱げ!」
「……え」
サギトは目をぱちくりさせた。
「だから、出すんだよ白いのを。また服を汚すわけにいかないだろ、もう全部脱いどけ」
「な、なるほど」
だがいきなり脱げと言われても。
サギトは上のシャツの裾に手をかけながらうつむいてしまった。
これは確かに、緊張する。毎日風呂で裸は見せ合っているわけだが、風呂じゃない場所で脱ぐというのは、やはり違和感がある。
「一緒にやるってことはお前も脱ぐんだろ?俺ばっかり脱ぐのはずるい」
サギトが上目遣いで見やると、グレアムは狼狽した。だがやけくそのように、
「分かったよ、俺も脱ぐ!」
上下をばばっと脱ぎ捨てた。恥ずかしいのか、くるりとサギトに背を向けたが。
いい体だった。
既に少年のおもかげはなく、しっかりと筋肉のつき始めたしなやかな体。足が長くて、小さな尻が上を向いていて、宗教画に出てくる裸体の青年のような。
その肉体としての美しさに羨 ましさを感じながら、サギトは自らの貧弱な体をさらす。
「脱いだ……けど」
グレアムのたくましい背中に声をかけた。グレアムがサギトを肩越しにチラと見て、すぐに目を伏せた。目を伏せながら体ごと振り向いた。
「あ、うん。じゃ、やろう。えっと、座ろうか」
「分かっ……」
言いかけてサギトはグレアムの股間を凝視してしまった。大きく勃 ち上がっていた。グレアムは赤くなる。
「仕方ないだろ、だからお前が相手だとシャレになんないんだよっ」
「俺のせいなのか?」
グレアムは裸のサギトをチラと見ては目をそらし、
「だってお前はその……すごく……」
「……」
サギトはすごく、なんだと言うのだ。グレアムは金髪をかきむしった。
「とにかく、やるぞ!」
「う、うん」
サギトはグレアムのよく分からない態度への不安と不満を、心の奥に追いやった。こんなに一生懸命、教えてくれようとしているのだから。
グレアムは腹をくくったような顔をして柔らかい草地に座った。右足はあぐらのように曲げて、左足は立膝で。
グレアムは既に勃ち上がっている自身を右手でつかんだ。
サギトは草地に両膝をついて身を乗り出し、グレアムの股間と手元をじっと観察した。
「うっ……」
グレアムはサギトの真剣な観察にたじろいだが、意を決したように、しごき始めた。
もう立派な大人のペニス。金の繁みから屹立するそれは、すごく卑猥な形をしていた。ペニスとはこんな艶かしいものだったのかと、サギトは目をそらせずにいた。
その熱そうな幹に、指を丸めて上下に動かす。グレアムの恥じらう顔が、妙に色気があった。
顔をそむけて、荒い呼吸をする。とても恥ずかしそうに。一糸まとわず、アメジストのペンダントだけぶら下げた肉体は、うっすらと汗ばんでいく。
サギトは経験したことのない火照りを感じた。
気づけばサギト自身も勃ち上がりはじめていた。あっ、と小さな声を漏らしてサギトは自分のを見た。
グレアムのに比べると小ぶりでなまっちろくて恥ずかしい。陰毛も生えていないし、半分皮もかぶっている。
サギトは膝を崩して、グレアムのように草に尻をつけて座った。
「っ……」
サギトの勃起に気付き、グレアムが目を泳がせる。
サギトも真似して自身を手で握ってみた。だがよく分からない。
サギトは助けを求める目でグレアムを見た。
「ええと、手で、それで、どうすれば……」
「だ、だからその、手でいじってると、気持ちよくなるだろ?」
サギトは手を不器用に動かして見た。
あまり気持ちがいいとは思えなかった。
「うーん……」
首をかしげる。
「あー、そうじゃなくてもっと」
グレアムはもどかしそうにサギトのものに手を伸ばした。
だがピタと止まる。そしてためらいがちに、許可を取る。
「い、いいか?」
「う……。うん」
サギトはうなずいた。
向き合う形で、グレアムの手がサギトの性器に触れた。サギトの心臓が甘く跳ねた。
大きな手で全体をキュッと包み込み、先端の皮のあたりをクリクリといじられた。
「ふわっ」
サギトは突然の快感に思わず声をあげた。この世にこんな感覚があるなんて知らなかった。サギトはたまらず背中を反らせた。グレアムが喉をごくりとさせた。
「なにっ、これっ。ふあぁ……っ」
グレアムの手の中でサギトのそれは大きく膨らむ。皮が完全に剥かれてサギトの中身がむき出しになる。そのままゆっくりとしごかれた。
腰のあたりから全身に突き抜けるとてつもない気持ちよさ。初めての快感にサギトは恐怖すら感じた。
「あっ、はっ、はぁっ」
サギトは思わず、両手をグレアムの両肩に乗せた。すがりつくように。
「ま、待って、怖い。俺、怖い」
サギトは目に涙をためてグレアムを見上げた。真剣な顔でサギトをしごいてくれていたグレアムの手が止まる。止まったら止まったで、サギトは解消されない謎のうずきに身をよじった。
グレアムは迷うように視線を揺らしてから、言った。
「わかった、じゃあ俺が腰を支えててやる。こっちに来い」
こっちに来い、の意味を理解するのに若干の時間がかかった。
サギトは大きくうなずいた。立ち上がって、グレアムの右膝の上に、またがるように座った。サギトの左の外ももに、固く勃ち上がるものがゴツリと触れた。
