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第1章 4

「そうですけど……」 「やっぱり!いやー……どうでした?俺、誰ともマッチしなくて」  その青年は顔をクシャっと綻ばせて頭を掻いたが、その姿と発言に、幸村は違和感を覚えていた。なぜなら、街コンの参加資格は23歳以上の社会人な上に、見た目のいい彼が誰ともマッチングしないとは思えなかったからだ。幸村が押し黙っていると、彼はヘラヘラと笑いながら首を傾げる。 「え?俺の顔、何かついてます?」 「いや……あの、ほんとにさっきの街コンにいたんですか?」 「いましたよ。お兄さんの隣のテーブルだったかなー」 「……失礼ですけど、年齢は?」 「年?24ですけど、何で?」 「24?いや、随分若く見えるから、学生は参加できないはずだと思って……。すいません」  幸村が謝ると、彼は一層顔をクシャクシャにして笑い出した。 「あはは、お兄さん面白いな。真面目なんすね」  弾んだ声でそう言うと、幸村の肩にポンと手を掛ける。 「暇ならこの後どっかいきませんか。見たところお兄さんも1人みたいだし、若く見てくれたお礼に1杯奢りますよ」  土曜日の夕方ということもあって、たくさんの居酒屋が並ぶその通りは、ほろ酔いの若者やしつこく声を掛けてくるキャッチで混雑していた。夏野(なつの)と名乗るその青年は慣れた様子で人混みの中を歩き、迷うことなく1軒の店に入っていった。 「ギリギリ間に合いましたねー。土曜この時間までハッピーアワーやってんの少ないんすけど、ここは飯がまずいんで穴場なんすよ」  狭くて小汚い店だったが、それでも店内はほぼ満席だった。やる気のなさそうな店員に案内されて席に着くと、夏野は流れるように生ビールを2つ注文する。 「あ、ビールでよかったですか?ハイボールも安いけど」 「いや、ビールで」 「うい。じゃあ、1杯目だけ俺の奢りね」  周りを見回すと、客の多くは中年男性で、女性がいたとしても男女の団体客だった。今どきの若者といった感じの夏野に付いて来れば、あわよくば……そんなことを考えていた幸村は小さくため息をつく。 「え?何でため息?」 「そりゃ、だって……せっかくの休みにわざわざ出てきたのに、友達だけマッチングして俺は取り残されるし、挙句の果てに男2人でこんなシケた居酒屋なんて……」  目の前でため息をつく幸村自身も失礼だが、それをすぐに指摘してくる夏野も失礼だと思い、遠慮なく本音を口にした。それを聞いた夏野は大きな声で笑う。  よく笑うやつだな、そう思っていたところにビールが運ばれてきた。 「じゃあ、何で付いてきたんだよ。幸村さんほんと面白いな。まぁ、飲んで飲んで。2軒目はもうちょいマシなとこ案内するからさ。パーッといこうよ。はい、乾杯っ」 「2軒目?そこまで付き合うなんて言ってないけど」  渋々掲げたジョッキがカチッとぶつかる鈍い音が聞こえる。  ――まぁ、たまには会社の人間以外と飲むのも悪くないか。  不平を口にしながらも、明るい笑顔に感化されて、気付けばそんなことを考えてしまう。ぐっと流し込んだ冷たいビールは、喉の奥でパチパチと弾けてこの奇妙な出会いを歓迎した。

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