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酒+シャンプー+ワイシャツ=愛 10
「悠里」
思わず名前を呼ぶと、悠里が僕に合わせてしゃがんだ気配がした。悠里から僕と同じ匂いがする。何度経験しても新鮮な驚きとときめきがある。全く慣れない。
「何? 健人さん」
顔を上げる。床に膝をついた悠里が、僕のすぐそばで穏やかに微笑んでいた。これを幸せと呼ばずになんと呼ぶだろう。
「好きです、悠里。出会ってから何年経っても、ずっと好き。それどころか、時間が経つにつれて、悠里への愛が増していきます。悠里に何をされても、僕は許してしまいますし、逆に僕が何かしてしまっても、悠里は許してくれます。悠里の前では、僕は僕のままでいられる気がする。悠里に出会えなかったら、僕は一生こんな気持ちを味わえなかったのですね」
悠里が黙って僕の背中に手を回してきた。いつものように甘える感じではなく、「大丈夫だよ」と励ますような力強さを感じた。
「俺も」
悠里の言葉は短かったけれど、抱きしめられている全身が熱いくらいにあたたかいから、それだけで充分だった。
※
どれくらい抱き合っていただろう。悠里のお腹が鳴って、僕たちはどちらからともなく離れた。悠里がはにかんでいるのを見て、頬が緩んだ。
「悠里がお風呂に入っている間に、朝食を作ったんです。塩むすびと味噌汁ですが、食べられそうですか?」
「ありがとう。健人さんの料理なら、いつでも食べたいし、何でも好き」
にっこりと微笑まれた。僕もつられて笑いながら、悠里をからかう。
「好きなのは料理だけ?」
「もちろん、健人さんのことも好きだよ。全部、大好き」
悠里がガバッと抱きついてくる。今度は甘えるように。その勢いの良さに、昔飼っていた愛犬みやこを思い出す。シャンプーの匂いが鼻をかすめる。
痛いほど動悸が激しくなった。
――悠里には敵わない。好きで、好きで、好きだ。
「僕も」
僕の愛が全部伝わりますようにと願って、ありったけの力で悠里を抱きしめ返した。
(「酒+シャンプー+ワイシャツ=愛」了)
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