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第1話
『叔母の美津子 が部屋で死んでいた 。美津子が死亡したその部屋には、鍵がかかっていたので、いわゆる密室殺人として捜査された。第一発見者はハウスキーパーの結城 だ。美津子は世話焼き、噂好きなため、周りから煙たがられていたが、娘の陽子 と亜希子 、ハウスキーパーの結城の三人はいつも美津子のそばにいた。何故なら、三人は美津子から大金を渡されていたからだと言われている。美津子が亡くなり、三人が容疑者となったが、このうちの誰が美津子を殺したのだろうか…』
「どうだわかるか?誰だと思う?犯人は」
「このハウスキーパーが一番怪しいですよ。だって、第一発見者なんですよね?」
「いや、こいつはそんな悪いことはしない。いい奴なんだよ。勝手に殺人者にするなよ」
「そんなの先生の匙加減 ですよね?」
高山 千輝 は今、ミステリー作家の十和田 大誠 の家に住み込みでハウスキーパーをしている。
ミステリー作家の十和田は、自分が書いた原稿を読み上げて誰が犯人かわかるかと、千輝に聞いていた。千輝は洗濯物を畳みながら、話を聞いている。
「いいか、千輝よく聞けよ」
十和田に言われ、こくこくと千輝は頷く。
『3人とも容疑者となるが、このうちアリバイがあるのが、陽子と亜希子だ。陽子は美津子の死亡推定時刻には、デパートで友達とランチをしているのが確認出来ている。亜希子は、トレーニングジムのインストラクターで、その時間はジムでクラスを受け持っていた。 結城はハウスキーパーであるため、いつも美津子と同じ家にいる。その日もいて、第一発見者となった』
「ほら、先生やっぱりハウスキーパーですよ、犯人は。結城と美津子しか家にいなかったんですから」
「結城が犯人だったらトリックは簡単過ぎるだろ。だから、違う。それにこいつはそんな悪い奴じゃないんだって。誰にしよっかな。うーん仕方ない、じゃあ犯人は陽子にするか。面倒だし」
「また…そんな感じで犯人を適当に決めていいんですか?担当さんに言われますよ?」
「いいよ。トリックで何とでもなるんだし。だいたい金持っている婆さんが殺されたっていうんなら殺人動機はそりゃ金だろ?だからまぁいいだろ、娘が犯人で」
千輝が十和田の家で住み込みのハウスキーパーをしているのには理由があった。
千輝は、長年の夢であるカフェを開業しようとしていた。コーヒーショップやカフェで修行をし、開業するに必要な資格も取り、お金を貯めていたが、その時一緒に暮らしていた元彼に有り金全てを持ち逃げされてしまった。
お金を返してもらおうと元彼を探し出したが、その彼の隣には既に新しい女がいて、千輝はその女に因縁をつけられた。
因縁をつけられた理由は、男の千輝と元彼が付き合っていたことが許せなかったのだと思う。
とにかく開業資金だけは返して欲しいと千輝は言うが、女は聞く耳を持たず、持っていたハンドバッグで千輝を殴りにかかってきた。
そこに、たまたま近くにいた十和田が喧嘩の仲裁に入り千輝を庇ったが、女のバッグの金具が十和田の腕に当たり6針縫う怪我をさせてしまった。
慌てた千輝は救急車を呼び、十和田と一緒に病院に行ったが、女との言い合いの一部始終を見ていた十和田から、話のネタになるから初めから喧嘩の内容を教えろと言われた。
十和田と病院を出てたところで、揉めていた内容を掻い摘んで教えたら、ニヤニヤと笑いながら「男を見る目がないな」と言われてムッとしたのを覚えている。
その後、千輝の自宅にはまたあの女がいるかもしれないから、一緒に行ってやると言われ腕を負傷した十和田と帰ることになった。恐らく、この時の十和田は相当ワクワクしていたと思う。ワクワクする態度が顔にも身体にも出ていて、デリカシーが無い人だと思った。
自宅に帰ると家具も服も一切なく、がらんとしている。元彼に全てを持ち逃げされていた。
部屋の真ん中に、ぽつんとひとつ箱が置いてあり『千輝へ』と書いてある。
何だろうと開いてみたら、バイブとディルドと元彼からの手紙が入っていた。
手紙には「お前の荷物はこれだけだろ」と
書いてあり絶句する。こんな酷い仕打ちを何故、受けなければならないのだろうか。
着るものもお金も、何も無くなった千輝を、十和田は無神経にも大爆笑していた。
だが、そのまま千輝を自分の家に連れて行き、ハウスキーパーとして雇うと言い出した。
どれもこれも数週間前の話であり、作り話であって欲しいが実話である。
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