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第11話

季節が深くなり変わっていく。 雨が多く降る季節になっていた。 この時期は、ひと雨ごとに寒くなるという。 「ひーっ、今日は疲れた。最近ランチボックス多く出ますよね」 「おつかれさま。本当、暁斗くんの提案でやって良かったよ。毎日完売してるし、かなり売り上げ貢献してるね」 ランチの時間帯に販売しているテイクアウト用のランチボックスが好調だった。 いつものパン屋さんにお願いして、ランチボックスのパンを追加注文していた。 店では丸いパンをくり抜き、その中にクラムチャウダーを入れて提供しているが、ランチボックスはクラムチャウダーとパンをセットで販売しており、毎日、日替わりのパンを出している。 そのパンの形が可愛らしく、動物の形などもあり、これがまた女性たちから好評でSNSにも頻繁にアップされるようになっていた。 「そろそろ、人を雇うかな…三人では限界になってきたかもね」 「そうっすね…キッチンはひとりいますよ。紹介出来るので言ってください」 簾が以前カフェで一緒に働いていた人がいると言う。 「ホールやれる人も俺の知り合いでいますよ。やっぱり経験者がいいですよ。あ、雑誌の撮影っていつでしたっけ?」 この辺のレストランやカフェ特集を組みたいので取材させて欲しいと依頼があった。 「次の定休日だよね。そこに合わせて取材と撮影するから、ごめん、その日だけちょっと出勤してくれる?」 いいっすよと二人から声が上がった。雑誌の撮影なんて緊張すると言いながら、二人ともワクワクしているようだった。 雑誌に乗ったらまた忙しくなるだろうから、すぐに人を雇う調整をしようと思う。 店じまいをしていたら十和田が迎えに来た。雨が降っているので車だった。 「大誠さんだ、今日は車か…さすが車も高級車。すげえ車乗ってるな、やっぱり」 簾が楽しそうな声を出して外に停めてある車を眺めて呟いていた。 よお!と入ってきた十和田の姿を見て、千輝はドキッとした。 「えっ!大誠さん、スーツじゃん。カッコいい、今日は何かあったの?」 暁斗が驚いたようで大きな声を出していた。 「ああ…ちょっと着替える時間がなくてそのまま来たからな」 以前パーティーの時に着ていたスーツを着ている。何も聞いていないが、今日はまた出版社で何かあったのだろうか。千輝は何故か胸がチクッと痛くなった。 「じゃあ帰るか」 そう言って十和田は助手席に千輝を乗せ運転している。 「大誠さん、今日何かあったの?」 微かに甘い香水の匂いが車のシートから感じられる。千輝は声の震えを抑えながら聞いた。 「ああ、今日は見合いがあった。渋滞にはまったから、着替える時間がなくてな、このまま迎えに来た」 雨が強く降り始めた。 ここ最近は天気が悪く雨が続くという。

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