23 / 35
第23話 本当のこと ※
ワイバーンは王都を遠く離れ、南の山岳地帯へと入っていった。そしてある山の洞窟へと進入する。奥まで縫うように入り込み、停止した。
グレアムはサギトを抱えてワイバーンから飛び降りた。
サギトを地面に降ろし、ワイバーンの尾に刺さる矢を引き抜く。手をかざしその傷を修復する。ワイバーンは礼を言うように一声上げると、また闇へと溶けて消えた。
サギトは洞窟内を見渡す。調理具や寝具、道具箱など置かれ、人の生活の跡があった。
グレアムが説明をする。
「以前、この近くでムジャヒールと戦闘があったんだ。その時この洞窟を野営地にしていた。ここなら誰にも邪魔されず俺を殺せるだろう?ここで俺の首を切って、ムジャヒールに持って行け。国境はすぐそこだ」
平然とおかしなことを言うグレアムに、サギトは背を向けて声を荒げた。
「だから、何を言ってるんだお前は!」
突然、背中を抱きすくめられた。サギトのまなこが見開かれる。
「それでお前が幸せになれるなら、命なんて惜しくない。この八年、辛かったな。お前の苦しみの全て、俺に責任がある。もうお前は幸せになってくれ」
「な……何を……」
「愛してる。子供の頃からずっと。お前を幸せにしたかった。でももう俺は、死ぬことでしかお前を幸せにできない」
サギトの身体がかっと熱を帯びた。
(愛?)
(愛されていた?俺が?)
(そしてお前は今、俺に殺されようとしている?)
(俺を幸せにするために?)
「待ってくれ、全く理解が追いつかない!」
サギトは叫んで、グレアムに振り向いた。グレアムはあくまで真剣な顔で言った。
「殺せ」
「ふざけるな、やめてくれ!」
グレアムはサギトを見つめると、何かに気づいた様子で顔をしかめた。
「……悪い、そうだな。何を言ってんだろうな俺は、お前の手を汚させようなんて」
言って、サギトから身を離した。そして剣を抜きはなつ。白銀に翻るその鋭い刃を、自らの首にすっとあてがった。
「てめえでやれって話だよな」
そう、自嘲気味に言い、剣を持った右手に力を込める。
その動きに一切の迷いはなかった。
サギトの全身に鳥肌が立った。
「やめろ!!」
サギトの絶叫が洞窟中に反響した。
同時に、魔術の波動が放出される。
グレアムの手が凍りついたように固まっていた。
「ぐっ……これはっ……」
グレアムは狼狽し、サギトは睨みつけながら握った手を宙にかざした。そして一本づつ指を開いていく。
サギトの指に連動して、グレアムが剣を握る手の指も、開かれていった。
五指が伸ばされたグレアムの手の平から、剣が落ちる。大きな音を立てて、剣は洞窟の床に転がった。
その瞬間、グレアムの手は自由を取り戻す。グレアムは奇妙な物体でも見るように自らの手を握って開いて確認した。
「他者操作術、すげえな、まるで抵抗できなかった……」
その首筋にくっきりと刻まれた赤い直線から、数本の血が滴り落ちていた。
サギトは怒鳴った。
「自刎 なんて、馬鹿かお前は!お前は負い目を感じることは何もない!俺があの男の嘘に騙されたんだ!お前が俺を殺そうとしたのだと勝手に思い込んで、勝手に恨んで、勝手にお前に復讐しようとした!」
グレアムはうろたえる。
「だって実際、全部俺のせいじゃないか。俺を憎んでるだろう?俺はサギトに幸せになって欲しいから……」
「おまっ、お前が死んで俺が幸せになれるわけないだろ!」
