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第2章 4
人の話し声が聞こえてきて、幸村は目を覚ました。土曜日の昼のワイドショーを見ながら、夏野が笑っているのが目に入る。
「おい、夏野……」
「あ、幸村さん、おはよ。腹減ったんだけど」
うるさいと文句を言う前にそう言われ、幸村は短くため息をつく。
「お前が昨日シュークリーム食ったから何もねぇよ。自分で何か買って来いよ」
「幸村さんに出してもらった物しか食わない」
「お前なぁ……」
やれやれと言いながら体を起こした幸村はあることに思い至って動きを止めた。
「夏野。土日くらいペットやめたら?」
「そんな都合のいいペットがいるかよ。幸村さんは命を預かる心構えが……」
「じゃあ、俺は今から外で飯食ってくるけどお前は家にいるんだな?」
夏野は丸い目をさらに丸く大きく見開いて「えっ」と小さく呟いたまま固まった。
「昼間っから酒でも飲みに行こっかな。夏野はペットだから当然アルコールなんて無理だよな」
口をへの字に曲げて、目で何かを訴える夏野に対して、幸村は笑顔でその頭をポンポンと撫でた。
「変な意地張るなよ。何でペットにこだわるのかわかんねぇけど、土日くらい普通に夏野として付き合ってよ」
「……土日だけだからな。あと触んな」
頭に乗せられた手を振りほどくように、夏野はプイッとそっぽを向いた。
「イエーイ!乾杯っ」
満面の笑みでジョッキを掲げる夏野に合わせて、幸村もそれを持ち上げる。2人は昼から営業している近所の居酒屋に来ていた。
「あー、酒飲むの久しぶりすぎる。最高!幸村さんありがとう!」
「そんなに?うちに来る前はどんだけ飲んでたんだよ」
「ほぼ毎日」
そう言うと夏野は照れくさそうに笑った。相変わらずダメな奴だな、幸村はそう思い呆れながらも優しい笑顔を浮かべた。
「しょうがないな……。じゃあ、家にある酒飲んでもいいよ。アル中にならない程度にな」
家には納会の余りや取引先から貰ったビールやワインがあるはずだ。甘やかしすぎだとは感じながらも、いつの間にか、もっと頼りにされたいと思ってしまっていた。しかし、夏野は困ったような表情で首を横に振る。
「いやぁ……酒飲みのペットなんていらないでしょ」
せっかく掛けてやった言葉を突き返され、幸村はムッとした表情を浮かべる。
「いらないも何も、俺が飼いたいのはお前じゃなくて猫なんだけど。何でそんなにペットになりたがるんだよ」
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