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第2話

 クラスになんとなく馴染んできた五月。ゴールデンウィークが明けた週の金曜日。  ここ数日、昼休みの教室に天音はいない。いつもクラスメイトたちに囲まれているのに。  俺は特に心当たりがあるわけでもなく、探しに行く。別に見つからなくてもいい。宝探しのような気持ちだ。  最初に気がついた日、珍しいなと思った。それが翌日もとなると、気になって探し始めた。見つからないまま、昼休みが終わる直前に教室に戻ると、アイツはもう席に着いていた。  本気で探していたわけじゃないし、がっかりもしない。  探し初めて三日目。それまで探したことのない特別教室の建物へ行く。ここは、初等部から高等部までが共通で使用する。  しんと静まり返った廊下に、ポロンポロン……とピアノの音。  幾つも並ぶ音楽室のひとつから、その音は聞こえてきた。  ドアの上部の小窓には届かず、そっとドアを引いて覗く。  ピアノの前に座っているのは天音だった。  楽譜を見ているわけでもない、無気力そうな顔で、指だけが機械的に動いている。  ゼンマイ仕掛けの人形のようにギシギシ音がしそうで、何処か不気味だった。  見てはいけないものを見たような気がしているのに、足は勝手に近づいて行く。  ──── そうだ。アイツ、たまにこういう時ある…… 。  そう思っていると、俺に気がついたのか顔を上げた。  眼が合って……条件反射のように、彼はにっこりと笑い……。  でも。すぐにはっとした顔をする。 「桂川(かつらがわ)くん……」  何か言いたげに口を開くが、その時休み時間終了のチャイムが鳴った。  ガタッと立ち上がり、 「放課後、ちょっと話あるから!」  と言うなり、俺の腕を引っ張って教室を出た。  ──── こんな大声が出るんだ。  焦ったような、ちょっと尖った声。  俺はそんなことを考えながら、天音に腕を取られたまま、教室へと走った。 **  帰りの学活が終わり「さよなら」の挨拶が済むと、俺は天音の言ったことなど忘れ、さっさと昇降口へと向かう。  靴を履き替え、敷地内にあるお迎え専用の駐車場へと、ゆっくりと歩く。ここでは寮住まいではない者のほとんどが、車で送迎されている。 「待って! 桂川くん!」  後ろから高い声が追いかけて来ると思ったら、あっと言う間に近寄って俺の腕を掴む。  天音だ。物凄い形相をしている。  呆気に取られていると、俺は再び彼に引き摺られて行った。  連れて行かれた先は、“聖愛の森”。  学園の敷地内にある、どの建物からも遠く離れている。木々が鬱蒼と繁り、道らしい道もない。お上品なお子さまたちは、誰も行きたがらない、そんな場所。     

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