サギトは眉間にしわを寄せながら、グレアムの傷ついた首に手をかざす。その手から治癒の光が放たれて傷が消えていく。
「う、あ、ありがとう……」
戸惑う様子で首元をさするグレアムに、サギトは大きくため息をつく。
死なれなくて良かった、としみじみ思った。
サギトは胸を締め付けられながら、本当のことを告げる。自分でも気づいていなかった、たった今気づいた本当の真実を。
「俺はお前を憎む以上に……ただ……寂しかった……!この八年、グレアムがいなくて寂しくて、寂しくて、寂しすぎて、どうかしてしまっていたんだ。寂しさで狂ってしまっていたんだ!」
「サギ……ト」
「グレアムが自分で言ったじゃないか、俺はお前を殺せなかった。殺せるわけがないんだ。だって俺には……」
サギトはそこで言葉を切る。目の奥が熱くなって言葉が詰まった。消え入りそうな声がこぼれ落ちる。
「だって俺には、グレアムしかいないんだ……。お前さえいれば俺は幸せだったんだ……」
言ってから、苦笑がこみ上げた。ずいぶん恥ずかしいことを言ってしまった気がした。うつむいたまま、顔を上げられなくなった。
抱きしめられた。
大きい身体に包み込まれ、鼻腔に拡がるグレアムの匂い。
あたたかい、と思った。
そう、人肌は温かいのだ。
サギトがずっと失っていた温度。きっとずっと求めていた温度。
グレアムの、強靭なはずの身体は震えていた。抱いたサギトの額に頬をよせ、苦しげに言う。
「こんな俺を許してくれるのか?俺があの男にサギトのことを教えたせいで、ひどい目に合わせた。サギトの人生を壊してしまった」
サギトはグレアムの腕の中で目を細める。
「でも俺のことを思ってのことだったんだろう。俺を士官学校に入れたくて、教えたんだろう」
グレアムはサギトの両肩をつかんで、叫ぶように言う。
「でもそのせいで、サギトをひどい目に遭わせた!」
サギトは笑いながら首を振った。
「グレアムが何を言ってるのか、分からない。俺のために教えたんだったら、構わない。そうと知って俺はとても嬉しかった。ずっとお前を誤解していた。愚かだな俺は、お前が俺を殺そうとするわけないのに」
グレアムは震える手でサギトの顔を両手で挟み見つめた。
「何があった、この八年……。辛かっただろう?苦しかっただろう?どうか全てを、術で俺に見せてくれ。俺の罪を」
「やめてくれ。そんなもの俺は、お前に見せたいとは思わない。それにグレアムがいないことが……一番辛かったから」
そう言ってサギトは、はにかむように笑った。
グレアムは深い息を吐きながら、一筋の涙を流す。
「サギト……」
グレアムはサギトの額に、そっとキスをした。恐る恐る。
サギトの顔が朱に染まる。
恥ずかしそうにうつむくサギトを見つめ、グレアムはぐっと下唇を噛む。
いきなり片手でサギトの腰をぐっとひきつけた。
「!?」
グレアムは苦しげにサギトを見つめ、吐露するように言う。
「愛してる……。どうしようもないくらい、お前のこと愛してる」
咄嗟すぎて反応できないサギトの頭を、もう片方の手で支え、サギトの唇に食らいつく。
そして舌が入り込んだ。いきなりのディープキス。無防備だったサギトの舌はあっさりと絡めとられる。グレアムの舌がサギトの味覚を侵した。
生まれて初めてのディープキスに、サギトの脳がじんじんと痺れた。口の中で二つの舌が絡まり合って一つになっている。それだけで腰が砕けそうだった。
その時。
(!)
