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第3話

 それから、俺とゴウキはあの公園のベンチに集まるようになった。 そして毎日、二人でゴウキお勧めのエッチな動画を見るのだ。イヤホンを半分こして、小さな画面を二人で覗き込みながら。 ≪っはぁん。ね。はやく、意地悪しないで、早くその大っきいの、いれてぇっ≫  今日も今日とてハラムさんは、とてもエッチだ。 それに、物凄く気持ち良さそう。 「はぁぁ。すごいなぁ、ハラムさん」 「あぁ、やべぇよな。この場面」  俺達二人は、終始ハラムさんに目を奪われ続ける。 そこに映るのは、ピンと腰だけ突き上げながら、両手でお尻をガバリと左右に広げるハラムさんの姿。スマホ画面に容赦なく映り込むハラムさんの艶のあるお尻に、俺は思わずため息が零らした。 「はぁっ、いいなぁっ。ハラムさんのお尻」 「あぁ、やべぇよな。この極上のケツマンコ。マジで最高峰」 「うんうん!俺も思う!」 最近、毎日ハラムさんを見ているせいか、「俺もこんなお尻になれたらなぁ」って、よく思う。 だから、風呂の時、俺は体のどの部分よりも丁寧に洗うようにしている。 「はぁっ、こんなケツに挿れてみてぇなぁ」 隣でしみじみと頷くゴウキも、きっと俺と同じでハラムさんのお尻に憧れているようだ。俺はチラと横目に、ベンチに腰掛けるゴウキのお尻を見てみた。ちょっと、ゴウキのお尻は固そうだ。 「俺、やっぱりハラムさんが一番好きだ!」 「別格だもんなぁ、あの人」 「あ!でも、タチだと好きな人が何人か出来たよ」 「誰だよ」  俺が足をブラブラさせながら言うと、ゴウキが勢いよく尋ねてきた。 「不義さんと、仇事さんと、あと……」 「お前、タチは誰でもいいんだな」 「誰でもは良くない!ハラムさんが小さいから、体の大きな人が良いんだ!自由を奪われてる感じが……イイなぁって思う」 「へぇ?」 「ほら!一昨日見せてもらったヤツでさ?不義さんがハラムさんを後ろから抱きしめて、ベッドに抑え込んでるのがあったじゃん!俺、アレ好きだなぁ」 「あぁ、あれか……お前、分かってんじゃねぇか」  出た。ゴウキからの「分かってんじゃねぇか」。 俺はゴウキからそう言われるのが好きだ。だって、それを言う時、ゴウキは必ず俺の頭を撫でてくれるから。 「ふへへ」 「ったく、ヘンな笑い方」 今も撫でてくれている。嬉しい。 「じゃあさ!ゴウキはタチでは誰が好き?」 「……え?タチで?あんまそう言う目線で見た事ねぇからな」 「じゃあ、今度!俺がゴウキにタチの選び方を教えてやるな!」 「はぁ?なんだソレ」  そうやって笑いながら俺の頭を撫でてくれるゴウキは、十四歳なのに物凄く大人っぽい。俺はゴウキより二歳も年上なのに、一緒に居ると何故か年下みたいな気分になってしまう。 きっとAVの事を、色々教えてくれるからだ。だから、俺もゴウキにタチの事を教えて、少しは大人っぽくなりたい。 「つーかさ、あられ」 「なに?」 「お前も、コッチなの?」 「コッチって?」 「……ゲイなのかってこと」  ゴウキが先程までとは違って、物凄く気まずそうな顔で尋ねてくる。しかも、全然目を合わせてくれない。  撫でてくれていた手も、今じゃ両手を合わせて握り締めている。 「えっと、それは男の人が好きなのかって事?」 「そうだよ」 「うーん。あんまりちゃんと考えた事ないから分かんないけど、俺は多分女の子が好きだと思う」 「……」 「ゴウキは?」 「……俺、もう塾だから」  ゴウキは自分が聞いて来たくせに、俺から目を逸らしたままスマホを鞄に仕舞った。耳に入っていたイヤホンもスルリと抜き取られる。 「ゴウキ?」 「じゃ」  いつもなら「またな」って言ってくれるのに、その時のゴウキは「またな」って言ってくれなかった。そんなゴウキの後ろ姿が、なんだか凄く嫌で、俺はゴウキに向かって叫んだ。 「ゴウキー!また明日―!」  ゴウキはいつもと同じで、こちらを振り返らない。でも、いつもと違って片手も上げてくれない。それが何となく嫌で、俺はもっと叫んだ。 「俺、女の人も好きだけど、ゴウキも好きだよー!また、明日―!」  もう一度、最後に「また明日」をくっつける。だって、俺とゴウキを繋げる糸は、この約束しかない。 「ゴウキーーーー!」 「あぁぁっもう!分かったっつーの!」  俺がもう一度名前を呼ぶと、ゴウキはいつもと違って此方を振り返ってくれた。少し顔が赤い気がするのは、夕日のせいだろうか。 「また、明日―!」  俺がもう一度ダメ押しで叫ぶと、今度こそゴウキはいつものように片腕を上げて返事をしてくれた。  それが嬉しくて、やっぱり俺はゴウキの背中が見えなくなるまで、その後ろ影を見送っていた。

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