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第1話
自慢じゃないけど、ほんの幼い時から、大人たちに、可愛いだの天使みたいだの、神童だのと、持て囃されてきた。
何をやってもそれなりに出来てしまい、ことピアノに関しては、まさに天才!そう言われていた。
天才? それが何? 好きでやってるだけ。
頭の中でいつも音が鳴り響いてるだけなんだ。
だんだんといろいろなことに興味がなくなり、世界が色褪せていく。
大好きだったピアノもお座なり。頭の中で音が鳴らなくなった。しん……と、静まり返った世界。
齢八歳にして、僕は世を儚なんでいた。
そんな時だった。
僕の家にやってきた、新しい命。
ぷにぷにと柔らかい白い肌。光輝く金色の髪。
まだ見えぬブルーの瞳を、ぱちりと開け僕を見つめる。
本当に天使のようだ。
きらきらと世界が輝きを取り戻す。音楽が頭の中で洪水のように押し寄せてくる。
僕は ── 音を取り戻したんだ。
そう、アイツは言った。
それこそ、きらきらと瞳を輝かせながら。
俺にとって、天使は、そんな見も知らぬ赤ん坊などではなく── アイツの方だった。
**
俺がアイツに出逢ったのは、聖愛 学園初等部の二年生の時。
いや、それはちょっと語弊があるかも知れない。俺は幼稚舎の時から、アイツを知っていた。一方的に見ていた。
上流階級の子女ばかりいる学園とはいえ、子どもの本質なんて、他とそうそう変わりはしない。
そんな中で、彼はなんとなく、異質だった。
そう思っていたのは、俺だけかも知れない。
入園式の児童の中にいて、頭ひとつ分出ていた。
この歳で、とにかく整った顔をしていた。白い頬をふんわりと隠す、茶色い髪。可愛いというよりは、綺麗。
綺麗といっても、女の子っぽいわけではない。性別を感じさせない、それどころか人間らしさも感じさせない。
天使のような子 ── とは、こういう子のことをいうのではないかと、俺はその時思った。
それから三年間は、同じクラスになってもいないのに、やけに彼が眼に入ってきた。
外で遊んでいる時。廊下で。学年での集会。
何処にいても目立つ。
はしゃぎすぎることもなく、怒ることも、泣くこともない。
いつでも、柔らかな笑顔で、柔らかに話す。
── 異質だろ?この年齢の子どもで、ありえないだろ?
**
ただ見ているだけで、何も知らない。
そして、四年目の春。
初めて同じクラスになった。
名前は、柑柰 天音 。
カンナ交響楽団 というところの創立者の息子らしいが、あいにく俺はその辺には明るくない。
クラスの中には、ピアノなど音楽系の習い事をしてる者が多く、天音が幼稚舎の頃から天才と呼ばれていることを噂していた。
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