腹のあたりに、グレアムの固いものがあたった。
グレアムの欲望の塊。それがサギトを求めていた。
グレアムが唇を離す。サギトは腹に当たるグレアムの固いものに、つい、視線を彷徨わせてしまった。
グレアムがはっとする。我に返ったように、慌てて後ずさり、サギトから身を離す。
「っ、すまない!最低だ俺は、獣 だ。こんな状況でお前のこと抱きたくなってるなんて……!」
(抱き……)
赤面するサギトに、グレアムは焦った様子で言う。
「大丈夫だ、襲ったりしないから!」
だが彼の猛りはおさまることなく、騎士服の白いズボンはテントを張ったままだ。
グレアムは髪をかき上げ、傷ついたような顔で目を伏せた。
「ごめん。本当にごめん、気にしないでくれ」
「っ……」
「クソッ、何考えてるんだ俺は、獣 だ!お前を苦しめた俺に、お前を愛する資格なんてないのに!」
恥じ入り、自分を責めるグレアム。
サギトの心臓が、ずくりと締め上げられた。
「抱いて……いい……」
三秒ほどの間をおいて、掠れた声が返ってくる。
「え……?」
サギトは真っ赤になっている顔の下半分を手で隠す。
「に、二度も言わせるな。……抱いていい」
「い、意味は分かっているのか?」
まさかの質問にサギトはちょっとムッとする。
「分かってる」
いくら夢精を知らなかったサギトだって。
「抱くというのはつまり」
「分かってるって」
グレアムは口をぱくぱくさせている。サギトは照れ隠しに視線を横に流しながら言う。
「……もう謝罪はいいから、お前の『想い』が知りたいんだ。お前の獣 を……見せてくれ」
その獣 に食い尽くされたい。
この胸に巣食ってきた真っ黒い闇を。
グレアムは雷撃でも受けたように固まって、サギトを凝視する。
つと、サギトを抱き上げた。そのまま寝具へと連れて行く。
サギトは寝具の上に投げ出された。
グレアムが、息を荒くしてサギトにのしかかる。
「愛して……いいのか」
サギトは一つ、まばたきをする。
「聞くな」
食らいつくように、唇を重ねられた。
「愛してる、サギト愛してる」
グレアムは唇を押しつける合間に愛を吐露しながら、もどかしい様子でサギトの服のボタンを外していく。
サギトはあっという間に己の全てを晒してしまう。
グレアムは熱い息をはき、裸のサギトを穴の空くほど見つめた。
感嘆の息をもらす。
「綺麗だ……」
サギトは顔から火を噴きそうだった。男らしさの欠片もない、細く情けない身体なのに。
「触れて……いいのか?」
だから、聞くな。と思いながらサギトはうなずく。
グレアムの指先が、胸の真ん中をそっとたどる。大事な骨董でも扱うかのように。
「本当にいいのか、こんな綺麗な体、俺に……」
サギトは頭がどうにかなってしまいそうだった。俺の体なんか、何故ほめる。
グレアムは息を整えるように深く呼吸しながら、サギトに触れていく。
片方の手で腹に円を描き、片方の手で胸を撫でた。片方の手は太ももを上下し、片方の手はわき腹をさする。
肌で感じるグレアムの手に、サギトは思わず声を漏らす。
「ふっ……」
サギトの声に、グレアムがぐっと唾を飲み込んだ。
両腕がサギトの体をきつくかき抱いた。荒い息を吐きながら、サギトの首筋に舌を這わせた。手で乱暴にサギトの胸を撫で回すと、そこにある桃色の粒をつまむ。突然の妙な刺激にサギトの体はピクリとする。
グレアムの唇がもう片方の粒に食らいつく。
「んっ、ふ、……っ」
サギトは身を震わせた。グレアムは胸の桃色の先端を強く舐めあげた。幾度も幾度も、肉食獣が獲物を舐め回すように。
グレアムにこんな貪るように求められている事実に、サギトの魂が揺さぶられる。
(お前は俺に、これ程の獣欲を抱えていたのか)
(俺はお前に、これ程、欲 されていたのか)
かと思えば、グレアムはサギトの薄い胸に甘えるように頬を擦り寄せた。
「サギトの匂い、俺のサギト……」
幼な子のようなその仕草に、なぜか胸がしめつけられた。
グレアムはサギトの下半身に手を伸ばした。既に膨らみ始めているペニスを握られる。
「ぁっ……!」
大きな手がサギトのそれを柔らかく揉む。
八年ぶりに、自分以外の手に、つまりグレアムの手に触れられた敏感な部位。
そういえばあまり成長しておらず、毛もほとんど生えない己の幼さを思い出し、恥ずかしくなる。
しかし、そこはしっかりと芯を持ち、羞恥と裏腹に体はグレアムの手を喜んでいる。
グレアムは嬉しそうに微笑んで、体をずり下げる。サギトのペニスへと唇を近づける。
「えっ、ちょっ!」
まさかのことにサギトは上体を持ち上げてしまった。
グレアムはサギトのペニスを愛しそうに見つめ、先端にキスをした。
突然のことにうろたえる間に、グレアムの口内に飲み込まれた。
「っ!」
(なんてことを!)
