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第10話
十和田のバイクでアパートまで帰ってきた。相変わらず、アパートでの家事全般は十和田がやっている。何をどこで食料も日用品も調達しているのか、十和田任せなので全くわからなかったことに気がつく。
「大誠さん、何から何までありがとうございます。家での食事も全部やってくれてるでしょ。いつの間にか買い物も済ませてくれてるし。掃除も洗濯も…家に帰ると疲れちゃってて、いつもすいません」
「店をオープンさせたし、最初は大変だろ。慣れるまで無理するなよ。俺には時間も金もあるからよ」
はははと、十和田は笑って食器を洗っている。
そして、いつものように就寝となる。
ここはワンルームのアパートなので、十和田の家のように部屋がたくさんあるわけではない。
ご飯を食べるのも、寛ぐのも、寝るのも全て同じ部屋となる。十和田が布団を敷き、電気を消して就寝となる。
が、最近この後が変わってきた。
「じゃ、寝るか。明日は休みだろ?いつも通りの時間に起こしていいのか?」と、十和田は言いながら電気を消している。
うん、と答えた千輝は既に布団に入っている。その横から十和田が入り込んでくる。これもいつも通りだ。
電気が消えた暗い部屋の中、目が慣れるまで周りは見えない。隣の気配と狭い布団の中でぶつかる身体を感じる。
背を向けて寝ている後ろから十和田は入り込んできて、千輝を抱きしめる。スルッと首の下に腕を入れギュッと抱きしめてくる。
もう少しすると、名前を呼ばれ十和田の胸に埋もれるように向き直され、抱きしめられるようになるのを、千輝は知っている。
十和田の家にいた時も、抱きしめ合いながらベッドで寝ていた。あの時はお互いの話が尽きず、顔を見ながら次から次へと毎日何かを吸収し合うように話をしていた。千輝のおでこに唇を乗せながら十和田は笑い、時に真剣に話を聞いてくれた。
だけど今は、布団に入ってからの会話はなく、その代わりキスをするようになった。
「千輝…」
名を呼ばれることが、合図になり十和田の方に向き直る。十和田は暗闇の中でも千輝の唇の場所はわかるようだ。
十和田の唇は千輝の唇を捕える。
唇を離さない長く途切れないキスが続く。
カフェに迎えに来る時も、家で寛いでいる時もそんな素振りは見せないくせに、夜になり暗闇の中ではキスをしてくる。
頬や頭を撫で小さなキスを繰り返し、きつく抱きしめ、ため息が溢れるくらい長く熱いキスをも繰り返す。
好きだと言われたこともなく、キスをしていいかと問われたこともなく、ただ毎日唇が重なる音と吐息だけを暗い部屋に響かせている。
十和田がどんな気持ちでキスをしてくるのかは聞いたことがない。
急に人が恋しくなったり、スキンシップを取りたくなってしているのかもしれない。
小説を書くためのネタと言われたらショックだ。そんな答えを聞くことになるのであれば、今のままでいい。
恋愛は面倒だという男だ。
恋愛関係にはならない。
恋人でもなく、友人にしたら距離が近すぎる。千輝の気持ちは膨らんでいく一方、十和田の気持ちはわからない。
生殺しのような状態だった。
だけど、大切にされていると錯覚してしまうほど、優しく撫でられ扱われている。
だからこのままでいいと思ってしまう。
十和田が好きだ。
はっきりと確信できている。
毎日どうしようもなく惹かれていく。
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