後ろから、グレアムの左腕がサギトの腰に回された。サギトはグレアムの体温にすっぽり包まれた。
グレアムが聞く。
「どうだ?」
「……安心する」
「そうか」
グレアムが嬉しそうな声音で囁いた。右手がサギトの性器をまた包み込む。すでに敏感になっているそこは、触れられただけで鋭利な快楽を全身に伝える。
「ん、ぁっ」
思わず息を漏らす。グレアムの手が甘やかに動いた。
「ふあっ。あぁ、はあぁ、んっ……っ」
サギトは快感に追い立てられた。背中で感じるグレアムのぬくもりがありがたかった。これだけしっかり抱 かれていれば、未知の体験にも耐えられるだろうか。
首筋にグレアムの熱い息がかかる。グレアムが手の動きを速めた。サギトの腰がくねる。絶頂の萌芽。
「はあ、ふわあぁぁっ。やっ、怖い、やっぱり、怖いっ……」
サギトはいやいやと首を振った。
今まで経験したことのない何かに、サギトの脳が犯されていく。
「……こっち向け」
「えっ」
サギトは言われた通り、振り向いた。
唇に、グレアムの唇が触れた。
胸が震えた。その唇は柔らかくて優しくて、サギトの不安の全てをほぐしてくれた。
サギトが大人しくなると、屹立するそれに絡まる手は動きを速めた。
サギトは唇に触れるグレアムの感触を頼みに、未知なる絶頂へと上りつめていった。
「あぁっ……はあっ……」
感覚の限界を超えて、目の前が真っ白になる。サギトは排尿感のようなものを感じておののいた。
「ぁあっ、んんっ……っど、どうしよう、出るっ……!」
「出せ」
短く言われて、サギトは白濁する液を股間から解き放った。初めての絶頂感と共に。グレアムの手をどろどろに汚しながら、それは大量に出た。
「はあっ……はあっ……」
全てを吐きつくしたサギトは、荒い息をしながら、ぐったりとグレアムの胸にもたれかかった。とてつもない経験をしてしまったと思った。グレアムの手をサギトので汚してしまったことが恥ずかしかった。
「ごめん、俺もいいか」
グレアムはサギトを右腕で抱え直し、左手で自分のものをしごき出した。
サギトは抜け殻のような頭をグレアムの胸にぴったりとつけ、グレアムの猛る中心をぼうっと見つめた。
必死に上下するグレアムの手。
しばらくぼんやり見ていたサギトは、やがてほとんど無意識に、本能みたいに、グレアムのそれに手を伸ばした。
「っ……」
グレアムが息を飲んだ。掴んでいた手を離す。入れ替わりにサギトの右手が、グレアムのそれをキュッと握った。
熱かった。それはサギトの手の中でぐっと硬さを増した。
サギトはグレアムの手つきを思い出しながら、グレアムにやってもらったように、動かしてみる。
固い芯の周りの薄皮がよれるように動く感覚が、なんだか不思議だった。自分のも、ちゃんと触ればこうなっているのだろうか。
「サ、サギト……っ」
吐息交じりにサギトを呼ぶ声が、耳をくすぐる。サギトは恍惚とした気分で、グレアムの大切なものを手で愛撫し続けた。グレアムの息が上がり、サギトを両手で抱きすくめた。
その手が悩ましげにサギトの体をさする。
快感に耐えるように、グレアムはサギトを撫で回した。
サギトの髪をくしゃりと握り、サギトの鎖骨をさすり、胸から腹をなんども撫で付け。同時にサギトの耳や首筋に唇を押し付ける。
「可愛い……」
妙なことを言われてサギトの胸がキュッと締め付けられる。
「お前は……すごく……綺麗で可愛い……」
サギトは火照りに溶かされそうな心地で、グレアムのペニスを手でしごき続けた。
「も、だめっ、いく……っ」
どくどくと脈打ちながら、グレアムの精が吹き出した。大噴射だ。グレアムのは勢いもサギトよりずっとすごい。
サギトの手で達してくれたことが、とても嬉しかった。サギトの手も、グレアムのでどろどろに汚れてしまった。
互いに精を吐き出しあった二人は、はあっと息をついてから、目を見合わせて照れ笑いをした。
二人でごろんと草地に転がった。
森の木に縁取られた青空がとても綺麗だった。
サギトは一気に大人になったような、爽快な気分だった。
これが「抜く」か、と思った。朝は最低な気分だったのに、今こんな心地になっているなんて。とんでもない日だ。
「ありがとうグレアム、やり方を教えてくれて。次は自分でできそうな気がする」
「……そうか」
「うん。俺はお前に甘えてばかりだな、ごめんな。自分が情けないよ」
「そんな、俺は全然……。な、また一緒に抜かないか?」
「え?」
「その、お前が嫌じゃなければ、だけど」
「嫌じゃないよ、最高の体験だった。俺もまたお前としたいって思ってた。でもそれじゃ、俺はいつまでもお前を煩わせてしまうから」
「そんなことは全然全く断じてない!」
断固とした口調で否定された。サギトは謎の迫力に気おされつつ、
「そ、そうか?うん、なら、またしよう」
「よし!」
裸のまま、グレアムは宙に向かってぐっと拳を握りしめた。そしてくしゃみをする。
サギトもぶるりと身を震わせた。
「服着るか」
「そうだね」
二人は吹き出しあって、服を着た。
◇ ◇ ◇
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