ペニスが生まれて初めての感触に包み込まれる。そのぬめりと温もり。サギトは抗おうとするが、グレアムはすっぽりとくわえこんで離さない。
「だ、だめっ、あっ」
座った状態のサギトの股間に食らいつくグレアム。
ペニスでグレアムの口内を感じている、そんな状態が信じられなかった。うねる舌の感触が陰茎に絡みつく。初めての感覚に歯を食いしばって耐えていたら、先走りに濡れる小さな穴を吸われた。
「グレア……あっ、あ……!」
口をすぼめ、全体を搾り取られる。サギトの小さめのペニスはいとも簡単に翻弄される。
「やっ、あっ、あぁぁ……っ」
たえきれずサギトは再び身をあおむけに倒し、グレアムの頭をかきまぜた。
反り返るペニスを、グレアムの口が上下する。くわえ込む唇が、蠢く舌が、たまらない刺激を巧妙に与えてくる。
まるでサギトの好きなところを、全部知っているような動き。
そうだこの男は、サギトよりもサギトを知っている。
サギトを咥 えたまま、グレアムの右手がサギトの尻の下へと差し込まれた。
その双丘を、さするように彼の手が這った。
「グ、グレア……っ」
サギトは思わず腰を浮かせ、身をよじらせた。
腰を浮かせたことでかえって触りやすくさせてしまう。
形や柔らかさを楽しむように、じっくりとなでまわされた。尻を触られる感触は耐え難いほど恥ずかしかった。
その恥ずかしさは、性器への刺激との相乗効果で、妙な身悶えに変化していく。その未知の感覚にどうにかなりそうだった。
「やっ……。ふあっ……!」
そんなサギトの様子がおかしいのか、グレアムはすぽりとペニスから口を離してつぶやく。
「お前は本当に、むちゃくちゃ可愛い」
今度はサギトの顔を上から見下ろしながら、なで回す。恥ずかしがるサギトの姿を味わうように。
(こいつはっ……!)
涙目で睨みつけるが、上気した肌と下がり眉では、かえって愛しげに見つめ返されるだけだ。
散々なで回された双丘の谷間の奥、閉じた蕾に、指の腹がつと触れた。
サギトはどきりとした。
不安が伝わったのだろうか、グレアムの手が止まる。
「やっぱり怖いか?」
サギトは首を振った。
「だ、大丈夫だ。気なんか使うな」
そこでグレアムはちょっと気恥ずかしそうな顔をしながら、騎士服の上着の内ポケットから何かを取り出した。見覚えのある小瓶だった。
あ、とサギトは声を上げる。サギトの店の商品だ。
「じゅ、準備が良すぎるとか思わないでくれよ。たまたまだ!たまたま、いつも持ち歩くことに決めていた。使用のためというより常に心に夢を抱いて日々の活力とするために」
ちょっと何を言っているのか分からないが……。
「いいか?」
サギトがうなずく。だからいちいち聞くな、と思いながら。
グレアムが蓋 を開けて指にそのクリーム状の薬剤をつける。
サギトの鼓動が速くなる。本当にするんだ、とにわかに実感が沸いたために。サギトが調合して、グレアムが買って行って。まさか自分に使われることになるとは。
グレアムはサギトの両膝を抱えて持ち上げた。柔らかいサギトの体はぐにゃりと折り曲げられ、ぐっと両脚を押し開かれる。
「わっ……」
腰が宙に浮かび尻を完全に天井に向けさせられ、もっとも恥ずかしい部位を晒される。あまりの姿勢にサギトは動転する。
グレアムはサギトの局部をじっと見つめ、感激したようにつぶやいた。
「やっぱりここも可愛い……」
サギトは耳まで赤くなる。「ここ」ってどこだ。何を言ってるんだ。
グレアムの唇が、はしたなく広げられた尻たぶの片方にちゅっとキスをする。
「ふぁっ」
そしてもう片方にも。グレアムの唇が、サギトの二つのふくらみに、いくつも乱れ打たれた。そして頬ずりをしながら息をつく。
「柔らかい、なんて感触だ、夢みたいだサギトのお尻をこれだけ堪能できるなんて、俺は幸せで死にそうだ」
「いい加減にしろ!この変態っ」
思わず言ってしまった。こいつは想像以上に変態なんじゃないのか。
恥ずかしさに神経が千切れそうなサギトの罵倒を無視し、この後もっととんでもないことが起きた。
