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嫉妬トライアングル 12
「悠里がもし奥田さんを選んだらどうしよう、と思ったら、一日、何も手につきませんでした。すみません。悠里を信じていたつもりなのに、疑ってしまっていました」
「俺も逆の立場だったら、きっと不安になるよ。だから、そこは謝らなくていい」
悠里の声は小さかったけれど、しっかりと僕の胸に響いた。
「ありがとうございます」
「俺も、姉ちゃんから告白されたこと、言わなくてごめん。俺たち二人の問題だし、健人さんに言って余計な心配させたくないって思ったんだ。隠しておこうと思ったのに、健人さんが知ってるどころか、姉ちゃんと一緒に飲み屋にいるんだもん。しかも、二人とも俺には内緒で。のけものにされたみたいで悲しくて、びっくりして、嫉妬して、訳分かんなくなったの。『大っ嫌い』って言ってごめん……」
落ち込んだ声を出すから、抱きしめてあげたく
なった。どうして今僕は、悠里の目の前にいないのだろう。
「悠里を悲しませてしまったのは僕なのに、謝ってくれるなんて、悠里は優しいですね。ああ、早く会いたいです。僕は悠里のことが好きです。大好きです。悠里がいないと、自分はこんなにダメになるんだと実感した一日でした。一人で呼吸することすら満足にできません。悠里、愛してます。悠里なしの人生なんて、考えられません。こんな僕ですが、まだ僕のそばにいてくれますか?」
「それは……」
悠里が言い淀むから、心臓が縮んだ。
「直接、面と向かって言ってほしかったな」
悠里の照れたような笑い声が耳をくすぐる。会いたい気持ちが爆発して、舌がもつれるくらい早口になってしまう。
「ゆ、悠里っ! 分かりました、今すぐ帰ります、同じことを悠里の目の前で言う、だから――」
「うん。待ってる。いつまでも待ってるから。ゆっくり気をつけて帰ってきてね」
「はいっ!」
「じゃ、一旦切るね」
「はい。なるべく早く帰ります」
「健人さん」
「はい」
「大好き」
僕の返事を待たずに電話が切れた。突然切られたのはさっきと同じなのに、こんなにも胸が温かい。
一歩ずつ地面を踏みしめる。歩いていたのが早足になり、やがて駆け足になった。
僕を待つ悠里の顔を思い浮かべると、元気がみなぎってくる。
一生一緒にいてください。君を愛しています。
そう伝えるために、僕は悠里に会いに行く。息があがり、苦しいはずなのに、それを感じないくらい僕は喜びに満ちあふれていた。
(「嫉妬トライアングル」了)
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