27 / 27
最終話
嬉しい。
ただただ、東堂が話した、全てが尊には嬉しく感じていた。
尊が離れてしまわない様に、抱きしめる腕の力が強くなればなったで、全身で愛を伝えてくれているようで・・・。尊も、東堂の背中に腕をまわす。東堂にも尊の鼓動が伝わると、だんだんと重なる様になる。
東堂が落ち着いて来た頃、一番尊が気になっていた・・・
リストの事を聞いていた。
「・・・あ、あれは・・・。」
言いにくそうな顔を見せる東堂を、じっと見つめる。
今度は逸らされる事は無かった。
それだけで、尊も安心していられた。
「うん。聞かせて欲しい・・・。」
「・・・はぁ。」
観念した東堂は今度こそ全部、尊に話した・・・。
実の所、あのリストは自分の知らない所で尊が載っていたんじゃないのか不安になったから見ただけで、他に気になるΩがいた訳じゃない・・・と聞けばもう何も気にならなくなっていた。
こんなに自分が単純だったことに、尊自身も内心驚いていた。
それよりも、尊は東堂とくっついてる所から、チリチリと体の中に熱が灯る感じがさっきからして落ち着かなくなっていた。
「・・・尊、許して欲しい・・。」
話しをしている最中にも何度も許しを乞われたが・・・
・・・許すも何も・・・。全てが、自分を失いたくないからだと言われて仕舞えば、怒る理由がなかった。
だから、許すという代わりに、東堂の唇に尊からキスをする。
何度か、尊から繰り返しキスをすると、恐る恐る東堂が尊に舌を絡めてきた。
それが嬉しくて、東堂の首に尊の腕が回る。
病室内に、淫靡な水音がしはじめた頃、尊からいつも以上に濃い甘い香りが溢れ出る。
「え・・・?!!! み・・・尊!!! ここじゃ・・・だ、だめだ・・・・!! 」
尊から放たれた香りにあわてて、東堂はナースコールを押したが・・・
先生達が来る前に、尊から溢れ出たフェロモンに当てられ、意識を飛ばしてしまったのだった。
遠くで聞こえる鐘の音
グラスがベルの様に鳴る音
賑やかな音の中に自分がいる事はわかったが・・・
頭が重い・・・。尊・・・?
手を動かすと、何かが自分の手を握る。
楽しそうに笑う尊の声が聞ける。
その声に目を開けると、見知った顔がニヤニヤとやたらダラシない顔で自分を見下ろしていた。
・・・、なんだこれ・・・。なんで、こいつら・・・?
飛び込んできた状況に、脳が追いつかない・・・。
確か、俺は尊の・・・・。
頭を少し動かすと、誰かの膝が見える。
反対側を見上げるようとすると、尊が東堂の顔を覗き込んだ。
尊に膝枕をされた状態でソファに寝かされていたのだった。
そんな高雅を、みんなが囲みながら談笑していた。
「高雅・・・大丈夫か?」
額に乗せられた手の冷たさに、思わず目を瞑って堪能してしまう。
「ああ・・・。尊の手、冷たくて気持ちいい。」
思わず、口から出た言葉を尊よりも先に、拾われる。
「ほーーー。 みんなの前で惚気るとは、高雅も成長したもんだな〜。」
シャンパンを尊に注ぎながら、東堂を揶揄う。
「ちょ・・・、兄さん!! 揶揄ったら可哀想ですよ〜。」
「そーだぞ! あの高雅が、尊ちゃんのフェロモンに未だに照れちゃうとか・・・可愛いくって伯父さんはご祝儀奮発したくなったぞ〜!!」
「ちょ、雅さん。それ、一番揶揄ってるって・・・。」
伯父達に揶揄われた東堂の代わりに尊が返事をする。
「もー、皆さん! 笑い事じゃ無いんですから〜!!」
それでも、額に載せられた手は離れない。
東堂もその手を離さない。
そんな東堂に、人影と共に笑い声が重なる。
「あはは。そーだぞ!! そんな男、嫌になったらいつでもうちに、帰ってきていんだからな?」
「!?」
その言葉に、反射的に飛び起きていた。
「こ、高雅?! 大丈夫?」
急に飛び起きた東堂に尊はびっくりしつつも、片手に持ってたシャンパンは落さなかった。
「尊は返しませんよ!?」
尊の腰に抱きついて、声の主に東堂は慌てて主張する。
その様子に、尊が思わず吹き出してしまう。
それをきっかけに、その場に居たみんなが爆笑した。
その中でも、伯父さんは腹を抱えて笑っていたのが、視界に入った。
呆れた顔の尊のおじさんに「バーカ。返品不可に決まってんだろ。」と額を突っつかれた。
尊の腰に回した自分の手に・・・尊の手が重なる。
重なった手には、お揃いの指輪が嵌められていた。
ああ、そうだった。
今日は、俺と尊の結婚式か。
あの日と同じ様に、また俺は尊のフェロモンに当てられ倒れたらしい。
尊に全てを打ち明けた日。
救急隊に病院に運ばれてからの間、一度も抑制剤を飲んでいなかった俺は、同じ様に、抑制剤を飲んでいない尊が出した、Ωフェロモンに思いっきり当てられてしまった。
長年、抑制剤を服用していた反動で、ヒートになるよりも先に、意識が飛んだんじゃ無いかと駆けつけた先生に、後日尊と一緒に血液検査の結果と共に説明をされた。
尊は自分の検査結果以上に、一緒に説明をされた東堂の検査結果を聞いて、東堂を叱りつけたのだった。
それ以来、必要な時以外は抑制剤を飲むのを控えていたのだが・・・
この結婚式に向けて仕事を切り詰めていた上に、Ωの来賓も多くいた為 抑制を飲んでいたせいで、親族だけの二次会で気が抜けた瞬間に、尊のフェロモンに当てられしまったのだ。
あの時先生に言われたのは、「相性が良すぎる弊害だな。」だったが・・・
まさか、その弊害が一年経った今でも・・・
それも、自分の結婚式でも起きるとは・・・。
段々と意識がはっきりし、照れ臭くなった東堂と尊の視線が重なりあう。
「ふふ、あの日と同じだな。」
花が綻ぶ様に尊に微笑まれ、自分が感じていた事を言い当てられる。
「尊もそう思った?」
「もちろん。」
そう答えた尊に、笑みを返すとどちらともなく、唇が重なりあう。
そんな2人を、揶揄う人はその場にはいなかった。
そこに居るみんなが、2人の幸せを喜んでいた。
ともだちにシェアしよう!