中心の蕾にグレアムの口が触れたのだ。と思ったら、はむように口を開け、舌で舐められた。
「ひゃうっ!」
その小さく敏感な穴に、舌がねっとりと這われる。サギトの一番汚いところを、グレアムが舐めている。背徳的な快感に頭がぐちゃぐちゃになった。
「ひっ……ひあっ……ふあっ」
グレアムは淫らな水音を立てて執拗に舐める。尖らせて侵入をこころみ、舌全体でなでつけられる。
「も、やめ……やだぁ……っ!」
熱い舌で汚い蕾を蹂躙され、サギトは悶えて痙攣する。
やっとそこから口を離すと、サギトの顔を見て、グレアムはごくりと喉を鳴らした。
「すげえ……。そんな風になるのか……」
一体「どんな風」だというのか、サギトはそれを気にする力すらなくなってきた。
グレアムは、浮いていたサギトの腰を寝具に落とすと、今度は指で蕾に触れてきた。
潤滑剤にぬめる指が蕾の周りに揉みこまれる。そしてぬるっ、と蕾の中にグレアムの指先が侵入してきた。
「ひっ、ぁっ」
指先が入り口をくすぐるように動く。サギトは耐え難い妙な感覚に必死に耐えた。蕾の入り口付近、指がゆっくりと出し入れされる。リズムを刻むように。
「んっ、はっ、はあっ……」
浅いところの断続的な刺激。痛がゆいような感覚が、だんだんと経験したことのない甘やかな刺激へと変わってきた。
この潤滑剤は媚薬混じりで、初回から苦痛なく快感を得られる効果もあったことを、サギトは思い出す。怖さどころか、もっと深く欲しいといううずきすら覚え始めた。
「すごい、締め付ける、ひくひくしてる、なんて可愛い穴だ……」
サギトは羞恥に唇を噛む。グレアムは別にサギトを辱める意図はなく、ただその感触に陶酔している様子だが。
「ぁあ、はあ……んんっ、ぁ……」
サギトの息遣いが喘ぎめいた来た頃、ほぐれてきた蕾を押し割り、グレアムの指が奥へと侵入してきた。
「んっ……ふっ……」
体内を異物に侵略される。気色悪いはずのその感覚は、グレアムに己の内側をいじられているのだと思えば身を火照らせるのだから不思議だ。
中で蠢くグレアムの指。サギトの肉壁はだんだんとくすぐったいような快感を拾い始める。
だらしなく緩みだしたサギトの顔を、グレアムは幸せそうに見つめながら、くいと指を曲げた。
その先に、快楽の巣のようなものに触れられた。
「っ!ぁぁ……っ!」
サギトは思わず声を上げる。今までの人生で経験したこともない、強烈な性感だった。なんだこれは。こんなの知らない。
グレアムはその様子を見て嬉しげに、その部位をさらに刺激した。サギトは耐えられず、刺激を逃そうと腰をくねらせた。
「や、やめっ……!おっ、おか、おかしくなっ……」
「そうか、ここなのか、この日のために勉強した通りだ」
「べ……?んんっ、ぁっ、あっ」
勉強ってなんだ。
「そんなエロい顔をしないでくれ、我慢できなくなる……。暑いな」
グレアムはすっと指を抜くと、暑苦しそうに己の騎士服を脱ぎ捨てた。筋肉質な肉体が晒される。完成された戦士の肉体。その首には紫の石。
露わになった下半身、高く張り詰めた彼の雄が屹立している。
こんないい男が、自分なんかに猛っているのが信じられなかった。こんな丁寧に愛撫して。
「が、我慢なんてしないでいい……。早く入れろ……」
「駄目だ、まだ固い。もっとほぐさねえと」
潤滑剤を追加して、またぬるり、と指を入れる。既に敏感に熟れたその孔は、再度の侵入を受けてぞくりとした快感を身体中に伝達させた。
「ああっ……」
二本目の指が挿入された。
「んっ、くっ、あっ……!」
指はじっくりと中を解きほぐしていく。同時にもう片方の手でサギトの屹立も愛撫して。
グレアム自身が滾 っているだろうに、その動きは繊細だった。
グレアムはサギトの反応を注意深く見ているようで、サギトがいいと感じた場所と動きをすぐに発見しては自らの指先に学習させ繰り返す。
甘くかき回される指に快感の巣を巧妙に刺激され、サギトの初心な秘部は性器として開花していく。
