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こっちを向いて。俺だけを見て。 1

  *  ある土曜日の昼下がり、約束していた友だちからドタキャンをくらってしまった。 『今から遊びに行っていい?』  暇を持て余して健人さんに連絡してみたら、即座に返事がきた。 『だめです』 『なんで?』 『理由は聞かないでください。今日はどうしても無理です。絶対に来ないでください』  俺はスマートフォンを見ながら唇を尖らせた。  ――珍しく返信が早いから嬉しいって思ったのに、断られた。健人さんが理由もなく俺の誘いを断るなんて、何かあった? まさか、浮気……なんてことはないと思うんだけど。うー、どうしよう。なんでだめなの?  気になって仕方ないので、こっそり家に行くことにした。  健人さんのアパートにたどりつき、インターフォンを鳴らす前にドアに耳を当ててみる。咳をするような音が聞こえる。話し声はしない。一人のようだ。  ――咳き込んでいるのが健人さんだとしたら心配だ!  インターフォンを鳴らすと、白い無地のTシャツとグレーのスウェットパンツを身につけた健人さんが、マスクをして出てきた。めったに見られないラフな姿にどきっとする。健人さんは、俺を見るなり、眉間にしわを寄せた。 「だめだと言ったでしょう? どうして来たんですか」  俺をにらんでくるが、全く覇気がなかった。開いたドアから体を滑り込ませ、玄関で健人さんと向き合う。 「心配だったから。健人さんが俺の誘いを理由なく断るなんて、そんなことないじゃん。絶対何かあったんだと思って」 「その自信はどこからくるんです?」  健人さんがため息をついた。 「風邪をひいたみたいです。だから断ったのに。こんなことなら、きちんと理由を明記しておけばよかった……」 「理由書いてあったら、当然お見舞いに来るよ!」 「はぁ。書いても書かなくても、ですか。君はそういう人ですよね……」  熱のためか、俺を見る目がうるんでいる。ドキドキする。 「病院に行った?」 「だるくて家から出ていません」 「熱は?」 「……まぁ、なくはないです」  健人さんが目をそらした。 「何度?」 「三十八度……」  俯いたまま、健人さんが呟く。 「は? 寝てなきゃダメじゃん!」  思わず出してしまった大きい声に、健人さんが弾かれるように顔を上げた。 「誰のせいでここにいると思って――!」  喉に負担がかかったせいか、健人さんが言葉の途中でげほげほと咳き込む。

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