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第2章 3

 幸村がシャワーを浴びてから部屋に戻ると、シュークリームを食べ終えた夏野がぼんやりとテレビを眺めていた。 「夏野、風呂は?」 「入ってない」 「……早く入れよ。俺、先に寝るから電気消すけど」  夏野は嫌そうに幸村を一瞥してから、テレビを消して立ち上がった。風呂場からシャワーの音が聞こえるのを確認してから、幸村は折り畳み式のローテーブルを片付けて来客用の布団を敷いてやる。そうしてやらなければ、夏野はブランケットにくるまってそのまま床で寝てしまうのだ。部屋の電気を消してベッドに横になると、酔っていることもあってすぐに眠りに落ちた。 「幸村さん」  揺り起こされて目を開ける。それなりの時間が経ったように思えたが、顔を覗き込む夏野の髪が濡れているのが見えて、まだ10分ほどしか眠っていないのだと察する。 「何?布団なら敷いたけど」 「俺もこっちで寝る。あと髪乾かして」 「……はぁ?何でだよ」  眠い目を擦りながら上半身を起こすと、夏野がその隣に腰掛けてドライヤーを手渡してきた。拒絶しても睡眠時間を削るだけだと判断した幸村は、何も言わずに髪を乾かし始める。  ――猫っ毛って言うけど、本物の猫にどれくらい似てるんだろ。夏野は見た目も中身も猫みたいだな。  色素の薄い柔らかな髪に触れながら、そんなことを考える。空腹で不機嫌になったり、気まぐれに甘えたりする様子は、幸村が想像していた猫の性格に近いものがある。 「乾いたよ」 「ありがと」  幸村がコードをまとめたドライヤーをサイドチェストに置くと、夏野はそのまま横になった。 「ほんとにここで寝るなら枕くらい持って来いよ」  思わずそう呟くと、むくりと体を起こした夏野が枕を取りに行く。  ――しまった。ここで寝ることを許可したようなもんじゃねぇか。  枕を持って戻ってきた夏野は、ベッドの脇で一度立ち止まり、幸村を見下ろして鼻で笑ってから再び横になった。 「夏野、今何で笑ったんだよ」 「ん?別に。思い通りになったのが嬉しくて」 「なんだよ、それ。ムカつくな」  言い争うのも面倒になった幸村がその隣に体を倒すと、夏野はクスクスと楽しそうに笑った。 「幸村さん。帰ってきてくれてありがと」 「……俺の家なんだから当たり前だろ」 「それでも嬉しかった。おやすみ。また明日」  突然の素直な発言に面食らっていると、スースーという心地よさそうな寝息が聞こえ始めた。 「あぁ、また明日」  柔らかな髪を撫でながら、言葉を話す大きな猫の夢が見られますように、と願って目を閉じた。

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