知らない、こんな快感は知らない。
痛みへの不安ではなく、快感への不安がせり上がる。自分が自分じゃなくなる恐怖。
「んっ、はぁっ……も、いいっ……!」
痛くてもいいから壊していいから物みたいに扱ってくれ、とすら思った。その雄を早く突っ込んでただ欲望を吐き出せ、と。
「好きだよ、サギト」
グレアムはそう囁くと、サギトの胸の突起にまた舌を這わせた。
「つっ!」
先ほど舐められた時よりもずっと強い快感が体を駆け上った。
中と連動するかのように、それは生々しい性感帯と化していた。
のけぞり震えるサギトから、舐める舌をふと離し、グレアムはサギトを確認するように見下ろす。
途中でやめられたサギトは、唇をかみ、切なげにグレアムを見上げてしまった。
もっと、舐めて欲しい。胸が疼いていた。男としてあり得ない欲望に支配されている己が信じられなかった。
恥だ。恥だ。恥だ。こんなの俺じゃない。こんな欲求、言葉に出せるはずがない。
グレアムはそんなサギトの様子に口元をほころばす。
「胸、気持ちいのか?」
「っ……」
恥ずかしさと情けなさのあまり、サギトの目尻に涙が滲んだ。
グレアムは微笑むと、サギトに卑猥な言葉を求めるでもなく、ちゅうと胸に吸い付いた。サギトの欲しかった場所。かり、と甘く噛まれ、吸われ、転がされる。
「ふっ……んっ……ぁあっ、ぁんっ」
疼きが解消され、同時に後孔の中で二本の指がグチュグチュとかき混ぜられる。
(ああ、お前の優しさは簡単に俺の理性を崩壊させる)
(このままお前に溺れてしまっていいんだ、と思わせる)
さらに三本目が挿入された。固く閉じていた蕾が、簡単にこれ程に広がってしまった。自分の調合した薬剤の恐るべき効き目におののいた。
三本の指がサギトの中を奥までかき回す。サギトの腰が過ぎた快感に浮いてがくがくと震える。
「あっ、あっ、ぁあっ」
「もう、いいか?」
グレアムが切なげな息をはきながら、やっと聞いてきた。
サギトはウンウンとうなずいた。だからさっきから入れていいと言ってるのに。なのにこんな。
グレアムは指を引き抜くと、サギトの両脚をつかんで開き、腰を割り入れる。固く張り詰めたものが、熟れた孔にあてがわれた。
サギトは息を飲む。怖さと、不安と、それから期待。
性的快楽への期待、だけではなかった。グレアムと繋がれるということへの、つまりは純粋に精神的な何かへの、期待。
そうか、とサギトは気づく。
(俺は、グレアムと繋がりたいんだ)
「童貞だから上手くできるかわからない、けど……」
「どっ……」
耳を疑った言葉を確かめる暇はなく、ぐ、っと恐ろしく太いものがサギトの中に侵入してくる。下半身が裂けるような感覚に、目の前に火花が散った。
「わるいっ、痛いか!?」
顔をしかめたサギトに、グレアムは気遣わしげな声をかけた。
サギトは首を振る。痛みは一瞬で引いていった。さすが俺の調合した潤滑剤だ、とサギトは苦笑する。
カリ首が、入った。サギトはその圧迫感に圧倒されながら、大きく息をついた。
「大丈夫か?」
微笑しながらサギトは無言でうなずく。その様子に力を得たように、グレアムは慎重にサギトの肉壁を割り進む。
「いき……そっ……」
などと囁きながら、だがグレアムが果てることはなく、それはゆっくりと、サギトの細い体を刺し貫いていく。痛みはないが、圧倒的な存在感だった。体内を熱い芯が侵入してくる。
根元まで沈んだ。サギトの奥深くまで。
「入った、全部……!辛くないか?痛いか?」
グレアムの言葉に感傷が押し寄せた。繋がれたんだ、グレアムと。
サギトの目じりに雫が光る。サギトは浅く呼吸しながら、途切れ途切れに言った。
「おま……えと……ひとつに……」
グレアムは瞠目して息を飲む。
唇を噛み締め、その瞳が潤む。力強くうなずいた。
互いに濡れた瞳を交し合い、唇を重ねた。
グレアムは腰を動かさず、サギトの口内を舌で愛撫する。そして手でサギトの屹立を甘やかにしごく。
