4 / 87
こっちを向いて。俺だけを見て。 2
「ごめん。俺のせいだよね。具合悪いのに出てくれてありがと。欲しいものがあったら言って。俺、買ってくるよ」
俺が言うと、健人さんが再び俯いた。
「でも……」
「いいから。つらい時は頼ってよ。俺、そんなに頼りがいない?」
気遣うような瞳がこちらを向いた。
「では、甘えさせてもらいます。解熱剤とバニラアイスクリームが欲しいです」
「分かった。そういえば昼ご飯は? 食べた?」
「まだです。朝もヨーグルトしか……」
「固形物食べられそう?」
「分かりません」
「米炊いてある?」
「はい。昨日ほとんど手をつけていないのが炊飯器の中に」
「卵とネギは?」
「卵は冷蔵庫にありますよ。ネギはありません。……何か作るつもりですか?」
健人さんがまばたきを繰り返して俺を見る。
――「悠里って料理できるの?」っていう疑いの目だな、これは。普段はあんまりしないけど、一人暮らしを始めてから、少しはできるようになったんだ。
「雑炊作ろうと思って。俺だって、ご飯を鍋で煮るくらいできるもん」
頬を膨らませる。健人さんの目が優しげなものになった。
「悠里を疑ってるわけじゃありませんよ」
「じゃあ、さっきの目、何?」
「あれは、『悠里の手料理は、もっと元気な時に食べたかったな』です」
健人さんが俺をまっすぐ見つめてくるから、言葉に詰まる。顔が熱い。照れ隠しに、健人さんから目をそらした。
「料理って言えるようなものじゃないけど……。美味しく作れるように頑張るね」
「ありがとうございます。楽しみです」
「鍵貸して」
右手を差し出すと、健人さんが首を傾げた。
「買い物に行って戻ってくるから。健人さんは俺のこと気にしないで、それまでベッドで寝て待ってて」
「大丈夫ですよ。起きて待てます」
「だめ! ちゃんと寝てて」
思わず声を荒らげてしまった。健人さんがため息をつく。「本当はこんなタイミングで渡したくなかったのですが」と小さな声で呟いたあと、俺に向かって言った。
「少し待っていてください」
健人さんはなぜか、玄関横のフックにかけられている鍵を無視して、部屋に引っ込んだ。
ともだちにシェアしよう!