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こっちを向いて。俺だけを見て。 2

「ごめん。俺のせいだよね。具合悪いのに出てくれてありがと。欲しいものがあったら言って。俺、買ってくるよ」  俺が言うと、健人さんが再び俯いた。 「でも……」 「いいから。つらい時は頼ってよ。俺、そんなに頼りがいない?」  気遣うような瞳がこちらを向いた。 「では、甘えさせてもらいます。解熱剤とバニラアイスクリームが欲しいです」 「分かった。そういえば昼ご飯は? 食べた?」 「まだです。朝もヨーグルトしか……」 「固形物食べられそう?」 「分かりません」 「米炊いてある?」 「はい。昨日ほとんど手をつけていないのが炊飯器の中に」 「卵とネギは?」 「卵は冷蔵庫にありますよ。ネギはありません。……何か作るつもりですか?」  健人さんがまばたきを繰り返して俺を見る。  ――「悠里って料理できるの?」っていう疑いの目だな、これは。普段はあんまりしないけど、一人暮らしを始めてから、少しはできるようになったんだ。 「雑炊作ろうと思って。俺だって、ご飯を鍋で煮るくらいできるもん」  頬を膨らませる。健人さんの目が優しげなものになった。 「悠里を疑ってるわけじゃありませんよ」 「じゃあ、さっきの目、何?」 「あれは、『悠里の手料理は、もっと元気な時に食べたかったな』です」  健人さんが俺をまっすぐ見つめてくるから、言葉に詰まる。顔が熱い。照れ隠しに、健人さんから目をそらした。 「料理って言えるようなものじゃないけど……。美味しく作れるように頑張るね」 「ありがとうございます。楽しみです」 「鍵貸して」  右手を差し出すと、健人さんが首を傾げた。 「買い物に行って戻ってくるから。健人さんは俺のこと気にしないで、それまでベッドで寝て待ってて」 「大丈夫ですよ。起きて待てます」 「だめ! ちゃんと寝てて」  思わず声を荒らげてしまった。健人さんがため息をつく。「本当はこんなタイミングで渡したくなかったのですが」と小さな声で呟いたあと、俺に向かって言った。 「少し待っていてください」  健人さんはなぜか、玄関横のフックにかけられている鍵を無視して、部屋に引っ込んだ。

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