己のモノの大きさにサギトの体が慣れるまで、動かないつもりのようだ。もう堪え難いほど滾っているだろうに、とサギトは胸が一杯になる。
だが中までグレアムの侵入を許したサギトの体は、やがて、もどかしげにくねりだす。脳が不埒な本能に支配される。
サギトの呼吸が艶を帯びる。
「はぁっ、ぁあっ、グレ……アム……っ、」
欲しい。欲しい。この熱くほてった下半身に、早くその凶暴な雄を解き放って欲しい。
サギトの内に目覚めた淫らな欲求に付け火され、グレアムの瞳にも真剣な色が宿る。
グレアムは緊張した面持ちで腰を引くと、ゆっくりと突き上げる。
「つ……っ、あ……っ!」
圧倒的な異物感が内部で動き出した。
それは窮屈な肉の道を慎重に進んでは後退する。十分にほぐされ、蕩かされたサギトの体は、その圧倒的存在を、誘うように飲み込んでいた。
グレアムは欲望に耐えるように息をつきながら、そろそろと抜き差しをした。なんだか難しい顔をして。
そのどこか不器用な姿が不思議と愛おしく、サギトは思わず、グレアムの首に腕を回した。
するとグレアムの緊張していた顔に安堵のような色が広がった。
サギトははっとする。そうか、グレアムは本当に初めてなのか、と。
この男に誘惑がないわけがないのに、八年ずっと未経験だったのか。
その意味する事に、ちりちりと胸を焦がされた。
サギトは回す腕に力を込めてグレアムにしがみつき、囁いた。
「好きに……動け……。俺は壊れたりしない……」
何しろサギトの調合した潤滑剤を使っているのだから。きっと大丈夫。
「っ、サギトっ……」
サギトの中でグレアムのそれがグッと膨張した。ハッ、と一回大きく息をつくと、グレアムは思い切りサギトを穿った。
「くっ、ぁあああっ……っ!」
脳天まで突き抜けるような感覚に、サギトの肉体が歓喜する。悦びに仰け反る。サギトの体は、どうやらこの凶暴な刺激を求めていたらしい。
箍 が外れたように、グレアムの動きが速度を増す。
優しい男が、獣のように豹変し、がんがんとサギトの中心を穿つ。
サギトはたまらず、嬌声をあげる。
「ぁあっ!あぁっん」
激しく突き上げられるたびに、快楽と幸福感、肉体と精神の両方が頂を目指す。
女のような痴態を晒し、獣欲に支配され悶え狂う己の姿。それを恥じらう理性など、グレアムの欲望の杭があっさり打ち砕いていく。甘く、激しく。
「サギト、サギト、サギト、サギト、サギト……っ!」
狂おしく名を呼びながら腰を打ち付け、グレアムの体から熱い汗がほとばしった。
それはひどく荒々しい結合だった。
がくがくと壊れた人形のように体を揺すられ、いつの間にかサギトも腰を波打たせていた。
互いを求め合い、欲望をぶつけ合い、肉を捻じり合い。
内側から耐え難い快感が高まっていく。
「ふっ、あっ、あっ、ぁっ……ぁああああああーーーーっ……っっ……!」
サギトの全身、全精神を振るわせる頂点の快感。
サギトの屹立から精が放たれる。と同時に、サギトの一番奥でグレアムの張り詰めが弾けた。
どくどくとサギトの中にグレアムの精が注ぎ込まれる。
グレアムは出し切るように腰を震わせた後、余韻を味わうようにしばらく抜かずにくたりとサギトを抱いた。サギトの首筋に鼻を埋めるようにして。
やがて腰を上げ、ずるり、と後孔から杭はぬけた。大量の白濁した液と共に。
サギトの尻も脚も、グレアムの精液まみれだった。
サギトはその感触に、恍惚とした。
快感の余韻の中、サギトはただただ幸福だった。全身が甘い砂糖水の海にでもたゆたっているようだ。
汗だくのグレアムはそんなサギトをじっと見つめた。
優しい瞳で、サギトの全てを包み込む。
「サギト……綺麗だ……」
グレアムの青い瞳は濡れてきらきらと煌めいていた。朝露の光のように。
その表情だけで、サギトはグレアムの抱いてきた強い想いをはっきりと知らされる。
魂に刻みつけられるように。
サギトは思う。
俺はこの瞬間を、死んでも忘れないだろう、と。
◇ ◇ ◇
ともだちにシェアしよう!